第23話 防がれた災い
夕刻になると、舞羅と悠一が何故か揃ってお帰りである。
舞羅は、
「お爺ちゃんが帰って来たから、舞羅もお家に帰ります。さっき、お爺ちゃんから連絡が入ったの」
と言って荷物を持って、帰ろうとしていた。アボパパが、
「じゃあ送ろうか」
というと、
「悠一君が、荷物を持ってくれるって言うから、頼みました。さっきお爺ちゃんからの電話に出た時、丁度側に居たので。それに荷物、だいぶお爺ちゃんが持って帰ってくれたから、もう少ないし。お世話になりました」
と言って、帰って行った。
真太はその様子を見て、『悠一と舞羅、なあんだかあやしくね?まさかね』と思った。
アボパパに意見を聞こうと、パパを見ると、
「悠一君はロバート君と一緒に、舞羅の歌の演奏をするらしいね。選考会で合格したようだ」
と、驚愕の情報を教えてくれた。
「俺には耐性が出来ているけど、あいつら舞羅を見て、愛と希望を振りまかれて引き付けられたんだな。きっと。今まで、気が付かなかったけど」
と、真太は驚いた。
悠一はなかなかこっちに帰ってこないので、まさか泊まる気かなと、真太は心配したが、夕食を食べただけで帰って来た。香奈ママに夕食は食べないと言ってくれと、真太に連絡してきたが、連絡が遅すぎると、注意してやった。
真太は、悠一は舞羅にかなり接近して来たなと思った。帰って来た悠一に、
「言っておくけど、舞羅は誰にでも愛想が良いから、お前に気が有る訳じゃあないからな。深入りするなよ」
と注意しておいた。悠一は、
「分かっている。ロバートにだって愛想良いから。今日は舞羅ちゃんのお婆ちゃんに晩飯を勧められて、断り切れなかっただけだよ」
と、言っているが、真太は悠一の深入りについてはもう手遅れのようだなと思った。
次の日のテストは散々で、結果は知れているから、真太は気にせず帰りに翼の見舞いに行こうかなと思った。
今朝、悠一は、昼飯は学校近くの食堂で食べると言っていたので、真太も一緒に行こうと思い、二人を探すが居なくなっていた。
「ちぇっ、もう帰ったのか」
と思い、それじゃあ一旦家に帰ろうと思って校庭に出ると、同じクラスの女子が真太の方に走って来た。なんだか、用事が在りそうだけれど、あまり話した事のない人なので不思議に思っていると、
「紅琉君、大変よ。柳君と金沢君が体育館の裏で喧嘩しているよ。何だか本格的なボクシングみたいで、すごい事になっているよ」
と、真太の所にたどり着く前に大声で教えてくれた。
「どうしたんだろう、教えてくれてありがとな」
真太は急いで体育館裏に行ってみると、報告どおり、すごい事になっている。ボクシングの試合並みに、見物人が大勢で取り囲み、リングの様になっている。かき分けて前に行くと、二人とも結構凄い面相になっている。いつか悠一が、ロバートとは互角だと言っていたのは本当だった。ロバートの方が見かけは体格が良いので有利に見えるが、悠一は何だかすばしっこくて、ロバートの周りをちょろついている、きっとアマズンで現地の子供相手の喧嘩で、慣れしているのだろう。真太は、
「お前ら、大概で止めろよ。見世物みたいになっているのが分からないのか」
と止めると、ロバートが、
「悠一の奴、俺の事分かっているくせに、抜け駆けしたんだ。卑怯者だ」
と興奮して言った。悠一は、
「抜け駆けなんかじゃない。真太の家に泊っているから、行先が同じだろ」
真太は、原因が分かり、やっぱりなと思い、放って置きたかったが、せっかくあの女子が教えてくれたし、と思い直して、
「お前ら、あいつの愛想良い事、誤解するなよ。二人とも何とも思われていないから。馬鹿らしいことするなよ。悠一には昨日注意したんだけどな。そういやロバートにも言うべきだったな」
と話してみたが、ロバートに、
「舞羅ちゃんの気持ちは分かっている。これは俺と悠一の問題なんだ」
と言われて、真太は内心、『片思いを自覚して居るんだったら、もう俺の出る幕は無いな。帰ろうかな』と思っていると、外側から、
「先生が来たぞ。生活指導が」
と知らされたので、見物人はみんな蜘蛛の子を散らすように、ばらばら逃げて行った。当事者三人もそれに交じって、ばらばら逃げる事にした。真太は内心、二人のあの顔じゃあ、明日は絞られるだろうなと思った。
そういう訳で、それから真太はひとりで家に帰ると、香奈ママが珍しくニュース番組を見ている。
「ママ、教養を身に着ける事にしたの」
真太が気付かず冗談を言うと、ママは、
「それがね、真太。何だか戦争が始まりそうなのよ。見てごらん。ニュースによるとYY国と、IKR国が険悪なの。YY国の大統領って、アボによると、魔物が入っているそうなの。独裁者だから大変な事になるっていうのよ。それで、アバと一緒にさっき退治に行ったんだけれど、心配だわ」
