第24話 嘘と思い出
わざわざ休日に伝えに来ようとしていたくらいだ。急ぎなのか、それとも重要なことなのか。いずれにしても無視するわけにはいかないことだろう。
「あのね、みーくん」
「うん」
「この前、
「された気がする。断ったけど」
「あれ、やっぱり無理なの?」
「……どうしてそんなにこだわるの」
「べ、別にこだわってるわけじゃ……」
「ほら、そうやって下唇を噛む。隠し事してるのバレバレなんだけどな」
その言葉は図星だったようで、彼女はハッとしたような顔をした後、こちらへ控えめな視線を向けてきた。
その何か言いたげな瞳をただただ見つめ返していると、花楓はこれ以上は誤魔化せないとばかりに正直な気持ちを教えてくれる。
「私、もう嘘つきって言われるのは嫌なの」
「……花楓」
その言葉を聞いた瑞斗の脳裏に浮かんだのは、自分たちがまだ小学生だった時のこと。
彼女と仲の良かった女の子の筆箱を、同じクラスの意地悪な男の子が隠すという事件があった。
放課後にみんなで探してもなかなか見つからず、誰よりも必死に探していた花楓が空き教室の天井から吊り下げられた電気の上にあるのを見つけたのが捜索開始から3時間が経った頃。
しかし、背が低くて机の上に立つことすら
そして自分は発見したことを伝えに被害者である女の子を呼びに行ったが、空き教室へ戻ってきた彼女は信じられない光景を目にした。
『い、居ない……筆箱も無い……』
取ってくれるように頼んだ男の子の姿が消えているだけでなく、そこにあったはずの筆箱の存在まで消えていたのだ。
女の子にとってその筆箱は、亡くなったお婆さんに買ってもらった大切なもの。報告した時だって泣いて感謝してくれたのである。
だと言うのに、見に来た時には消えている。それを知って号泣する女の子への同情は、捜索を手伝ってくれていたクラスメイトたちの中でヘイトへと変わって花楓へと向けられた。
『嘘をついて悲しませた』と。
「そんなこともあったね。取るのを頼んだ男の子が、筆箱を落として壊したことを隠すために知らないフリをしてたんだっけ」
「そう。それなのに、2週間くらい私が悪者になった。人のために頑張ったのに、どうして報われないのかが理解できなかったよ」
「だけど、最後にはみんな分かってくれたでしょ」
「謝ってくれたし、無視もやめてくれた。それでも私は傷ついたまま、ずっと嘘つきになることに怯えて生きてる」
「そんなこと―――――――――」
「あるの。嘘がバレたら、私はひとりぼっちになっちゃう。もしもみーくんに見捨てられたら……」
プルプルと震える拳と潤む瞳は、事件があったあの時と何も変わっていない。
瑞斗が幼馴染として彼女を大切に思う気持ちも同じ……いや、それに関しては年月を重ねて強くなっているまである。
あの場では、空き教室に落ちている筆箱に付いている鉛筆削り部分の欠片を見つけた彼が、花楓の証言と合わせて男の子を問い詰めたことで解決した。
しかし、今回の嘘は本人以外に悪者が存在しないことと、ダブルデートを断る=見捨てるになってしまうことが問題だ。
唯一の味方であり、最も信用している相手でもある瑞斗に目を背けられれば、次に折れた時には二度と立ち上がれないだろう。
そう容易く予想出来たからこそ、花楓のお願いを以前のようにバッサリと跳ね除けることが出来なかった。
たとえ、つい先程まで偽彼氏を演じていた相手、
「わかったよ、助けてあげる。ただし、特別なことは何もしないからね」
「特別なことって……?」
「恋人がするようなことだよ」
「手は繋いでもいい?」
「まあ、それは幼馴染でも出来るからいいよ」
「えへへ、みーくん大好き♪」
「はいはい。でも、ずっと嘘を続けるのは限界があるからね。あくまで対処するために先延ばしにするだけだから」
その言葉に頷いた花楓がボソッと「すぐに嘘じゃなくすから」と呟いていた声は、瑞斗には全く聞こえていなかったらしい。
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