第15話 誓い
「私、アンタがダイッキライ」
彼女は言った。
さっきまで高まっていた身体に、不意に氷の刃を突き刺されたような錯覚を覚えた。
「『童貞の僕が、急に女の子とエッチできてラッキー!』とか思ってた? 『彼女には申し訳ないけど、シないと部屋から出られないんだから、最終的にはするより他に仕方ないよね?』とか思ってた? 『僕は本当は、心が通い合ってからこういうことをしたかったタイプの真面目なキャラです。誤解なきように』とか思ってた――?」
ティアナってば、思ったことハッキリ言っちゃうんだから。気をつけて、けっこう傷つく人いるかもしれないよ!
おもに僕とか、僕とか。ほかにも僕とか。
「シたくないわよ、こんなこと。アンタとなんて。ううん、誰とだって。——でも、シなきゃ出られないんでしょ? するしかないんでしょ? だったらさっさとシなさいよ。 私が踏ん切りつけた瞬間に、さっさとシなさいよ。決心が揺るがないうちに、パパっと済ませなさいよ。何余計なこと考えてんのよ、童貞のくせに。考えてもわかんないこと考えてんじゃないわよ、童貞のくせに。気を使うとか、できるわけないのにしようとすんじゃないわよ、童貞のくせに!」
言葉が次々と、鋭利な刃物になって飛んでくる。そして、うまいこと僕の急所をとらえてくる。大丈夫大丈夫、ただの致命傷だ。
「幼なじみだからって、ずっと会ってなかった男に『ハイ、どうぞ』って身体を開けると思う? 小さい頃一緒にお風呂に入ってたからって、肌を晒せると思う? お医者さんごっこみたいなもんだからって、服を脱がすのを許せると思うの? ラノベの読み過ぎよ、このご都合主義者! 控えめに言って犯罪よ、この犯罪者!」
もうやめて! 僕のHPはゼロよ! 生まれてきてスミマセン!
「私は、小さい頃の夢は魔界一のダンジョンマスターになることだったのに、大人になってみたら一族の台所事情で姉さんたちにしか継がせるダンジョンはないって言われた、そんな女よ! それに引き換え、アンタんちはいいよね、兄弟全員分余裕でダンジョン持ってて、‘’力‘’がなくたってマスターになれて!
そのくせ、『僕、なんか急に色々巻き込まれちゃって大変だな~』みたいな被害者面して、なんなの? 『僕、ラノベの主人公みたいだな~』とでも思ってんの? 心の中でベラベラひとり語りばっかりしてそうな顔してるくせに、現実には『……』ばっかりで自己主張しないってなんなのよ! なに考えてんだかわかんないのよ! なんかしゃべれ! 幼なじみって立ち場に甘えんな! 久しぶりに会った、成長した今のアンタはいったいどんな男になってんのよ! 言ってみなさいよ!」
さっきから、言葉と一緒に、顔に水が落ちてくる。おかしいな、部屋の中なのに。
これ以上濡れるのは御免だから、僕は彼女と位置を入れ換えることにした。
ガバッ!
「じゃあ言ってあげるよ! 『童貞の僕が、急に女の子とエッチできてラッキー!』とか思ってたよ! 『ティアナには申し訳ないけど、シないと部屋から出られないんだから、最終的にはするより他に仕方ないよね?』とか思ってたよ! 『でも僕本当は、心が通い合ってからこういうことをしたかったタイプの真面目なキャラだから、誤解なきように』って思ってたよ! 『なんか急に色々巻き込まれちゃって、僕ってばラノベの主人公みたいだな~』って思って、心の中でベラベラひとり語りもしてたよ、なんでわかるのさ!」
僕は一気にまくし立てる。
「……サイっテー」
ティアナが、僕の身体の下からさげすんだ視線をぶつけてくる。いっそ気持ちいいくらいだ。いけない、何かに目覚めてしまいそうだ……。
「だってしょうがないじゃん、ボク童貞だから! しょうがないじゃん、ずっと会ってなかった小さい頃の初恋の相手が、とんでもなくかわいくなってたんだから!」
あれ? 僕、今なんて言った?
「……バカじゃないの?」
ティアナがふい、と目をそらす。
さらに嫌われたかな? でもここまで来たら、もう知ったことか。
「だから今、僕は君とシたいです! 手を握らせてください! ハグさせてください! キスさせてください! ×××させてください! お願いします!!」
みっともない僕の声が、部屋中に響いた。
「あー……う~ん……。でもなー、ダンジョンランキング最下位のマスターさんに言われてもな~?」
そんなあ。……いや、まだだ、あきらめるな! 目指せ脱童貞! 童貞の一念岩をも通す! さあ、ビシッと言い返せ!
「そこをなんとか……お願いできませんでしょうか……?」
うん、思ってたのとは違う感じになったけど、言ってやったです!
「うーん。なら……、私の代わりに『魔界一のダンジョンマスターになる』って、約束してくれるなら……いいよ?」
「なる! なります! ならさせてください!」
やったやった! OKもらった! そんなことでいいなら! そんなことでい……そんなこと……?
「ばーか。——んっ」
ティアナが目を閉じて、両手を広げる。
「え?」
あ、目を開けた。こわい、獣の眼光だ。
「アンタねぇ……。さっきの続きよ。ほら」
さっきの続き……ってことは、キキキキキキスですか?
ティアナが再び目を閉じる。
僕はドキドキしながら彼女に顔を近づけつつ、身体を支えるためにベッド……ちょうど『枕のところ』に手をついた。
その瞬間。
『奥さん奥さんっ! もう出すよ、奥さんっ!!!』
『サブちゃんサブちゃんっ! ああイクっ! イクイクイク、イク~~~っっっ!!!!』
とんでもない大音量のあえぎ声が、部屋中に響き渡った。
★★★ 次回 ★★★
『第16話 スキル『ルーム』』、お楽しみに!
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