48 諦めないでほしい
長老が転移魔法を発動させると、ルーツたちは転移した。
「長老!」
「帰って来たのですね!」
「ああ。皆揃っておるようじゃな」
村人が長老に駆け寄り、言葉をかける。ルーツとサナは、オーデルグと共にその光景を見守った。
「ニーベ村とは似ていないな……」
「そうですか」
「だが、暖かさは同じかもしれない……」
ルーツはオーデルグに肩を貸し、サナと共に歩く。家族の姿を見つけると、ルーツは母と握手し、サナは父母と抱き合った。
「皆、聞け。私の力はもう残っていない。私がこの世にいられるのはせいぜいあと一日だ」
「「「!?」」」
長老の言葉に、村人がざわつく。そして、長老は今日ぐらいは共に騒ごうと言った。村人たちは、すぐに宴会の準備を始めた。
「そうか、破壊神トコヨニは慕われていたのだな……。すまない、全て俺の責任だ……」
オーデルグがルーツとサナに言った。
「きっと、全て運命だったんです……」
「ええ、あなたを救うための……」
「?」
ルーツとサナは自嘲気味に微笑んだ。オーデルグは訝しげな顔をしていた。
ルーツとサナは村人たちと共に宴会の準備をする。長老との最後の時間を共にするために。その間、オーデルグは長老と共にいた。
「トコヨニ、すみませんでした。俺は、彼らからあなたを奪ってしまった……」
「創造神と破壊神の時代はもう終わるべきだったのじゃ。遅かれ早かれその時は来ていたであろう。だが、お主が向き合うのは、そんなことではない」
「え?」
「私に創造神サカズエの真似事はできなかった。コピー人間たちは、私の力が無ければ、この世に存在していられない。私が消えれば、一ヶ月ともたないだろう」
「なん……だと!?」
オーデルグの顔が驚愕に染まる。予想していなかったという表情だ。
「俺は、あのルーツとサナの行末に希望を見たんです! それも、失われると……!?」
「後悔は尽きぬな、人間の生き方というのは。何度も言った通り、お主も人間だということじゃ」
「待ってください! 俺は諦めたくない!」
オーデルグは力を込め、歩き始めた。
「今のお主の状態で動けば、寿命がさらに縮まるぞ」
「構わない! 俺に、村人の状態を見せてください!」
それは、最後に抱いた希望を失うまいと、必死に足掻いているようだった。
「最後にまた夢を抱いたか、オーデルグ……」
長老が静かに呟いた。
ルーツとサナは、村人たちと共に、ささやかな晩餐の輪に加わっていた。ルーツとサナの元に、ルーツの母と村長夫妻がやって来た。長老との最後は、お互いの家族とも一緒にという想いだったのだろう。
そのまま皆で騒いでいると、長老が前に出た。
「皆、改めてすまないと思っている。私が創造神サカズエの真似をしても、この程度だった。サカズエが創った人間はサカズエがいなくなっても消えたりしないというのに、正直、悔しい。だが、ルーツやサナ、お主たちはよくやってくれた。最後に、私はサカズエよりも人間を知ろうと思えた。皆には感謝している。ありがとう」
長老が深々と頭を下げる。きっと、長老はサカズエに勝ちたかったのだろうとルーツは思った。もう、破壊神としての本分より、その想いが上回っていたのだ。
しかし、長老が勝ったのではないかと、ルーツは思った。人間を理解できないと言っておきながら、平和な村を作り、自分たちに生きる力を与えてくれたのだから。
ルーツとサナは拍手を始め、それは全員に伝搬していった。
「ありがとう、長老!」
「この世を楽しめたのは、あなたのおかげだ!」
「胸張ってください、長老!」
皆が想い想いに言葉をかける。ルーツやサナもだった。長老は静かに身体を起こした。
「まったく。私の力不足のせいで後少ししか生きられないというのに、感謝か。本当に、人間は理解できんな」
長老は静かな笑みを浮かべた。
「私も朝までは持つだろう。残される私の力を節約すれば、この村自体は一ヶ月は持つ。それまでは皆好きにしろ」
長老はそう言うと、座って静かになった。大人と一緒に酒を嗜む。
夜になっても、誰も帰ろうとはせず、外で騒いでいた。さすがに子供たちは扇を漕いでいる。親たちはその寝顔を幸せそうに見つめていた。
「ルーツ、サナ」
「オーデルグ?」
「どうしました?」
「これを……」
オーデルグは紙切れをルーツに渡した。そこには、何かの魔法の構成図が書かれていた。
「何ですか、これ?」
「皆の状態を見て、作った魔法の構成図だ。トコヨニの力抜きで君たちが存在できるように」
「え?」
「だが、まだ未完成、だ……。後は、君たちが完成させるんだ……」
「オーデルグ……」
先ほどからオーデルグが村人に声をかけて回っていたのはルーツも確認していた。残り少ない力でそんなことをしていたとは。
「絶対に、諦めないでほしい……。俺が言えた立場ではない……。だが、どうか君たちには生きてほしい……」
オーデルグは力を使い果たしたのか、グッタリとしていた。
「こ、こんな凄い魔法を……」
「ありがとう。やっぱりあなたは凄いですね……」
ルーツとサナが言った。オーデルグはもう答えなかった。
◇◇ルーツ(オリジナル)視点
俺は村人の状態を見て回った。何が原因で彼らがこの世に存在できなくなるのか。それを食い止めるためにはどうしたらいいのか。残りの魔力をつぎ込んで調査と実験をした。
しかし、到底足りない。時間も魔力も。だが、諦めたくなかった。俺は、コピーのルーツとサナの行末に希望を見て、そのおかげで救われたのだから。
最後にルーツとサナに、作りかけの魔法の構成図を託した。骨組みまではできたと思う。どうか、完成させてほしい。それを渡した頃には、俺の力はもう尽きかけていた。
死にゆく者など、子供たちには見せられない。俺はなるべく目立たない場所で横にならせてもらった。
宴会は続いている。トコヨニとの最後の時を慈しむように、絶えない笑い声、笑顔。世界中のどこにでもあるはずの光景だ。残虐なだけが人間ではないのだから。やはり、俺の計画が
意識が飛びそうになる中、俺はさらに頭の中でその魔法のことを考えた。手の中でちょっとした実験もした。何か新しいことが分かれば、ルーツとサナに渡した図に書き加える予定だった。
それからどのくらい経ったのだろう。もう魔力が無い。そうすれば、俺の心臓は動かない。だから、もう最後の時だ。
「オーデルグ……」
「お疲れ様です……」
ふと声が聞こえた。コピーのルーツとサナ、君たちか。俺なんかに構わず、君たちは生きる道を探せ。
「最後に、どこに行きたいですか……?」
どこに行きたい? どうなんだろうな。口にして良いのだろうか。俺のような罪人が。
「ニーベ村の……跡地……。最後だと……いうなら……せめて、皆と共に……」
「分かりました」
転移魔法が使われたのが見えた。何をやっているんだ……。そんなことをすれば、トコヨニの力がさらに失われてしまう……ぞ。
視界に入る景色が変わった。何も無い草原だったが、見間違うわけもない。そこは、ニーベ村の跡地だった。俺が作った墓地の前だった。
「ああ……。帰って来た……よ、皆……」
涙が溢れたのを感じる。だが、もうそれ以外は分からない。
最後に、声が聞こえた。
「オーデルグ、最後はあなたをルーツと呼びます」
「ルーツ。あなたの来世が、優しい光で満ち溢れますように」
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