第46話相模侵攻への準備




薩摩国では、1つのことで下級武士内でも議論がたえなかった。

そして、そのことでケンカまで起きていた。


「よさぬか、ケンカで何も変わらぬぞ」


「それは分かっている。しかしだな・・・」



ことの起こりは、数人の武士が訪れたことで始まった。

その武士は、将軍より書状を届けにきた者だった。

そして、書状を直に当主に渡すと返事も聞かずに帰ってしまった。

返事はいらぬ、行動で示せといっているように受止めるしかない。


「これは新たな将軍の言葉だ。相模侵攻が終わってから行っても、成敗の対象になりかねない」


「しかし、遠すぎる。お主はどれくらいかかると思っている」


「行かぬ訳にも行かぬ。お主は知らんのか、四国が1ヶ月も経たないのに滅んだことを。それだけの戦力と戦上手なのだ」


「まずは百人を送りましょう。少ないが急ぎ参ったといえばいい。もしもの時は後から来ると嘘でも付けばいい」


「それしかないのか・・・」


島津義久しまづよしひさは、話がようやく決まったので目を見開き言い放った。


島津義弘しまづよしひろ、わしの名代でゆけ。そちの言動で決まるのだ。こころしてゆくがよい」


「義弘、その大任を受けたまりました」



-  -  -  -  -  -  -



将軍の名の下で、日本各地の大名に使者が書状を届けていた。

書状には相模侵攻が終わるまでに、はせ参じろときつい命令で書かれていた。

そして、北条に味方することもかたく禁じていた。



京を支配されて、将軍職に就くのもあっという間だった。

反今川を構築する暇も無かった。

足利幕府や石山本願寺が短い期間で、負けを認めたことがそうさせていた。


そして将軍は、ここで敵、味方をはっきりと決める時期と感じていた。

従わなければ、遠征してでも滅ぼす積もりだ。

そうすることで、ついたばかりの将軍職を全国へ知らしめた。

そればかりで無く、名ばかり将軍でなく実力を示したのだ。




そして、今川の方の支配下でも大慌てだった。

中国方面の侵攻で計画を立てていたのに、急に向かう方向が逆になったのだ。


播磨や四国では、再度仕度の変更を忙しくてんやわんやであった。




駿河の米蔵で、俺は静かに俵を吐き出していた。

24時間交代制で建てた真新しい蔵が、港近くにずらりと並んでいる。

紀伊や伊勢で大量に作った米を、駿河に持ち込んだ。


後は、ここから戦場へ運べばいいだろう。

陸路でも船でも運びやすいはずだ。




そして港には、洋式風の帆船が10隻も並んでいた。

基本は木造だが、胴体部には黒く塗られた鉄板が張られていた。

そして船の側面には、大砲が撃ち出される窓が開いている。

相模侵攻に向けての準備に、忙しく船乗りは働いていた。


「おーい!!このロープは切れ掛かっているぞ。早く交換しろ」


「こっちも忙しくて手が回らない、誰か助けてくれーー」



そんな光景を、町人や旅人は物珍しく見ていた。


「でかい船だな。あれはなんちゅう船だ」


「なんでも南蛮船といってたぞ」


「南蛮の船なのか?」



そんな見物相手に、屋台も出ていた。

その中で、エッチング法で印刷された南蛮船が、飛ぶように売れている。


「どうだい旦那、精巧に描かれたものだよ。ほかには売ってないよ」


「本当に細部まで描かれてるな。土産に買おう」



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