第135話 控えめに言ってそれは凶器
自分のことを必要だと言ってくれたし、お互いを知ることが演技を続ける上で必要なことであるとも思えていた。
しかし、早朝から男の家に遊びに来るのはどうなのだろう。もちろん彼に何かよからぬことをする気はさらさら無いのだが。
「お茶でも飲んでいく?」
「あらあら、お昼も頂いていいの?」
「まだそこまで言ってないけど」
「夕食まで一緒に? そんな、悪いわよ」
「一歩先を読むのやめて」
花楓もハハーンも瑞斗には花楓とくっついて欲しいなんて空気がダダ漏れなのだが、客人とあれば無下にはしないだろう。
その点では問題がないのだが、あるとすれば瑞斗自身だ。丸一日同じ空間で過ごすにしては、話題性がないというか物足りないというか。
要するに、玲奈が退屈してしまうのではないかと心配しているのである。
「冗談よ。せっかくだから少し寄らせてもらうだけ」
「あ、そうなんだ」
「瑞斗君がもっと一緒に居たいって言うなら、長居してあげてもいいわよ?」
「知ってると思うけど、僕は一人が好きなんだ」
「はいはい、すぐに帰るわよ」
「今のも冗談なんだけど……」
「紛らわしいわね。本当はどうなの」
腰に手を当てて眉をひそめる彼女にこれ以上の冗談は通用しなさそうなので、彼は少し考えた後とある提案をしてみることにした。
「そうだ、せっかくだし遊びに行かない?」
「珍しいことを言うのね」
「この機会に
「別にコーヒーは好きじゃないのだけれど……」
「僕は好きだけど。苦過ぎて泣きそうになってた鈴木さんの表情」
「……うるさい」
完璧に見える人の弱点を知れると、そのギャップがむしろ魅力的に見えることがある。
彼女の場合もそうらしく、ほんのりと頬を赤くしながらツンとそっぽをむく姿には、ついついもう一度見たくなる良さがあった。
さすがにしつこいと回し蹴りされそうなので、これくらいの塩梅で抑えておくのが吉だが。
「朝食は食べてきた?」
「ええ、朝早かったから軽くだけれど」
「じゃあ、少し休んだら出発しようか。この時間はまだどこも開いてないだろうし」
「そうね。お邪魔させてもらうわよ」
「邪魔するんやったら帰って」
「……」
「そんな目で見ないでよ。一度言ってみたかっただけだから」
「なん、なんでやねん……?」
気まずそうにする瑞斗に合わせて、たどたどしいツッコミを入れてくれた玲奈に、彼がクスクスと笑ってから「ちょっと違うと思う」と訂正したことは言うまでもない。
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「これがお兄ちゃんの彼女……」
「……」
「ふむふむ、確かにいい太ももだ」
「
妹検査だとか何とか言って、部屋に乗り込んできてすぐに玲奈の全身をベタベタと触り始めた早苗。
瑞斗は彼女を強引に引き離すと、「羨ま……いや、迷惑かけてごめんね」と無を貫いている彼女に頭を下げた。
「可愛いから別にいいけど、瑞斗君は太ももフェチって本当だったのね」
「そうだけど?」
「……まさか、
「無い無い。花楓にそういうのは求めないよ」
彼は心の中で『
すると、彼女は何を思ったのか自分の脚に手を添え、そのちょうどいい筋肉&脂肪量の暴力的なまでの太ももをチラ見せしながら首を傾げた。
「私には求めたくなるのかしら」
「……」
「瑞斗君?」
「……ぐふっ」
「え、ちょ、鼻血出てるわよ?!」
その後の記憶は途切れているが、気が付けば彼はベッドの上で横たわっていたことをここに記しておこうと思う。
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