第17話 『傲慢』襲撃!
僕は今、『×××しないと出られない部屋』の、入り口のドアの前の床に正座させられている。目の前には女王様、もといティアナが立っていた。
「よ~~~するに、これはアンタのスキルなわけよね?」
「……はい、そのようです……」
「『×××しないと出られない部屋』とは言ってたけど、『×××する』か『使用時間の限界が来る』かすれば解除できた、と?」
「……はい、そこのドアのプレート、これまで読めなかった文字が一部読めるようになってて、そう書いてありました……。ちなみに『使用時間』の方は、【休憩】で3ターム(※時間)か、【宿泊】で12タームか選べるみたいです……」
「仕組みなんて訊いてないわっ! ……で、アンタは今回、自分がスキルを使っていたことには気がついてなかった、と?」
「……はい、これまでスキルなんて持ってなかったですし……」
ティアナが額に手をやりつつ、深いため息をつく。僕は恐る恐る、地獄の沙汰を待った。
いや、制裁ということで言えば、先ほどすでに超強力な一撃(殴った本人が、その威力に驚いていた程の)を喰らっていたのであるが。
「……もういいわ。早くスキルを解除して、外に出られるようにしなさいよ」
「あ、はい……。でももう、普通にそこのドアから出ていただけるようです……」
ガチャ。
さっきまでどんなことをしても開かなかったドアだったが、今はあっさりと開いた。
僕らが外に出ると、急に、背後で室内の景色が変わった。先ほどまでいた部屋とは別の、もっと広くて、調度品が豪華な部屋になっている。まさにVIPルームという感じだ。
おそらく、ちょうどドアを境にスキル『ルーム』が展開して、現実の空間を一時的に上書きしてしまっていたんだろう。
「まったく……、誰かさんのせいでひどい目にあったわ」
「僕もです」なんて言おうものなら、さらなる制裁を受けるに違いない。うかつなことを言わないよう、僕は貝のように口を閉ざした。
しかし、この『ルーム』というスキル、いつの間にかスキル欄に追加されているわ、突然前触れもなく展開するわ(たしかに『ルーム』とは口にしたけど)、ドアに書かれている説明が小出しだわ、と大層不親切だ。おかげでティアナにぶん殴られて、危うく死んじゃうところだった。
だいたい、『×××しなくても3ターム待っていれば部屋から出られる』って、はじめからわかっていれば、あんなに慌てることはなかった。せめてその説明だけでも、最初からオープンにしておいてくれれば……。
……ん? 3ターム……?
「ねぇ、ティアナ……。僕ら、結果的にけっこう長くあの部屋にいたことになるよね……?」
「そうね、アンタのせいでね」
ティアナがにらみつけてくる。その目、怖いからやめてください。
「いや……つまり僕ら、『ふたりでダンジョン探索に行ってきま~す』って言って、この連れ込み宿みたいな場所で『3ターム以上』も、母上やアンナさんを待たせている状態ってこと……だよね?」
「そう言われれば……、そう……ね」
「端から見たら、『3ターム以上もふたりで何してたの?』ってことにならない……かな?」
なる。なるなる。時間だけで考えれば、若いふたりが仲良くヤっちゃってるって、誤解されても不思議じゃない! ……いやまあ、実際途中までは必要に迫られてその流れになっていたわけだけど。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
また地鳴りのような音が聞こえてきた。ティアナの方から。
「バカバカバカ! そういうことはもっと早く気がつきなさいよ!」
「ティアナだって気がついてなかったじゃないか!」
「うるっさいわね! あーもーどうしよー! 私、久しぶりに再会した幼なじみといきなり『そういうこと』しちゃう子みたいに見えちゃうじゃなーい!」
「と、とにかく、早く母上たちのところに戻ろうよ!」
怒りと羞恥に我を忘れて拳に‘’力‘’を溜めているティアナを促して、僕らはダンジョン入り口へと急いだ。
◆
ダンジョンの入り口では、母上とアンナさんが楽しそうに話していた。……ずっと立ち話してたのかな? 大人の女性ってスゴい。
「あらふたりとも、おかえりなさい。どうだった、このダンジョン? 異世界の珍しい道具がたくさんあって、面白かったでしょー?」
母上がにこやかに言う。
あれ? 絶対第一声で「ふたりとも、ずいぶん『お楽しみ』だったじゃな~い?」とか言われるかと思ってた。
「ええと……はい、たしかに珍しいものばかりでした。僕ら、思わず探索に夢中になっちゃったみたいで、長い時間お待たせしてしまってすみませんでした……」
とりあえず、『探索に夢中だった』ってことにしておいた。「それで3タームも?」と突っ込まれるかとは思ったが、なんとか
押しきるしかない。隣にいるティアナも、アイコンタクトで了解してくる。
「え~? お待たせ~? 別にたいして待ってないわよ~。 ね~、アンナちゃん?」
「ええ、おふたりが探索に出かけられて、まだ1タームも過ぎてませんし。お早いお帰りでした」
ん? 1タームも過ぎてないだって……? おかしい。だって僕ら、最初にいくつかの部屋を見て回って、その後あの部屋に閉じ込められて、たっぷり3タームかかって解放されたんだぞ? トータルで絶対3ターム以上かかっているはずなのに……。
(ねぇ……、どういうこと……?)
