第16話 スキル『ルーム』

 部屋の中に生まれ始めていた、僕とティアナの『なんかいい雰囲気』はすべて跡形もなく消し飛んでいた。

 室内にあふれかえる嵐のようなあえぎ声によって。


『Oh! Yes! Oh! Yes! 奥さん!!!』

『Wow! サブちゃん、You're cooooool!!!!』

 

 ティアナは横になったまま、顔だけをTVの方に向けて、表情をなくしている。

 僕も、あまりの出来事にしばし固まってしまっていたが、慌てて元凶と思われる、枕の下の黒い板を探し出して赤い突起を押した。TVは沈黙した。

 室内は再び静寂に包まれた。しかし、悲しいことに『なんかいい雰囲気』は二度と戻ってこなかった。

 

「……。ねえ、ルクス……あれ、何?」

「う、うん……。遠見とおみの水晶玉や水鏡みずかがみみたいに、遠くの出来事を映し出す仕掛けみたいなんだ。あれもたぶん、異世界の道具なんだと思うけど……」

「へー、そうなんだー……」


「……」「……」


 ど、どうしよう……。

 

 今からさっきの雰囲気に持っていくのは、どう考えても不可能なことのように思われた。奇跡のように歯車が嚙み合って、あそこまで持っていけたわけだし。こんなマイナス地点からのスタートで、あの高みにはいけないって……。


「……」

「……」

「………」

「…………」


 気まずい沈黙にそろそろ耐え切れなくなっていた、その時。



プワアァァ~~~~~~~ンッ!


『終~~~~~~~了~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!』



 突如、部屋の中に、見知らぬ男性の声が響いた。



「――な、なになに?」


 思わず、辺りをキョロキョロと見まわす僕ら。

 と、目の前の空間に、半透明の文字板が現れた。

 なにか書いてある? えーと……。


『3タームが経過して【ご休憩】時間が終了いたしました。

 このまま【ご宿泊】なさいますか?

 なお、【ご宿泊】の場合は、このままあと9ターム、お部屋をご利用いただけます。


 スキル『ルーム』を終了する / 延長して【宿泊】する』

 


「スキル、『ルーム』……?」


 スキルだって? この部屋……というか、この空間自体が、誰かのスキルで出来てるってことか? 誰かって誰だろう? まさか僕じゃないもんな、スキルなんて持ってないし。ほら、パラメータ見ても、相変わらずスキル欄は空っぽで……って、なんかある! いったい、いつの間に――?

(※ 第4話 ダンジョン『不夜城 ファイト一発🖤』のラストを参照)


 そういえば、この部屋に入る前に魔力が減った気がしたけど……。


『VIP……『ルーム』……?』

『【スキル『ルーム』を発動します】』


 あ、僕言ってる! 偶然『ルーム』って口にしてる! それで、なんか発動の合図を聞いてた! 完全に聞き流してたけど!

 じゃあ、やっぱりこれは僕のスキルってことで、生まれて初めてスキルをゲットできたってことなんだ! スゴイ! 効果はまだよくわかんないけど、とにかく嬉しい!


 ゾクッ―—!


 ひとりはしゃいでいた僕の背中に、不意に悪寒が走った。 



「へえ……この部屋ってスキルだったんだ……。こんなエロいスキルなんて、いったい誰のなのかしらね? 『色欲』さん……?」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………


 天変地異の前兆のような音が聞こえる。僕の前方から。

 怒り狂った猛獣のようなプレッシャーを感じる。僕の前方から。 

 


「ルクス……?」

「はい……」



「しねええええええええええええええええええええええええ!!!!!!」



 凄まじい破壊音と長い長い悲鳴が、周囲に木霊こだました。

 


◆ステータス

名前:ティアナ・ヴォルフガンド

性別/年齢:女/18歳

権能けんのう:『獣化じゅうか

職業:武闘家

レベル:10

HP :25

MP:13

BP :30(+70  ※) ←New!

装備:布の服

スキル:『獣王の爪』(斬撃)

    『獣王撃』(打撃)




★★★ 次回 ★★★

『第17話 『傲慢ごうまん』襲撃!』、お楽しみに!





 

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