第398話 ガーバレスト辺境伯
ルディがクリス国王と面談してから3週間後。
ハルビニア、ローランド、レイングラードの3カ国で条約が結ばれた。
条約の内容は以下の通り。
・レイングラード国とローランド国は、戦争開始前まで国境を戻す。
・レイングラード国とローランド国は、5年間の不可侵条約を結ぶ。
・ローランド国はハルビニア国に、カッサンドルフ地方を譲渡する。
・ハルビニア国はローランド国に対し、小麦100万トンを年内に支払う。
・ハルビニア国とローランド国は、3年間の休戦協定を結ぶ。
・3カ国の間で賠償金の支払いは行わない。
条約はレイングラード国とローランド国の間で行われた。
最初、ローランド国は強気でベルードを寄越せと言ってきた。だが、レイングラード国側がハルビニア国からの委任状を持ち出して、緩い条件を提示したので考えを改めた。
なお、本当か確かめるべく、ローランド国の大使はハルビニア国まで出向き、その確認のためだけに1週間掛かった。
小麦100万トンがあれば、今年はギリギリ食料不足にならない。
今年中に自国の食料生産量を上げれば、来年以降も国内総消費量を上回る。
3年間内政に力を注げば、カッサンドルフを奪還するまで軍事力が回復する。
以上の考えから、ローランド国は条約を結ぶ事にした。
これはルディの人類増加計画に基づいた思惑通りだった。
ラインハルト国王は、ルディが出したハルビニアの条件を聞いた時、「天下の知将」と叫んで褒め称えた。
バイバルス国王は、条約内容がローランド国に戦争を起こさせない目的だと理解していた。だが、今年を乗り切る為には、条約に合意するしかない。
彼はこの条約を考えた人物が、今後自分の前に立ち塞がる壁になるだろうと、この条約を考えた人物を探すように命令した。
そして、条約が締結した3日後。ハルビニアの王城の謁見の間で戦勝式が行われた。
大勢の貴族が集まる中、入口の扉が開いて正装に身を包んだレインズが入場。
赤い絨毯を進み、王座に座るクリス国王の前でレインズが片膝を付き頭を下げる。
式部大臣が大声で謁見の間に居る全員に彼の功績を伝え始めた。
レイングラード国との軍事同盟の功績者。
カッサンドルフの無血開城。
カッサンドルフ地方での25万のローランド軍の撃退。
デッドフォレスト領での2万のローランド軍の撃退。
頭を下げるレインズは「手伝っただけで、どれも俺の功績じゃない」と叫びたかった。だが、この場で訂正など出来るはずもなく、黙って式部大臣の話を聞いていた。
式部大臣の話が終わり、クリス国王が言葉を掛ける。
「レインズ・ガーバレスト子爵。頭を上げよ」
「ハッ!」
「今回の戦い、見事であった! 功績を称え、其方を伯爵とする。今日からガーバレスト辺境伯を名乗れ」
「謹んでお受けいたします」
レインズが再び頭を下げると同時に、集まった貴族が拍手で彼を称えた。
貴族の中にはバジュー公爵や彼の功績を妬む者も居たが、公の場では非難せず、憎々し気にレインズを見ながら周りに合わせて手を叩いていた。
こうして、レインズは今回の戦いでデッドフォレスト領を収める辺境伯となり、彼の名声と地位が高まった。
「すごい戦利品です」
ルディが倉庫に積まれた山を見て呟く。
彼の目の前にあるのは、今回の戦いで死んだローランド兵からはぎ取った魔法銃と弾薬の魔石の山だった。
戦場で残された死体は、装備を回収すれば金になる。
戦が起こった後、近くの村民が武器装備や金を死体から回収する。それ専門の買い取り業者も存在しており、村民たちは回収した品を売る事で小遣いを得ていた。
非人道的な行動だが、戦争をする側も戦時徴収という名目で村から物を奪うため、お互い様な部分もあった。
ハクは敵兵士の死体の処理を、カッサンドルフの貧しい住人に僅かな賃金で処理させた。
賃金は安かったが、魔法銃以外の装備品が貰えると聞いて、多くの住人が参加した。
その結果、3週間で10万体以上の死体が処理できた。
ただし、魔法銃は誤って撃つと火災の危険があるので、ハクは盗む事も売る事も禁止して全て徴収した。
「これだけの武器があってものう……魔法銃など使えんし、どうしたものやら……」
ルディに相談を持ち掛けたハクが、困った様子で顎髭を摩った。
「ハク爺、これの処分、まだ決まってねーですか?」
ルディが魔法銃の処分について質問すると、ハクが頷いた。
「鎧や銭なんかは、死体を処理した連中が勝手に持っていったが、銃だけは危険だからこっちで回収したんじゃ。だが、回収したは良いが処分に困ってのう」
「僕、聞いた話です。魔法銃は生命エネルギーとか、よく分からねーの吸い取って、寿命縮める聞いているです」
「儂が使ったら死ぬのかのう?」
「ハク爺、試したらシャレにならねーです」
ハクの冗談にツッコみながら、ルディは一丁の魔法銃をバラバラにして構造を調べ始めた。
「んーー。予想していたとーり、構造はコイルガンに似てるですけど、電力が見つからねーですね……おやおや? これは何ですか?」
魔法銃を調べていたルディは、引き金部分の近くに見た事のない金属チップを見つけた。
チップだけを力任せに引き抜き、目元に寄せて首を傾げる。
「……回路?」
金属のチップは電子回路の様に見えるが、この惑星の今の技術では絶対に作れない物だった。
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