「何だって、僕は行かなくって良かったのかな」
「あんた、言っておくけど、まだ赤ちゃんなのよ。生まれて一年も経っていないんだから。翔の時の記憶があるから、そんなこと言っているけどね」
「じゃあ、じゃあ。昨日、千佳が、パパがどこかに行っちゃうと言っていたのは、本当だったんだ。どうしよう」
真太は泣きたくなった。昨日、パパの様子が変だったことを思い出した。どうしたのかと、聞きそびれてしまった。馬鹿な自分である。
「まあ、千佳がそんな事を言っていたの」
ママは目を伏せた。
「千佳由佳は?」
「まだ帰って来ていないわ。今日は給食のある日なの。真太はテストで早かったのよね。ご飯まだでしょ。何か作るわ」
ママは元気なくキッチンへ行った。
真太はニュース番組を睨みながら、アボ達が今日行ってしまうんだったら、テストなんか受けないで、学校は休むべきだったな。と思った。どうせ成績はビリだから、テスト受けても受けなくても同じだったのに。昨日アボパパにどういう事になっているか追及して、一緒に行く段取りにすべきだったと、後悔した。涙が出そうになる。きっと不味い事が起こるのだろう。泣くとアバが五月蠅がるので、邪魔にならないようにしなければならない。涙はこらえて、テレビを睨んでいると、ぞっとすることを言い出した。
「YY国からミサイルが発射された模様です。核弾頭ミサイルでしょうか。IKR国の方行です。はたしてIKR国に到達する射程のミサイルなのでしょうか。今丁度、日の国の上空を通過しました。只今、IKR国は、迎撃ミサイルを発射したと発表しました」
「うわあっ」
真太は驚くが、
そこで、何故か番組が途切れ、四色カラーの縞模様画面になった。
「ママ、ミサイル発射された。どっちもだよ。でもテレビが映らない」
真太はキッチンに居るママに報告した。すると。テレビから音が出だしたので、また慌てて二人でテレビの所に行くと、
「緊急事態です。緊急事態です。YY国のミサイルは途中失速し、IKR国に届かず海に落下した模様です。迎撃できなかったIKR国の迎撃ミサイルが、日の国方向に向かってきます。IKR国発表では時間は後一分ほど、着弾地点は福田県、福田県方向です」
「わあっ、俺らんとこだぞ。もう30秒ぐらいしかない。お終いだな」
真太が叫ぶと、実況中継のカメラに映ったミサイルは、外れて海に落ちて行った。
「外れてやがる。IKR国も大した事なかったな。YY国の方はさもありなんだけど」
真太は感想を言ったものの、考えた。『そんなはずないよな』、IKR国がミサイル開発は一番である。
その時ぞっとすることを思いついた。
「パパが弾いて外したんじゃないかな。あの得意技で。でも、ミサイルじゃあ、規模が違うはずだけど」
真太が呟いていると、香奈ママがわあっと激しく泣き出した。
「ママ、もしかしてパパがどうかなったの。わかったの」
真太は聞いた。寒気がして来た。
「たぶん、死んじゃったわ。アボの気を感じないの」
真太は崩れ落ちて座り込んだ。そこへ、千佳由佳が幼稚園から走って帰って来たようだ。
「パパが居なくなった。パパが居なくなった。昨日、何処にも行かないって約束したのに」
「パパ、嘘つき。嘘つき」
二人して、わあ、わあ泣いて帰って来た。二人ともママ同様、パパの気が分からなくなったらしい。
真太は全然、そういう勘はない。虚ろにベランダから空を見上げた。
「何処で弾いたのかな。付いて行きたかった」
すると、シンがパパを抱えて飛んでくるのが見えた。
「シンがパパを運んで来た」
真太は叫んで二階へ行った。三人も続く。
真太が窓を開けると同時に、シンがアボパパを抱えて入って来た。
「限界まで気を使ったようだ。しばらくは目を覚ますことは無いだろうな」
シンが言うと、
「パパ、しっかりして。目を開けてよ」
香奈ママがすがりつく。どうやら気を失っているが、生きているらしい。
真太は思わず、
「シンがしばらく目を覚まさないって、言っただろ。ママ。無理言うなよ」
と言うと、千佳から、
「分かっているけど、仕方ないでしょ。人情なの。真太と違って」
と言って睨まれた。
「俺は、静かに寝かせといた方が、良いんじゃないかと思っただけだよ。疲れているんだから」
と言って睨み返した。
シンは、
「喧嘩しないで、看病するのだぞ。ふたりとも。我はアバを探さねばならぬ故。もう行くぞ」
と言うので、真太は、
「アバはどうしたの」
と聞くと、
「最初のミサイルを、抱えて海に落ちた。核弾頭のはずだが、どうなっているものやら」
と言って立ち去った。
真太はそれを聞いて、またぞっとした。
「でも、爆発しなかったよね。どうなっているのかな」
嫌な感じがする。
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