第410話 悪臭兵器

 ルディとソラリスが昆布締めを作っている間、リンは昨日から血抜きをしていた牛足の調理に取り掛かっていた。


 まず、昨日から水で血抜きをしていた牛足の蹄を掴むや、力任せに引き裂いた。いきなりの力技に、偶然近くを通りかかった料理人がギョットしてリンに怯える。


 牛足を寸胴鍋に入れて強火で15分ほど茹でると、灰汁が沢山出てくるので、一度灰汁だらけの水を捨てて鍋の水を入れ替える。

 今度は牛足と一緒に、臭み消しに玉ねぎを半分、生姜、にんにく、長ネギの青い部分、ローリエ。それと塩と胡椒を投入してから蓋をして、もう一度茹で始めた。




 外でリンが牛足を煮込んでいると、次第に鍋から強烈な臭いが漂い始め、それは近くの厨房まで届いてきた。


「なあ、何か臭くないか?」


 厨房で仕込み作業をしていた料理人が、外から漂う臭い匂いに顔をしかめて隣の同僚に話し掛けた。


「なんでも明日の晩餐会に、牛の足を煮込んで出すらしいぜ」


 その話に厨房に居た全ての料理人が、目を大きく開けた。


「マジかよ!? そんなゲテモノを国王に食わせたら、首が飛ぶぞ‼」

「一体何を考えているのやら……」


 それに同僚も同意して、飽きれた様子で肩を竦めた。


「それにしても臭いな。こっちの料理に臭いが移るぜ。ちょっと文句を言ってくる」


 一人の料理人が臭いに耐え切れず、抗議をしに外へ出た。

 その10分後……抗議をしに行った料理人が、ボロボロの格好で戻って来た。


「おい、一体どうした?」


 心配した同僚が話し掛けると、文句を言いに行った料理人は顔を青くして頭を何度も左右に振った。


「……俺が無理やり火を止めようとしたら、あの女に何度も投げ飛ばされた。やべえ、見た目は華奢なのに、あの女はマジ、ヤベエ」


 それを聞いた料理人たちはお互いの顔を見合わせて、どうせあと二日で居なくなるんだから我慢しようと無視を決めた。

 そのような件があり、リンの牛足の料理は多くの料理人から噂が広まり、晩餐会では臭い牛の足が料理に出ると、一日も立たずに王城中に広まった。




 晩餐会当日。

 クリス国王に招待された要人が、次々と食堂前のサロンに入って来た。

 招待客はバシュー財務大臣、メラス法務大臣、セシリオ軍務大臣夫妻、ペニート宰相夫妻、レインズ。それと、そもそもの原因となった料理長に、ルディが呼んだナオミとルイジアナ。


