第372話 カッサンドルフの改革と防衛
ルディはまず木材の確保をするために、デッドフォレスト領の東方地域を担当している、アンドロイドのサラと無線電話を繋げた。
『マスター? どうかしましたか?』
「サラですか? 一つ頼みがあるですよ」
ルディが状況を説明してサラに木材の輸送を依頼すると、彼女から嫌そうな返事が返って来た。
『えーー。人手が足りませんよーー』
なお、サラの性格アプリケーションの設定は、年齢設定を低めにした正直な性格の設定にしているので、マスターのルディに対しても物応じずハッキリ答えた。
『人、足りねーですか?』
『当たり前です。戦争に労役兵を連れて行っちゃったじゃないですかーー! 来年の冬に備えた薪の確保でギリギリです!』
ルディの質問に、サラがプンスカ怒って状況を伝える。
彼女は魔の森の調査と材木生産が主な仕事。デッドフォレスト領の領民が使用する薪の生産を、彼女が全て担当していた。
「今、どんな状況なのですか?」
ルディは労役兵をブートキャンプに送って以降、薪の生産状況を確認しておらず質問すると、サラが通話先でため息を吐いた。
『マスターが労働力を全部持って行っちゃったから、こっそりとドローンが伐採して薪にしています』
「アチャーです。本当に人が居ねーんですね」
『さっきからそう言ってるじゃないですか! 労役小屋には数人の女子が居るけど、彼女たちは自分で食べる分の畑作業だけで精一杯だから、労役なんて出来ませんよ』
改めてデッドフォレスト領の抱える労働力不足に、ルディがため息を吐いた。
「仕方がねーです。今は緊急事態だから、複合型重機の導入を許可するです」
『……いいの? それだとあっという間に終わっちゃうから、この惑星の人間に疑われない?』
「今回は特別処置です。それに木材を使うのは、遠く離れたカッサンドルフですよ。バレやしねーです」
『りょうかーい。許可が出たから、パパッとやっちゃいまーす。終わったらリンに連絡を入れて持ってってもらうねーー』
サラの言うリンとは、デッドフォレストの物流を担当しているアンドロイド。彼女に頼めば、魔の森の端からフロントライン川まで、材木の輸送を任すことができた。
「それで宜しくです」
ルディがそう言ってサラとの通話を切る。
その頃、カッサンドルフの西では大きな騒ぎが起こっていた。
「何だアレは‼」
カッサンドルフの外壁でハルビニアの騎士が大声で叫ぶ。
彼が見ているのは、周囲の木よりも大きい巨大な招き猫だった。
「あれがカッサンドルフを一夜で落とした招き猫か……」
叫んだ騎士とは別の騎士が、招き猫を見てゴクリと唾を飲みこむ。
容姿は可愛いのに何故か神々しい。あんな巨大な物体がどうやって自走しているのか不思議だった。
招き猫に気づいた騎士たちが一目見ようと集まって騒ぎ始めると、その騒ぎは街の住人にも広がった。
だが、街の住人は招き猫に対して複雑な思いをしていた。
あの猫のせいでカッサンドルフはハルビニア国に征服されたのだから、当然と言えば当然。
だが、征服されても街の住人には一切被害がなく、一部の街の人間からは、征服されても街に被害が起こらなかったのは、招き猫のおかげだと囁かれ始めていた。
その招き猫がカッサンドルフの西門に到着する。
そして、多くの人間が見守る中、半回転すると自ら壊した西門にゆっくりと近づき、体が半分入ったところでピタリと止まった。
「ニャーーーーン!」
無事に西門を塞いだ招き猫が満足そうな鳴き声を出す。
その後、騎士たちが招き猫と西門の隙間に土砂を詰め、西門は完全に封鎖された。
招き猫が西門に居座った翌日。
カッサンドルフの街の至る所で、新行政官になったレインズの行政体制が公布された。
公布されるまで、カッサンドルフの市民は不安で一杯だった。
まず考えたのは徴兵される事だった。
これからローランドがこの街を奪還しに来るのは確実。ハルビニアもそれに対抗するために、多くの兵を集めるだろう。
その矢先に来るのは間違いなく自分たちだと思った。
次に考えたのは重税。
軍を揃えるにも維持するにも金が掛かる。その負担は間違いなく自分たちだと考えた。
最後に考えたのは労役。
野戦時のトイレ作成、補給品や武器の運搬。戦争では多くの作業がある。
それらの作業を兵士ではなく、占領下の市民にさせるのが通常だった。
多くの住人が見守る中、文字が読めない市民の為に、ハルビニアの騎士が公布を読み上げる。
その内容を聞いた市民は、目の玉が飛び出るぐらい驚いた。
まず、徴兵はなし。
ただし、志願兵は募集しており、数カ月の訓練を受けたのち、カッサンドルフの防衛に協力してもらう。
なお、志願兵なので、訓練期間中でも給金は支払われる。その給金も、市民からしてみれば大金に近い金額だった。
次に税金体制の見直し。
ローランドの税収は、奴隷なら所得税3割、市民なら所得税1割を国に支払う。それに加えて、消費税が販売価格の1割という税体制だった。
それをレインズは見直して、戦時中のみ全市民の所得税を2割にして、消費税の代わりに人頭税に変えた。
今のカッサンドルフの市民の大半は、ローランドの市民権を持たない奴隷がほとんど。彼らからしてみれば逆に税金が減っていて、思わず騎士に聞き返すぐらい驚いた。
最後に労役もなし。
逆に、あと数日もしない内に仕事を与えるから、どんどん働けと言われた。
「なあ、騎士さま。本当にそんな事をしてダイジョブなのか?」
戦争に詳しくてなくても、戦争中にこんな景気の良い話など聞いた事がない。
思わず一人の市民が騎士に質問する。
すると、騎士がおどける様に肩を竦めた。
「私も詳しく分からないが、行政官殿が借金してお前たちの生活を豊にするらしい。変な人だよ」
実際はカッサンドルフの街が借金をするのだが、経済に詳しくない騎士は間違った考えをして、それを市民に伝える。
それを聞いて、市民たちのレインズに対する支持率が一気に上昇した。
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