第28話 メニューには写真をつけるべきだと私は思う

 あれから瑞斗みずとは、どのリップがいいかという質問に苦しめられた。

 第一印象で良さそうだと思った色付きリップは、学校に持っていけないからダメとのこと。

 次に選んだレモンの香りがするものは気分じゃない、付けると涼しくなる清涼系も好きじゃないと断られてしまった。

 ダメ元でコーラの味がするものを渡してみたら、「飲みたくなっちゃうよ」とやっぱり不合格。

 女の子の好みは難しいとはよく言うが、確かにその通りだ。よく分かっているはずの幼馴染でも、これだけ苦戦するのだから。


「じゃあ、これは?」


 ここまで来れば判断基準すら分からないので、適当にその辺にあった柑橘系の香りがするリップを差し出してみる。

 すると、案外気に入った様子で満足げに頷くと、「これにする!」とカゴに入れてしまった。やっぱり基準が分からない。


「さすがみーくん、私の理解者だねっ」

「そ、そうかな。あはは……」


 適当に取ったなんて言えるはずもなく、少し離れたところでいくつか商品を選んだらしい真理亜まりあたちと共にレジへと向かった。

 もちろん花楓かえでのお会計は瑞斗が払った。文句は言うまい、幼馴染の笑顔のためだと思えば……少し高いなと思う程度だ。

 その後、欲しいものが手に入ってご満悦の女子二人の話し合いにより、次の目的地が決定。

 先を歩く真理亜&青野あおのについて行くと、辿り着いたのはミニシュークリームが有名なお店らしい。


「お好きなお席へどうぞ!」


 店員さんにそう言われ、空いていた4人席へと腰を下ろす。そこに置かれていたメニューを見てみると、上から下までミニシューだらけだった。

 ナイアガラのミニシューにタワーオブミニシュー。ミニノハルカシューなんてのもあれば、エッフェルシューというのもある。

 写真がないので何がどんな商品なのかと首を傾げていると、真理亜が「味が違うだけ」だと教えてくれた。いや、どれが何味なのかさっぱりだ。


「ご注文はお決まりでしょうか」

「マリー、ミニのシュー塔にしようかな」

「俺はシューカイツリーを」

「わ、私はシューデレラ城をください!」

「かしこまりました。そちらのお客様はいかがなさいますか?」


 他3人がさっさと決めてしまったせいで、悩む時間がもう無い。いくら考えても味なんて想像もつかないし、適当に決めてしまおうか。

 そう思い切ろうとした瞬間、店員さんがメニューを指しながら「こちらが当店オススメですよ」と教えてくれた。

 この時、瑞斗は生まれて初めて店員さんのお節介に感謝したかもしれない。彼が服屋では絶対に抱かない感情オブザイヤーである。


「じゃあ、それをひとつ」

「かしこまりました」


 店員さんは4人分の注文を確認として繰り返すと、頭を下げて店の奥へと歩いて行く。

 僕はその背中に無言のお礼を伝えると、自分が頼んだ商品の名前を心の中で復唱した。


(チョコランマか、分かりやすくていいね)


 他の商品にはついているミニシュー要素がないことは気になるが、そんなことはメニューとにらめっこすることに比べれば些細な問題だろう。

 そう思うことにした瑞斗が数分後、運ばれてきたチョコパイを見て思わず「シューじゃないのかよ」と呟いたことは言うまでもない。


「……チョコ、苦い」

「みーくん、チョコランマが無理ならシューデレラ城と交換してあげよっか?」

「そのワードを聞くだけで混乱しそう。ありがたいけど、これは花楓も食べれないと思うよ」

「そ、そんなに……?」

「お子ちゃまにはまだ早い」

「むっ……お子ちゃまじゃないもん!」


 子供扱いされたのが余程嫌だったのだろう。強引にお皿を交換した彼女は、その脅威に臆することなく見事チョコランマを完食した。

 退店後、思い出しただけで気分が悪くなり、真理亜に連れられて駅のトイレに駆け込むことにはなったけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る