第58話吉田郡山城
毛利軍は四方から攻め寄せる今川軍によって、各個撃破されるかたちとなった。
相当数の被害を受けて、石見からも撤退を開始。
あっちこっちで負け戦を繰り返していた。
「殿、見えてきましたぞ。すでに
「見てくだされ、相当数が集まっていますぞ」
今川軍が総攻撃をかけている最中だった。
爆破音が聞こえてくる。その方向を見るとモクモクと黒い煙が立ち昇ってゆく。
どちらの攻撃なのか分からない。
またも爆発音が響いて煙が立ち昇った。
どうやら俺達が最後の軍勢のようだ。
吉田郡山城を、埋め尽くす程の今川軍の旗がなびいていた。
どれもこれも知っている旗だ。
「殿、門が開き毛利が打って出てきましたが、中々の戦い振りですね」
「毛利も必死なようだな」
「こちら側にも被害が多いと思いますが・・・」
「毛利も引き時だ。もうすぐ引き返すだろう」
「本当に帰りました。殿には何が見えるのですか?」
「・・・・・・」
そんなの言う訳が無いだろう。このバカチンが・・・
それにしても、もう一方の道ではどんな戦いをしているのか、上空を飛ぶ鳥の目を通して見た。
向こうも同じような展開だ。
あ!!あんな所に毛利が待ち伏せをしている。何処かに抜け道でもあるのか・・・
あ!あ!あ!、岩を落とされて被害が半端無いぞ。
あんな岩が転げ落ちては、たまった物でないな。
そして思い出した。
山田のおっさんが言っていた毛利の強さ、このような戦いのことを言っていたのか・・・
24年前の吉田郡山城の戦いで、3万の
「殿、裏山をこっそりと
「そうなのか?」
鳥を向かわせると、やはり待ち伏せされている。
長照は、その待ち伏せに全然気付いていない。
あれだと両方から攻撃されて、防ぐ物も無い状態で
早く逃げないと被害だけが増えるだけだ。
鳥を隠れてる付近で旋回させながら、「キィーー、キィーー」と鳴かせてみた。
やっと気付いたようで、毛利の矢が飛んできて当たるところだった。
長照らは引き上げて行くが、それなりの被害が出ている。
撤退する何人かは、崖下へ真っ逆さまに落ちていた。
散々な1日が終わった。
今日は、今川の負けだった。
陣中で、俺はかがり火を見ていた。
作戦会議ではよい案がでなく、静まり返っている。
俺は今回の討伐ではオブザーバー的な立場だ。
何故なら、太原雪斎から見守っているだけでいいと言われている。
太原雪斎も思うものがあるのだろう。
そんな陣中に、いきなり松平元康が入ってきた。
皆が、一斉に松平元康を見て驚いていた。
ただ1人、俺だけが知っていた。
「しけた
それぞれの顔を見てゆく。
黙って下を見る者や、悔しそうにそっぽを向く者もいる。
1時間も話し込んだ後に、解散になった。
皆、思い思いな顔で出て行った。
朝日が昇ると同時に、吉田郡山城へ幼さが残る
まだ16歳だが元服して大人として扱われいるのだ。
たしか松平元康に見出され、小姓として使えていたのに・・・
なんだか、可哀相な気がする。なぜか勝山城のことを思い出してしまう。
それなのに松平元康は、こんな若者を殺さないだろうと思っているのだろう。
今川勢は、まんじりと吉田郡山城を眺めていた。
13時が過ぎようとした時に、門が開門して榊原康政が2人の男を連れて戻って来た。
「
「あいわかり申した」
今川の陣中では、ホッとため息がもれた。
昨日の話し合いで、今回の討伐に対しての褒美の所領が言いわたされた。
なので、もう戦う矛先は別の所に向かっていたのだ。
九州の半分近くが討伐されるかたちとなった。
それに向けて今川軍は、戦闘のモードが切り替わっていた。
毛利家は、その4国のどれかに移動が決まっている。
その為に、全力で戦う使命をおびていた。
それが
それに手柄しだいで、所領がどう変わるかが決まるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます