第52話 孤軍奮闘

 私は、ルクスのスキル『ルーム』によって現れたドアの向こう側に、ふたりを押し込んだ。

 とたんに、ドアのあちらとこちらが見えない壁によって仕切られてしまう。やはりこの部屋、定員は二名のようだ。『色欲』のスキルで造られた、『×××しないと出られない部屋』だもんね。ひょっとしたらそうなるかな、とは思ってたけど。

 まあいい。これでメアがルクスの治療に専念できる時間と場所を確保できたのだ。あとは私が、ふたりが部屋から出てくるまで踏ん張るだけだ。


「ティ……アナッ……!」


 ドアが閉まる瞬間、悲壮な表情を浮かべたルクスと目が合った。

 そんなにボロボロな状態のくせに、なに人の心配してんだか。ホント、お人好しなんだから。


「……死んだら許さないわよ」

 

 無理やり口もとに笑みを作って、精一杯の強がりを投げてやった。

 完全に閉まると同時に、ドアはスーッと空中に溶け、やがて消えてしまった。前回、私は部屋の中にいたからわからなかったけど、外から見るとこうなっていたのか。

 ……私、ちゃんと笑えてたかな? 

 目の前を見ると、半透明の身体を紅く発光させながら、天井近くまで伸び上がったスライム娘・ショコラが、凄まじい形相でこちらを睨み付けていた。


「おい、オマエ……。いったいナニしやがったデス! あのふたりをドコに逃がしたデスか!!」 


 ゼリー状の身体の内側から、気泡がボコボコと激しく沸き出している。まるで灼熱のマグマのようだった。


「さあね、教えるわけないでしょ。とにかく少しの間、アイツらは退場よ。アンタの遊び相手は私がしてあげる。せいぜいふたりで楽しみましょう?」

「あんまり舐めた口キクと、あとで痛い目を見るデスよ……? ……ん? 少しの間? それならアイツら、戻ってはくるんデスね……?」 


 半透明の口もとに、みるみる黒い笑みが満ちていく。


「テケリ・リ! テケリ・リ! いいデショウ! 遊びまショウ? ふたりデ! アイツらが戻ってきた時、アナタがどんな格好になっていたらイチバン愉快だろうかって、考えたダケで興奮してきちゃいマシタよ!!」

「……悪趣味な奴ね。どんな格好だってお断りよ!」


 震えそうになる身体を叱咤して、戦いの構えをとる。

 そして私は、絶望的な戦力差のある敵と、相対あいたいした。

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