第7話 前世の父親
上手く行ったとばかりに、意気揚々と帰り付いた二人。アボに上手く行って明日から通学だと報告する。
「上手く行ったのか。どう上手く行ったのかな」
と聞かれ、説明する香奈、アボは、
「何処で暮らしていたか聞かれ、ギョッとして真太を見ると、真太がすかさずリミと答え、先生からどんなところか聞かれて、アマズン川の源流だって、ハハハ」
「何が可笑しいの。上手く行ってないの」
「行っていないだろう。まあいいや、通わせてくれるんなら」
真太は不審に思って、
「バレバレだって事」
「そう思わないか」
「でも、リミの近くじゃあ無かったかなあの辺は」
「わかるのか、そうだけど、それならそれで、もうちょっとどんな所か、気の利いたこと言えよ。アマズン川の源流じゃあ、龍神の子に聞いたも同じだな。人間の子の言う事言わないと」
「じゃあなんて」
「気候が亜熱帯とか、意外と近代的とか」
「近代的なとこあった?」
「都会に行けばな。今度連れて行こうか」
「明日っから学校行くんだけど」
「今から、行かないとばれるってか。もうばれて居そうだがな。今日のリミ行きは止めておこう。明日から一人で行動することになるし」
「でも、明日また同じ事聞かれるよ。誰かから」
「ジャングルの様子でも言って居ろ。ジャングル育ちってな。嘘を言えばばれる」
「ふうん、分かった」
そう言う事で、翌日香奈ママに見送ってもらい列車に乗った。大体感覚的にこの列車だと感じていた。多分明日はどれに乗ればいいか、判りそうな気がした。
通勤通学の時間帯なので、座る席は無く、通路にぼんやり立っていると、
「お前この辺から通ってきているのか。昨日来た奴だろ」
と声を掛けられた。
振り向くと見覚えのある顔だった。昨日食堂に居た高校生風の奴だった。
「そうだよ、お前もあの学校の奴だな」
「ああ、所で、お前のママって結界張っていたよな。あの学校にも。俺、今日は入れるかなって思っていたんだ。本人に会えて良かったな」
「へえ、分かるの。お前って何者なんだ」
真太は驚いて尋ねた。
「別に、少し感が働くだけだよ」
そうなのかなと、不思議だったが、近づいてしゃべるくらいだから敵では無いだろうと思った。
一緒に通える奴が居て、安心だとも思える真太である。彼は柳悠一と名乗った。
柳の心配はあながち杞憂とも言えなかった。
学校に行ってみると、どうやら学校に入れない人が居た。職員室に行くと、欠席の先生が3人いた。こういう事は今まで無かったそうで、真太の担任になる筈の先生も、歩道橋から転がり落ちて足を折り、しばらく休職だそうで、違うクラスになった。他には校長が倒れて入院し、体育専門の先生は、盗撮の現行犯で昨日逮捕されたそうである。代わりのクラスの先生は中年の穏やかそうな女性で名は坂田美和と言った。
真太を見てにっこりするので、真太もつられてにっこりした。いつものパターンである。
急遽入れられたクラスは、一緒に学校に来た柳の居るクラスだった。最前列の席が空いており、隣が彼だった。どうやら問題児が最前列らしい配置である。
彼は真太を見て意味ありげに笑った。
担任の教科は国語で、いつも一時間目は国語だそうだ。授業が始まったが、真太の能力より上の進み具合で、さっぱり分からない。大体真太の能力に会った国語は小学生向けなのだが、生憎先生は足の骨を折っている。仕方なく真太は飛び級である。代わりの先生が来るまで自習のクラスでは不味いのだろう。
しかし、分からない話を聞いても退屈なだけで、真太はだんだん眠くなってきた。何しろ赤ちゃんなのだから眠くなれば寝るしかない。
「紅琉真太君、良くお休みの所申し訳ないけれど、次のページ呼んでくれるかしら」
声を掛けられて目が覚め、目を瞬かせると、周りで笑い声が聞こえる。
「えっと、僕。読むの得意じゃあないんですけど」
「誰でも最初は得意じゃあないのよ。それに何もしないと眠くなるでしょう」
「僕、今からちゃんとしていますから」
ぷっと吹き出す声もしている。
「あら、そうなの。じゃあ、他の人に読んでもらおうかしら。眠ったら次はあなたですからね」
「はいっ」
はっきり言って、まだ字は読めないので、真太は目を凝らしていた。恥はかけない事は、自覚していた。
目を見開いていると、先生が終いには噴き出した。面白かったらしい。何を笑っているのか皆が不思議がったが、笑うばかりで黙っていてくれた。しかし原因は真太であることは明白である。
休み時間になると、柳が、
「お前、まだ字が読めないのか」
と聞くので、
「読めるさ何が書いてあるか位判るよ」
と、強がって見せた。
「そういう事か」
と察している風である。
次の授業も同じようなパターンだった。しかし叱られもせず、教科書を読めと、無理強いもされなかった。おそらく読めない事は判っていたのだろう。
そういう風で、無事一日が終わり、柳と一緒に帰る事になった。
何処から乗るのか聞かれ、紅琉駅と言うと、柳は一つ手前の川西駅だった。
「俺んちに寄らないか、駅の直ぐ側なんだ」
