第400話 カッサンドルフの目指す都市

 翌日。予定通りに、デッドフォレスト領からフロントライン川を下って、アルセニオと同僚の4人がカッサンドルフにやってきた。


「アルセニオさん。面と向かって話すの初めてですね。どもールディですー」

「こちらこそ、ソラリス嬢からルディ殿の話は聞いておるぞ。よろしく頼む」


 執務室で、アルセニオ率いる元貴族の5人と会ったルディが頭を下げると、アルセニオたちも見た目が子供のルディに向かって丁寧に頭を下げた。


 アルセニオたちがデッドフォレスト領へ来た当時、ルディはナオミの家でカッサンドルフ攻略のための準備に忙しく、彼らと会う時間がなかった。

 それ故、ルディとアルセニオたちは今まで会う機会がなく、お互いに経済について色々と話をしたいと思っていた。


「まずは、アルセニオさんは行政官長、後の皆さんは行政官。赴任おめでとーです」

「いやいや。聞けばルディ殿が陛下に進言して、没落した私たちをデッドフォレスト領に呼んでくださったおかげじゃ」


 カッサンドルフの行政官長になったアルセニオと4人の行政官が、丁寧に頭を下げた。


「律儀ですねー。僕、人手が足りねーから、陛下に誰か寄越せと言っただけですよ」


 お礼を言われて、ルディが微笑んだ。




「さて、そろそろ引継ぎの話をしよーと思うです」

「ソラリス嬢から、デッドフォレスト領の経営指針はルディ殿の考えだと聞いておる。話を聞くのが楽しみじゃ」

「そんなに褒めると照れっちゃうですよ。まずですねー、今回の戦争と経済について説明するです」


 ローランドとの戦争の費用確保のために、地方債を発行した事。

 デッドフォレスト領の地方債でカッサンドルフの景気を上げた事。

 カッサンドルフの好景気に、他の貴族も地方債をこぞって購入した事。

 クリス国王が経済戦争を仕掛けて、地方債がバンバン売れた事。

 戦争が始まると同時に物価を下げて、バブルが弾けた事。


 それ等をルディが説明すると、全員が驚きすぎて口をあんぐりと開けた。


「もの凄い事をなさったですな…………」


 アルセニオが感心半分呆れ半分に呟くと、ルディが肩を竦めた。


「戦争に勝つだけなら、ここまでする必要ねーかったです。だけど、勝った後、借金まみれの不景気なるの確実。それだけは避けたかったですよ」

「……なるほど」

「それで、今のカッサンドルフの状況ですが、金は金庫に入りきれないほどたっぷりあるです。ですが、これ全部地方債で集めた銭よ。3年後に返す必要があるです」

「……ふむふむ」

「それと、ローランドからの賠償金はなしです。逆に、今年は100万トンの小麦を支払う必要があるです」

「100万トン……」


 けた外れの支払いに行政官の誰かが呟いた。


「支払いのために、街に出稼ぎに来た農民の半分を返して農業させたです。多分、それでギリギリ払える思うです」

「だが、それではこちらの食い分がなくなるのでは?」

「当然ねーですよ。だから、今年はデッドフォレスト領から購入しやがれです」

「三倍小麦か⁉」


 正解を言い当てたアルセニオにルディが頷く。

 三倍小麦とは、ルディが宇宙から持ってきた新種の小麦の事。

 まだ収穫していないが、この惑星で生産されている小麦の三倍の粒が取れるらしいので、三倍小麦と呼ばれ始めていた。


「さすがアルセニオさんですね、正解です。本当は来年から本格的に植える予定でしたけど、前倒しして20万人の年間消費量分を生産したです」


 ルディが言う事が本当ならば、カッサンドルフとデッドフォレスト領の総人口が賄える生産量だった。


「それとですね、輸送手段はフロントライン川を使う予定です。そーすれば、輸送コストも安く済むです」

「確かに儂らも川を下ってここに来たが、日数も短く運賃も安い。実に計画的ですのう……」

「これは後で気が付いた偶然です」


 アルセニオと四人の行政官は感心した様子でルディを褒めた。




「今年はこれで乗り切るとしてですね。カッサンドルフをどんな街にするかを決めてーと思うです」


 ルディの話に全員が頷く。


「確かにその通りですな。儂らもソラリス嬢から、生産都市、工業都市、貿易都市の特徴を色々と学びましたぞ」

「なら話し早えーです。カッサンドルフは金融都市にしようと思うです」

「金融都市?」


 初めて聞く都市のスタイルに全員が首を傾げた。


「基本的に生産都市と同じですが、目的が違げーです」


 ルディの説明によると、生産都市は食料の生産が目的だが、金融都市は人口を増やして豊かにし、税収を増やすのが目的だった。

 人口を増やすためには食料が必須。カッサンドルフは農業地域なので立地条件は満たしている。あと必要なのは、人口増加に必要な施設と制度だった。


「人口増加に必要な施設は病院です。今は人口に対して数足りてねーです。そのためには、医者を増やす必要あるから学校も必要です」

「……ふむ」

「制度は全員加入の医療保険が理想ですけど、いきなりは難しいですから、まずは国営の任意保険を作ろーと思うです」

「その保険とはなんぞ?」


 アルセニオの質問に、ルディが保険について説明をする。


「簡単に説明すると、医療費を皆で負担するです。そーすれば、重病の患者でも割引価格で治療が受けられるです」

「理解しました。死亡率を下げるのですね?」

「正解なのです。だけーど、毎月の保険の支払い面倒くせーから、銀行を作るのです!」

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