第24話 アバの行方
夜になったが、アボパパは寝たきりで、シンはアバが見つかったとも言って来ない。見つかったとしても、真太に知らせに来る筋合いはないが。アボが目を覚ましていれば、知らせに来るかもしれないけれど。
真太は不安で眠れはしない。千佳と由佳はパパの腹に両側から突っ伏したまま眠っている。
真太はパパが重くはないかと思ったが、むしろこの方が心地よいかもしれないと考えた。
香奈ママも、二人の好きなようにさせていた。ママは、パパの両側を二人に盗られて、仕方なく側に横になっているが、眠ってはいないだろう。
真太は眠れず考えていた。アバはどのあたりの海に落ちたのだろう。シンは今頃、きっと必死で探しているだろう。アボパパが気配が無くなったと香奈ママが言っていたし、アバも気を使い果たしていれば、気配は無いに違いない。と言う事は、シンはどうやって探しているのだろうか。それなりの能力はあると思うが、海は広いからなあ。とぼんやり考えていた。
ところが、真太は何故か急に悲しくなって来た。シンが見つけたに違いないし、きっと不味い事になっていると、確信した。涙がどんどん出て来る。
真太はわあわあ泣いてしまった。その訳はまだ判明してはいないが、とにかく泣けて来た。声をあげて泣いていると、香奈ママが、起き上がり、
「真太、どうしたの」
と驚いて聞くが、
「分からないけど、泣けてくる。原因はパパじゃないからね。心配しないで。前世の俺とアバとの関係で泣けてくるんだと思う。シンが見つけたんだと思う。何だかテレパシーかなんかで泣けてきている。ママはあまり付き合いが無いだろうから、五月蠅くてゴメンね」
「何、言ってるの。あたしや千佳由佳も世話になったでしょう。悲しい事になっているんでしょうね。構わないから泣きたいだけ泣いてね。前に、アバは真太の泣き声が頭に響くって言っていたから、アバと真太はテレパシーで繋がっているみたいだったわね。真太はまだ幼くて気が付かないみたいだったけれど」
そう言って、香奈ママはパパの様子を見て、汗をかいているようだと言って、顔を拭きだした。だが、
「汗じゃあなかった。アボも泣いているみたい」
と、呟いた。
真太はそれを聞いて、なおさら泣けてきて、またわあわあ言っていると、鍵は締めていた筈の窓がガシャンと開いて、良く言えば人間と龍が混ざったような、悪く言えば化け物の様な風体の生き物が飛び込んできた。
「五月蠅いぞ、小僧。頭に響くといつぞや言ったよなあ。アボ、真太を泣かすなと言っただろうがッ」
と、その化け物のような生き物が叫んだ。それで、アバだと言う事が分かった。その台詞を言わなければ、とてもアバとは認識できない状態である。
真太は泣き止み、
「アバなの。生きていたの。何だか具合悪そうだねえ。だいぶ。言っておくけどアボは意識不明だよ」
「何が意識不明だ。こいつは都合が悪い時は寝たふりだッ」
と、有ろうことか、化け物風アバは意識不明のアボを蹴り散らした。香奈ママは怯えて、隅っこに千佳由佳を引き寄せた。
真太は、酷い有様のアバでも、千佳由佳を避けて蹴った事を、見逃さなかった。
この騒ぎで目を覚ました千佳由佳。由佳はわあんと泣き出した。由佳が泣くと必ず目が覚めるアボパパである。
はっと、目を開けると、
「何だ、お前はひょっとして、アバなのか」
と一応聞いてみる。全くもって、確かめたくなる感じである。
「貴様、のほほんと眠りやがって。こっちの苦労も知らないで、寝ていやがって」
何だか、しゃべるのもつらそうなアバである。アボは気を失っていたのだが、眠っていたと見て、相当気に障ったらしい。前々から睡眠に拘りのあるアバだった。
真太は、このままではアバの怒りを買って、パパがやられそうだと思い、必死で説明した。
「違うんだよ、気を使いすぎて意識が無くなっていたんだ。迎撃ミサイルを跳ね返したから。アバ、生きていたんだ。良かった。死んだのかと思ったけど」
とアバに抱きつこうとすると、アバは真太を振り切って、
「あほうの真太。死んでおるわい。分らぬか。俺は怨霊龍だ。前世で見た事が有ろうがッ」
真太は目を見開き、
「でも、何だか実体みたいなんですけど」
と言ってみた。すると、少し冷静になったアバは、自分を顧みている。
「しかし、こんなでは、生きていた時の俺ではないようだが」
アボもじっと観察して、
「放射能にやられたのか。お前、ミサイルを抱え込んで海に落ちていたからな」
と、見解を述べた。
「そうだったかな。よく覚えていないが」
アバはだんだん冷静になって来て、ほっとする真太である。
アバは急にはっとして、
「そう言う事だったなら、俺の体には放射能があるはずだ。ここに来るのは不味かったようだな。アマズン川に帰って良いものだろうかな」
やっと普段の様な言い方になって、悩んでいる様子である。
真太は、『ここに放射能測定器が有ればいいのにな』と思わず考えると、手にそれらしき機器があるのに気が付いた。
「あれ、何処からか、放射能測定器を持って来たみたいだ」