と誘われ、別に断る理由も無いので、柳の家に付いて行った。川西駅近くは住宅街で、駅近くは普通の家が多く建っていた。言わばベッドタウンである。南へ10分も歩かないうちに、柳の家に着いた。家と言っても川西神社だった。紅琉川神社と対のような由緒正しい神社らしい立札があったが、真太には内容は読めなかった。書いてある説明書きの所々に紅琉とあったので察した真太である。
家に入るときは、お邪魔しますと言うべきなのは、記憶としてあった。悠一の部屋へ行く前にお婆さんが、
「お友達かい」
と顔を出した。そして真太を見るなり、
「おや、悠一、何処で見つけて来たんだい。この子を。まあ、まあっ」
等と、真太を見ながら歓声を上げる。終いには、
「まあ、可愛い事」
と、感想を言う。真太はどうやら、このお婆さんに正体がばれていると分かった。
「何処で見つけたかなんて、学校に決まっているじゃあないか」
と、悠一は言ったものの、おばあさんの感想に呆れて、
「婆さん、こいつは孫じゃあないからな。もうボケたのか。こっち来いよ真太」
と誤解したセリフを吐き、自分の部屋に入れた。悠一の部屋で、しばらく趣味の流行りのバンドのコレクションなどを見ていると、母親が菓子などを持って来て、様子を窺われた。お婆さんに何かしら言われたような感じである。どうやら帰った方が良い気がして、真太は家路に就いた。
家に戻り、アボにさっそく報告した。
「川西神社のお婆さんに、まあ、可愛いとか言われちゃった」
と言うと、アボは、
「困ったな、そのお婆さんはおそらく、お前の本性が見えたのだろう、赤ん坊の龍がな」
と言って、困り果てていた。
「よりによって、川西神社なんぞに行きおって」
挙句にはそんな文句まで言い出し、
「そのお婆さんや、悠一くんのママに口止めしとかないと。真太、川西神社に行くぞ」
と言う事になった。
車で神社に行ってみると、車や人の出入りが多く、何やら騒がしい。どうしたのかと、入らずに様子を窺うと、どうやら当のお婆さんが亡くなったようである。アボが中に入るのを躊躇ったのは葬儀の取り込みとは、別の理由のようで、
「誤解のないように、黙って帰った方が良さそうだな」
と言う事で、そそくさと戻った。出入りが多かったので、気が付かれずに済んだようである。
「どうして無くなったのかな、結構元気そうだったのに。俺の所為なの」
真太はショックだった。
「魔物に問われたが、黙っていてくれたようだな。お礼したいところだが、返って迷惑だろうから遠慮しておいた」
アボが教えた。
真太はお婆さんが気の毒になって、すっかりしょげてしまった。
翌日真太は、悠一が列車に乗って来るのを待っていたが、乗ってこなかった。学校に着くと、忌引きと言うもので数日学校には来ないそうである。
真太は仕方なく一人学校で過ごしていたが、気になって神社に行ってみた。
アボは行くなと言っておくべきだっただろう。常識の通じない真太なのだから。昨日の話で察する真太ではない。
神社の門をくぐると、妙な気配を感じた。それは真太にも分かった。うっそうと茂った木々の間からそれは出てきた。人ではない異形の姿である。
「おやおや、探していた奴がわざわざお出ましとはな」
初めて見る奴だが、何だか見覚えがある気もした。真太は、なすすべも無くポカンとそいつを見ていると、何処からともなく少し透明な人が現れ、襲ってきそうなそいつを刀で一掃した。その刀には見覚えがあった。家にある刀だった。
真太を振り返った透明な男の顔にも見覚えがあった。
「あれっ、確かシンじゃあないかな」
呟くと、
「我を見知っておるのか。では翔の生まれ変わりと言うのは事実のようだな」
「と言うか、本当の所は真太郎の生まれ変わりなんだってさ。黄泉で夕霧ママが言ったんだ。それ、俺んちの刀だろ。俺んちから持って来たの」
真太はシンにも、前世は親子だったと報告し、そして疑問の点も聞いた。
「そうだったのか、そうよ、お主の刀だ。どうりで翔はなれなれしいし、それが別に気にもならなんだはずじゃ」
シンはにっこりしたが、めったに笑わぬシンであり、あの遠い日にも見慣れない印象だった事も真太は覚えていた。
「まだ赤ん坊ではないか。こんなに小さいのに一人歩きか。まあアボと、我とで見張っておるから良いとも言えようが、この刀はよう切れて危ないから我が戻しておこう。ここに住む者は、まだ数日お主とは遊べぬ。早う家に戻らねば香奈殿が心配するぞ。ほれ、さっさと駅へ行け」
シンからそんな事を立て続けに言われ、大体の意味を掴んだ真太は、家に帰ることにした。
神社から出て、駅に行こうとしていると、
「主、乗るべき列車が分かっておろうかのう。仕方ない連れて帰ろう」
そう言ってシンは真太の首根っこを掴み家まで連れ帰った。真太は誰かに見られていないかなと少し心配になった。香奈ママが何時も心配しているからだ。
「近所の者には少し目を瞑ってもらっておいたからの。心配はいらぬ」
そう言いながら、窓から入ったシンは、丁度居合わせたアボに、
「神社に行きおったぞ。ほれ、刀は返しておくぞ。せいぜい守りに励めよ。ハハハ」
と笑って帰って行った。アボは少し睨みながら、
「神社には行くな、と言ってはいなかったかな」
と言うので、真太は、
「言ってない」
と言ってやった。
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