ティアナが耳打ちしてくる。
(わからない……。でもふたりとも、僕らをからかっているわけでもなさそうだし……。……あ、もしかして)
僕の頭にある推論が浮かぶ。
(なによ?)
(いや、ただの思いつきなんだけど、あの部屋ってスキルでできたものだったじゃない? スキルって、色々な効果を発揮したりするわけだけど、あの部屋、もしかしたら『室内の時間がすごく早く流れる』ってことなのかも……)
(どういうこと?)
簡単に言ってしまえば、『部屋の中と外で、時間の進み方が違う』ってことだ。
もし仮に、あの部屋で過ごした3タームが、外では3ミーツ(※分)くらいしか経ってなかったとしたら。母上たちのあの反応も頷ける。 まあ、実際どれくらいズレているかは、実験してみないことにはわからないけど。
(とにかく、私たちは長時間どっかに行ってたことにはなってない、ってことなのよね?)
(たぶんね)
(ならラッキーだわ。私たちは部屋をいくつか覗いて、すぐに帰ってきた。そういうことにするわよ。いいわね?)
(サー、イエッサー……)
僕はにらみつけてくるティアナに素直に服従の意を示した。
◆
(……ねー、アンナちゃん。あのふたり、どうだったと思う?)
(うーん、ダンジョン内で『ルーム』が展開された気配があったから、ふたりとも『例の部屋』には入ったと思うけど……。でも、私の嗅覚には『童貞臭』と『乙女臭』がプンプン臭ってくるから、『時間切れ』だったんでしょうね)
(えー、ルクスったらヘタレ~)
(まあまあ。先代の『色欲』様もそんな感じだったし。私もはじめのうちは、けっこう苦労したんだから……)
◆
僕らは小声で作戦を練っていたが、ふと気がつくと、母上たちもこちらをチラチラ見ながらヒソヒソ話をしていた。いったい何を話しているんだろう?
「あの……、母上、アンナさん。このあとはどうするんですか?」
「―—え? ええ、失礼しました。コアを使ったダンジョン運営の方法については明日からゆっくりレクチャーさせていただきますので、今日のところはここまでです。後ほど、ルクス様が今後寝起きをされるお部屋にご案内いたしますね」
「というわけで、ルクスのダンジョンマスター就任の儀はこれにて終了~。お疲れ様でした~」
ダンジョンに着いて、コアとリンクして、ダンジョン内をちょっと探索しただけで、初日が終わってしまった。こんなんでいいのかな?
まあ実際は『×××しないと出られない部屋』に閉じ込められて大変だったから、早めに休めるならありがたいんだけど。
「ティアナちゃんも今日はありがとね~。この子も久しぶりにティアナちゃんに会えて、嬉しかったと思うわ~。ね~ルクス?」
「う、うん。ありがとう、ティアナ」
「どういたしまして。私はべつに、嬉しくはなかったんだけどね?」
ティアナはフン、と言うとそっぽを向いた。そして、こちらを見ずに、
「……約束、次また忘れたら許さないから」
小さな声で言った。
「うん、もちろん。 ―—ん? 前に何か約束してたっけ―—?」
僕が尋ねようとした、ちょうどその時だった。
ドガァアアァァン―—!!!!
すさまじい爆発音とともに、ダンジョンが大きく揺れた。
「な、なにが起こったんだ?」
「マスター、敵襲です! ダンジョン外部、攻撃を受けました。外壁の一部が破損。損傷は軽微です。ダンジョン内の『お客様』方は建物の裏手にテレポートで避難させました!」
アンナさんが的確に状況を伝えてくれる。なんらかの手段で、ダンジョン内外を常に監視しているのだろう。今はそれより。
「敵だって?」
この『色欲』のダンジョンは今日、ついさっきダンジョンとして息を吹き替えしたばかりなのだ。それまではアンナさんのおかげで、連れ込み宿として偽装したまま『休眠』していた。つまり、人間たちには存在さえ認知されておらず、ゆえに突然襲撃を受けるいわれはない。それならば。
「ここがダンジョンだってことを知ってる……同じ魔族ってこと?」
僕がひとつの結論に至った、その時。
「ギャハハハハハハ! オイ、クソ兄貴! 『傲慢』のキビル様が、祝いに来てやったぜぇぇぇぇ?」
甲高い声とともに、入り口の両開きの扉が粉々に吹き飛んだ。
★★★ 次回 ★★★
『第18話 宣戦布告』、お楽しみに!
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