アバは、
「何だ、真太は気が利くじゃあないか。俺を測ってみろ」
と、機嫌が治って言ったので、真太はスイッチらしき所を入れた。
生憎、振り切れてしまった。アバはため息をついて、
「もう一度、さっきの海に潜って当分寝て居よう。皆、すまなかったな。どうやら、迷惑かけたようだな」
と言って、早々に引き上げようとしている。
アボパパは、
「こっちの放射能は俺が消すから気にするな。今回はよくやったなアバ。ゆっくり休んでくれ」
と言って労った。真太も、
「生きていると分かって、来てくれて良かったよ。アバ」
と言うと、
「そうだった。真太の泣き声で、正気に戻れたのだった。その礼を言いに来る途中で、また、妙な気分になってしまったようだ。お前のおかげだった。礼を言うぞ」
アバは真太にそう言って帰って行った。
アボは、アバが居なくなると、
「地獄の奴らが、真太を必死で殺そうとした訳が分かった。アバを狂わせるつもりだったようだな。計画は失敗したな」
と真太に言って聞かせた。
「アバが狂ってしまえば、この星は滅びる運命だったが」
真太はアボに、
「どうして、あの国の大統領に取り付いている奴を、やっつけなかったの」
と聞くと、
「魔導士が居て近づくことが出来なかった」
「魔導士?」
「あの国にはそう言う奴が居るんだ。香奈ママの逆バージョンだ。龍神の様な神格化した霊獣は、近寄れない結界もあるんだよ」
「それじゃあ、これからどうなるの」
「人間の大人が考えないとね。お前は動くなよ。アバは、これからお前らが生きて行くこの星を守ったんだから、お前が死んだら話にならない。他の誰でもない、お前のためにした事だからな。軽はずみな事をして、アバを悲しませるんじゃあないぞ」
「人間達を守ったんじゃあないの」
「人間は好きなように生きて死ぬさ。アバはシン達とは考えが違う。自分の縄張りを守るのが第一だ。そして子孫達の縄張りをだ。つまりお前の縄張りの事だな」
エピローグ
それから、アボパパはまた眠り直して、次の朝になっても目を覚まさない、ママは当分眠っているだろうと言っている。
真太はパパの側に居たかったが、多分パパは真太が学校に行って欲しいだろうし、試験も途中でやめては、昨日受けた意味が無くなると思い、悠一と一緒に出掛けた。悠一も昨晩の騒ぎには気付いており、酷い面相だがさぼる訳にはいかないと思ったようである。
放課後ロバートと悠一は職員室に呼ばれ、真太は舞羅が話したい事が有ると言うので、一緒に途中まで帰る事にした。
舞羅がシンから聞いた事によると・・、シンは真太の前世の家に入りびたりのような気がする。
「シンや極み殿が海の中をずうっと探していたんだって。そしたら怪獣かと思うような風体のアバが海から暴れながら出てこようとして来て、アバが暴れ出したら大変だからシンと極み殿とで必死で止めるんだけど、最強の龍神だから止めきれなくなって来たんだって。でもアマズンに居る他の龍神はアバを恐れて助けに来てくれなくて。ほっておいたら大変な結果になるのにって、二人で、違った、二龍で憤慨してそれでも頑張って押し留めていたら、急にアバが人型になって、その人型も変な感じだったけど。とにかく、『真太が泣きおって、五月蠅い』と言い出して、真太の所に行こうとしているので、極み殿が、『正気になったようだな』と言って、帰る事にしたって話よ。真太の泣き声で正気になったそうね。『真太はそういう役目のようだ』ってシンが言うの」
「うん、パパもそう言ってた。アバはしばらく海底に沈んでいるって」
「誰もアバのしたことは知らないけど凄かったのよね。アボ叔父さんも疲れて寝たっきりなんでしょ」
「うん、でもアバほどのダメージじゃなさそうだな」
「じゃあもうじき良くなるのよね。誰も二龍のしてくれたことは、知らないままなんでしょね」
「別に他の人間の為にしたんじゃあないらしいよ。構わないんじゃないかな。誰も知らなくても」
当事国同士は龍神達のしたことを知らないので、ミサイルの失敗は何か技術的な不備があっての事と判断していた。税金ばかりかけて開発した挙句の事で、科学技術者一同世間に顔向けできない状態である。両国とも、ミサイル開発に対しての反対の世論に返す言葉も無いようである。YY国の大統領は失脚したとニュースで言っていた。真太はほっとした。二度目が起こったなら、もう防ぐことはできない。
真太は後にこの事を思い返す度に、自分の存在理由は、アバがこの星を守る、その事の手助けだろうと思っている。そして、所詮真太は龍神と人間のハーフであり、寿命が有って、龍神にはならないだろうと予想している。
そういう訳で、海底で眠るアバの回復までは、崩れてしまった地獄から、這い出て来た魔物の始末は、自分の役目と考えている。この先どんな事が起ころうとも、力の限り戦う、それだけである。
完
生まれ変わっても 龍冶 @ryouya2021
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