第399話 戦利品の処分

『ハク、これが何か分かるか?』


 ルディが電子頭脳を通じてハルに質問すると、直ぐに返答が返ってきた。


『私はハクではなく、ハルです』

『おっと、名前が似てるから間違えた』

『お気を付けください。それで回答ですが、解析した結果、マナ取集を目的とした電子回路と思われます』


 ハルはデッドフォレスト領で倒したローランド兵から回収した、魔法銃を既に解析していたので、直ぐに答えた。


『電子回路?』

『イエス、マスター。周囲のマナを集めて電気に変換する構造です。周囲からマナを取集し電気に変換。それでコイルに電流を流して魔石を放っています。そして、マナの取集は、近くの人間の体内にあるマナも対象でした』

『なるほど理解した。一体、誰がこんなバカげた物を作ったんだ? しかも大量に……』


 そう言ってルディが目の前に積まれている魔法銃の山を見上げる。


『それは現在でも不明です。ローランド国に偵察ドローンを送って調査しますか?』

『……そうだな。この銃を作っている製造工場を調べろ。この電子回路はこの惑星の人類にとって危険な気がする。それに……1200年前のビアンカ・フレアの墜落と、何か関係がありそうだ』


 ルディは確信してハルに答えた。




「ハク爺」

「考えが纏まったかの?」

「魔石は色々と使い道があると思うです」

「儂は古い人間じゃから、よー分からん」

「そうやって考える放棄すると、ボケるの早まるですよ」

「……むっ! 気を付けよう」


 ルディの冗談に、最近物忘れが多くなったハクが反省する。


「将来、魔道具が発展したら魔石の需要高まるです。今の安い時期に回収するです」

「その考えは理解できるぞ。だが、将来と言っても何時になるか分からん物を今から集めるんか?」

「先行投資というヤツです」

「まあ、ルディ殿がそう言うなら、デッドフォレスト領に送るとしよう」

「ヨロシコです。魔法銃はバラバラにするです。筒の木造部分は薪に丁度良い大きさだから、売っちまえです」


 ルディがそう言うと、ハクが声を出して笑った。


「ふぉふぉふぉ。武器を薪にするなど、ローランドが聞いたら怒り狂いそうじゃ」

「リサイクルはそんなに儲からねーです」

「リサイタル?」

「そういうボケは要らんです」

「……?」


 ルディのツッコミに、ハクが自分の後頭部をペシッと叩いた。


「中の金属は解かして、農具、鍋、釘とかにしちまえです」

「武器は作らんのか?」

「溶かしても不純物多くて、質の悪い武器にしかならんですよ?」

「なら要らんの」

「問題なのはこのチップです」


 そう言ってルディが手にした電子回路をハクに見せた。


「それはなんじゃ?」

「マナ回収装置です。これが起動すると、近くの人間に悪影響を及ぼすです」

「……ふむ」


 ルディの説明を聞いて、ハクが厳しい表情を浮かべた。


「安全に使えば使い道はあるですけど、今の技術では危険の方が高けーです。だから、ハンマーでぶん殴って壊して、鉄と一緒にドロドロに溶かしやがれです」


 ルディの頭の中では、この電子チップを使って空気中からマナを吸収すれば、永久機関が作れた。

 だが、今の惑星の技術レベルで、それを広めるのは危険だと判断する。


「本当に良いのか?」

「ぶっ壊して処分した方が、何も考えずに済むから楽ですよ」

「ふぉふぉふぉ。その意見は儂も同意じゃ、ぶっ壊す事にしよう」

「お頼み申すです」


 こうしてハルビニア本土から何か言って来る前に、集めた魔法銃の処分が決まった。




 ルディがカッサンドルフで割り当てられた部屋に戻ると、ハルが話し掛けて来た。


『マスター。エルフの集落にはまだ行かないのですか?』

「忙しかっただけで、忘れてねーです」


 元々ルディは春になったらエルフの森に行って、エルフの秘宝を拝む予定だった。だが、カールからの依頼で戦争に参加すると、準備に忙しくて春になってもエルフの里に行く暇がなかった。


「そろそろ落ち着いてきたから、行きたいですねー。ルイちゃんからも行かないの? という空気が醸し出てるです」

『では何時行きますか?』

「アルセニオたちは、もうデッドフォレスト領を出てるですか?」


 デッドフォレスト領で領地経営を学んでいる元貴族のアルセニオたちは、クリス国王からカッサンドルフの行政官に任命されていた。

 そして、3年間大きな問題が起きなければ、元の貴族階級に戻れる事が約束されてもいた。


『4日前に領都を出発して、明日にはこちらに到着する予定です』

「おや? もしかして川を下ってるですか?」

『イエス、マスター。リンの船頭で川を下ってます』

「陸路だと2週間掛かる距離が5日で到着できるのは良いですね」

『今のところ下りだけで、帰りは陸路のみです』

「そこはスクリュー作って回すです」

『エンジンの技術を広めるのですか?』


 ハルからの質問にルディが腕を組んで考える。


「それも難しいところです。エンジンの発明は技術を一気に高めるです。急な技術の進化、悪影響を及ぼす危険ありありです。そーですねー、魔石が電気産むです。モーターとスクリューだけ開発するですか?」 

『……なるほど。それなら単純構造で作れます』

「運河を使った物流の確保。デッドフォレスト領は僕が想像している以上に発展しそうです」


 ルディはそう言うと、にんまりと笑った。

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