第51話 ふたり、肌を重ねて

 ティアナ様に押し込まれるようにして入った薄暗い部屋は、目が慣れてくると、どこか見慣れた内装であることに気がついた。

 大きなベッド。奥には浴室に通じるドア。壁の棚には異世界の道具である『TV』。

 ここはまさに、ダンジョン『不夜城・ファイト一発🖤』の502号室、つまり私の部屋そっくりだった。

 直前まで『修練のダンジョン』にいたはずなのに。不思議、これがルクス様のスキル『ルーム』で造られた空間なのだろうか。

 背後で閉まったドアには、一枚のプレートが貼り付けられおり、そこにはファンシーな文字でこう書かれていた。


『ここは『×××』です』


 え!? ナニナニ、そんなこと聞いてない! 

 一瞬慌てたが、よく見ると文字には続きがあった。


『ただし、お部屋をご利用いただける時間には制限があります。ご休憩なら3ターム(時間)、ご宿泊なら12ターム。ご利用時間を過ぎますと、その時点でまだ×××されていなくても、お部屋からご退出いただくことになりますので、ご注意ください』

『なお、この部屋での1ターム(時間)は、外では1ミーツ(分)に相当します』

『また、この部屋から出た直後は……』


 最後の方は何故か文字が読めなかった。

 しかしなるほど、さっきティアナ様が口にしていたことの意味がわかった。


『このドアの向こうなら邪魔は入らないから! 12ターム(時間)あげる!』

「まあいいわ。12ミーツ(分)くらい、ひとりでなんとかするから』

『なんとしてもコイツを助けて!』


「そうだ、ルクス様!」


 一番大事なことを思い出して、慌てて足元を見ると、腹部を紅く染めたルクス様が倒れていた。床にまでジワジワと血だまりができていく。

 とにかく、ルクス様をお助けしなくては。 ティアナ様があの恐ろしい化け物をひとりで相手にして稼いでくれている、貴重な時間だ。僅かでも無駄にはできない。


「うっ……」


 ルクス様がかすかにうめく。意識が朦朧としているみたいだ。血を流し過ぎている。普段通りの方法では、きっと間に合わない。

 私は覚悟を決める。


「……ルクス様、今なら気づかないでいてくれますよね……?」


 私は、身に付けていたレオタードに手をかけ、そのままそれを脱ぎ捨てた。一糸まとわぬ、生まれたままの姿になる。あと、ルクス様の服も、申し訳ないけど脱がさせてもらった。

 私は元々裸族なので、部屋では裸で過ごす方が好きだ。だけど、異性の前で肌をさらしたことは、これまで一度だってない。でも、今だけは別だ。

 私のスキル『回復』は、『手のひらや、身体の一部が相手に触れている状態』で発動する。そしてそれは、接しているお互いの肌の面積が大きければ大きいほど、効果が増す。当然、裸で抱き合うなら効果は最大になるはずだ。

 下半身を見ないように目をつぶったまま、なんとかルクス様をベッドへと運ぶ。


「失礼……します……」


 ベッドがきしむ。

 私は、彼の隣に横になる。そして、そのまま背中に手を回し、身体を密着させた。

 ルクス様は、顔立ちは女の子みたいにかわいらしいのに、身体つきはやはり男の人のそれだった。女の身体にはない角張り。そして、筋肉の膨らみ。


 トクン、トクン、トクン。


 素肌に、心臓の鼓動が感じられる。まるで早鐘のような速さ。これはルクス様の? それとも私の鼓動だろうか。

 肌の接している部分が熱い。しかしそれは、心地の好い熱さだった。

 収まるべきところに、収まるべきものが収まる感覚。できればその腕で、今すぐ抱き寄せてほしくなる。

 妖しい興奮。サキュバスの本能? やだ、私ったらこんなときに。


「今はいい子にしてますから……あとで、私にもご褒美くださいね、ルクス様?」


 額に軽く口づけしてから、私は彼の身体を強く抱き締めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る