第15話 狙われる真太

 翼を、真太の前世だった翔の家まで送り届け、アボパパは中には入らず、真太も車に残ったまま家に帰った。家に戻りながら真太は、

「どうして俺らは中に入らなかったのかなあ」

 と今更ながら、聞いてみた。

「俺達の行く所は、魔物には追う事が出来る。ママの結界はみだりに破るなよ」

「なるほど、俺らが破ったら、魔物にも破れるのか」

「小物は入れないが、強いものは入れるようだ。龍神は人間ではない。異界の者だからな」

「ママは金沢や、柳にも結界を張ったよね。家にも張ったの」

「柳君の家は、結界は張れていない。あそこは神社だからね。本人だけだ」

 真太は、パパの言った事はなぜか気がかりだった。


 次の日は何事も無く終わり、校門を出た。翼は、

「今日は、怪獣は出なかったねえ」

 等とお気楽な事を言う。真太は体力が余っていたので、おぶって翼を家まで連れて帰ろうと思った。

 他の二人とは方向が違うので、校門から出るとすぐ分かれて行こうとすると、金沢は柳の家の方へ行こうとしている。遊びに行くような雰囲気ではないと思い、真太は、

「どうしたんだ」

 と聞いてみると、

「柳んちの親父さんが変なんだって、俺、様子を観察するんだ。冷静な目でさ」

 柳は、真太にも言った。

「お前は休み時間は忙しそうで言ってなかったけど、来れるなら翼を送った後で来てみて、親父を観察してくれないか」

「分かった、行くよ」

 真太は内心、魔物か鬼に取りつかれているんじゃあないかと思った。

 翼を家の前で下ろし、

「結界を破らない方が良いから、俺は家の中には入らないんだ。それから、足が折れているんだから、神社に来るなよ。誰かに見られると不味い」

 翼も柳の話を聞いていたので、念を押しておいた。翼が家に入ったのを確認して、神社に行ってみた。

 既に親父さんの奇行は始まっていた。二人で遠巻きに見ている。

 以前は書いてある事が分からなかった立札を、今日は、読むことが出来ていた。それを横目で見ながら、真太は二人の側まで行った。

 うっそうと茂った木々の間に、ありふれた庭石のように、ぽつんと置いてある石に向けて、呪文か何かを呟いている。真太は、あの辺はこの前魔物が居た辺りの様な気がした。何を言っているかは知らないが、不味い気がする。大体、柳悠一は自分で陰陽師の生まれ変わりと言っておいて、呪文に詳しくはないのだろうか。聞いてみたいところだが、静かにしておくべき場面の様である。

 気になる事ははっきりさせたい性分の真太は、口パクで、柳に聞いた。

 柳は、首を振って分からないと答えた。追加して、口パクで昨日の夜からやっていると言った。

 昨日は真太が魔物を一匹始末している。関係はどうだろうか。真太が考えていると、呪文が佳境に入った様で、一際大声で言い出した。そしてそれが途切れると、親父さんは神社の建物の端まで吹っ飛んだ。大丈夫なのか。

 悠一は慌てて側に行っている。真太も行こうとしたが、その前に次の展開に移った。石の辺りからわらわらと魔物たちが現れた。どうやらあの呪文は、奴らを出していたらしい。真太は御神刀を呼び、戦い始めるしかない。次々現れる奴らを次々に仕留めた。始めは容易かったが、感じとしては現れるにつれて強い奴が出てくる。段々やっつける時間がかかり、魔物がたまって来た。

 周りを数体に取り囲まれ、真太はかっとなった。スイッチが入った感じになり、動きが早くなる。あの、紅琉軍団の奥義を思い出した。この前パパが弱った時に魔物が来て殺したときと、同じ感覚だ。ピンチで思い出す技である。

 そばで驚いて見ている二人には、目にも留まらぬ速さだ。次々倒すが、魔物は強さを増して石から出て来た。目にも留まらぬ速さだが、それでも間に合わない感じになって来る。

 あっけに取られて見ていた二人は、普通なら逃げるべき時と分かったが、真太が戦っているのに逃げる訳にはいかないと思った。

 真太がやり切って倒れれば、自分達もお終いだと察した。真太は自分たちの盾となる位置で戦っているのが分かっていた。魔物をこっちに来させないようにしている。

 所が、真太の盾を破って、こっちに向ってくる奴が出た。二人はわあっと思うが、真太は振り向きざま、火を噴いた。同時に龍に変わった。身の丈二メートル半?想像する龍としては小ぶりである。

 ロバートや悠一は、真太はまだ赤ちゃんと皆が言っていた事を思い出す。しかし、やっている事は物凄い。真太龍は、刀では間に合わないので、焼き殺すことにしたらしい。火は青く魔物は一網打尽に焼け死んでいった。だが二人は熱くはないのに気が付いた。人間には無害な炎のようだ。

 その時唐突に、神社の中から柳のお爺さんである宮司が、猟銃を持って出て来て、真太龍を狙って撃った。神職が銃を持っているので、ロバートは驚いた。悠一は慌てて止めるが、今、真太に当たってはいないか?ロバートは思った。『爺さん、居たなら今までどうして出て来なかったのか。撃つなら山ほど出て来た魔物だろう』

 真太は爺さんにも青い火を噴くと、爺さんの中から何やら異形の者が出て来て、のたうちながら焼けて消えた。なるほどとロバートは思った。

 青い火は悠一にもかかったようだが、火傷などせず平気らしい。だが、二人とも気を失っている。親父さんも含め、三代そろって失神である。

 しかし神社は、燃え出した。ちょっと不味い。炎が出て来て、木造建築はよく燃えている。

 何処からか消防車のサイレンが聞こえた。誰かが煙を見て呼んだのだろう。真太龍は慌てて逃げようとしている。ロバートは、

「俺も連れて行ってよ。このままじゃあ俺も証言のしようがない」

 必死で叫ぶと、上にふわっと上がり龍の背に乗せてくれた。真太龍は垂直にかなり上まで急上昇した。下の様子は豆粒ぐらいになる。だからこっちも豆粒だから、上を見上げても気が付かれないだろう。ロバートは思って言った。

「結局、あいつらは真太を呼び寄せて殺す気だったんじゃあないか。あの石の中に魔物が閉じ込めてあったんだな。あの親父さんが、蓋を開ける呪文を言ったんだろうな。悠一は知らなかったのかな」

 真太はテレパシーで言った。

『知らなかっただろう。あの神社にある立札には、建立は大河俊重と書いてあった。紅軍団の君主山方麗山を滅ぼした奴だ。俺らの敵の建てた神社だった。そいつもとうの昔に滅びていた筈だけど。今は関係ない人たちの神社のはずなのにね。家まで送るよ』

 真太龍はヒョロヒョロ飛んで金沢家までロバートを送り、下に彼をそっと降ろした。

「ありがとう、真太」

 降りた後、晴れているのに上から雨の様な物が降って来たので、ロバートは見上げると、真太龍は刀を咥えて居り、彼の涎だと気が付いた。あのまま涎を垂らしながら家に帰る気だろう。

「涎、垂れているぞう」

 教えてやったが、

『分かってらあ』

「誰かに見上げられたら、目撃されると言っているのに」

『分かっているけど、垂れるものは仕方ない。もう疲れて、上には上がれないし』

 無事に帰り付くかな。ロバートは心配になったが、彼としてはどうしようもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る