 ところが、当日になってペニート夫人が体調不良で来れなくなった。

 実は今回の晩餐会の噂は王城だけでなく、貴族の間でも噂になっていた。

 平民が宮廷料理人に喧嘩を売り、それを王妃が面白がって平民の料理を食べたいと所望する。

 そして、料理に使う食材の中に、スラムの住人ですら食べない牛足が出てくる。話題が少ない時代、それは貴族の間で大きな噂になった。


 牛の足を食べさせられると耳にしたペニート夫人は、国王主催の晩餐会でも病気を偽って登城しなかった。

 それは彼女だけでなく、ルディの料理を知るナオミたち以外、国王の招待なので仕方なく参加したが、不安は隠しきれず表情に現れていた。


 ペニート夫人の不参加で、彼女の代わりに参加したのが、クレメンテ・コンバロ子爵。

 彼は一度ルディと会った事がある。

 王城の下級貴族用のサロンで、ルディが不味い宮廷料理を食べていた時、突然現れて宮廷料理を批判し、ルディの蘊蓄を聞くと叫んで去っていった変人だった。

 今回参加したのは、牛足を食わされると聞いて、多くの貴族が参加を拒否した中、唯一彼だけがルディという名前を聞いて、参加を希望したからだった。




 時間になって全員が煌びやかな食堂に入り席に着く。

 暫くして、今回の主催者クリス国王の家族が登場し、全員が席を立って彼らを歓迎した。


 クリス国王とアマンダ王妃の後から入ってきた二人の子供が、自分の席の前に立つ。

 一人はエスタバン・ハルビニア王子。年齢は16歳。

 クリス国王に似た黒髪をしており、活発な雰囲気とは裏腹に彼の目は来客者の様子を伺っており、知的な内面が見え隠れしていた。


 もう一人はレイナ・ハルビニア王女。年齢は14歳。

 彼女はアマンダ王妃に似た栗色の髪をしていた。

 容姿は若くて美しく、王女としての教育が行き届いているのか、無邪気な様子は一切なく、来客者に向かって微笑んでいた。




 クリス国王が座る前に、参加者全員に声を掛ける。


「今日は突然の招待にも拘わらず、来てくれて感謝する」


 そして、今回の晩餐会の趣旨が、今回の戦争で活躍したルディの食事を楽しむ事が目的であり、決して平民を馬鹿にしたものではないと話した。

 クリス国王の話が終わって全員が席に着くや、直ぐにエスタバン王子とレイナ王女がルイジアナに話し掛けてきた。


「ルイジアナ先生お久しぶりです」

「二人ともお元気そうですね」


 レイナ王女にルイジアナが微笑んで答える。


「今回の活躍は聞いています。魔法で多くの敵を倒したと聞きました」

「私だけの魔法ではないですよ。それにあれは偶然の産物で、もう一度やれと言われても無理です」


 やや興奮しているエスタバン王子に、ルイジアナが笑って頭を左右に振る。


 ルイジアナは王城に居た頃、王宮魔術師の役職に就いていたが、知識経験豊富な事から、エスタバン王子とレイナ王女の家庭教師もしていた。

 二人は優しいルイジアナの事が大好きで、突然彼女が去った事を残念に思っていた。

 それ故、今日は久しぶりに再会できると聞いて、楽しみにしていた。


「ルイジアナ先生。隣の女性を紹介してもらっても宜しいですか?」


 エスタバン王子がルイジアナの隣に座るナオミに視線を向ける。

 レイナ王女も彼と同様に、ナオミの事が気になっていた。

 特にナオミの着ている服は奇抜ながらも洗練されており、興味があった。


「彼女はナオミ。奈落の魔女と言えば分かりますね」


 ルイジアナの紹介にナオミが笑みを浮かべる。

 会釈しないのは、大国の王子であろうと、自分の力の方が上であるというプライドがあるからだった。


 王子と王女は奈落の魔女と聞いて驚くが、招待客のナオミに向かって頭を下げた。


「やはりそうでしたか、今日はようこそ。私はエスタバン・ハルビニアです」

「レイナ・ハルビニアでございます」


 相手が平民だろうが構わず、王子と王女が丁寧に挨拶する。

 それを聞いて、初めてナオミが口を開いた。


「ご丁寧な挨拶だな。では私もお礼にきちんと名乗ろう。私の名はレイラ・ハインライン・ナオミ・アズマイヤ・フロートリア。人は私を奈落の魔女と呼ぶ」


 王子と王女はナオミの貴賓ある名乗りに驚くが、直ぐに表情を隠して、彼女を平民の魔女ではなく高貴な女性だと認識を改めた。


 王子と王女はクリス国王の近くに座っており、ナオミとルイジアナは末席に座っていた。

 当然、今の会話は相手に聞こえる声で喋っていたので、会話は全員に聞こえていた。


 ナオミの名前を耳にした全員がギョッとして、彼女に視線を向ける。

 その視線を物ともせずナオミは鼻で笑うと、その格好良さに王子と王女が一発で彼女に惚れた。




※ 超絶良いとこお邪魔します。


 今日、この小説の一巻が発売します。

 その発売を記念して、出版元のカドカワBooksから、この小説をフォローしている読者全員に書籍限定の閑話、『運送屋ルディ』の冒頭部分をカクヨムメールでプレゼントするそうです。

 ……多分、俺がショートストーリを5本も書かされてキレたせい。


 カクヨムからのメールを受け取らないに設定していたら、届かないと思う。メールが来なくてもクレームを入れるなよ。自己責任だからな。

 それと、メールは今週中に送ると言っていたので、もしかしたら今日中にフォローすれば間に合うのかな? 間違っていたらゴメン。


 閑話はルディが宇宙に居た頃の話です。もし、興味があったら、この小説をフォローしてください。

 ついでに、読んで続きが気になったら、今すぐ本を買ってね。


※ 上記のサービスは終了しました。

 以上

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