第347話 ハルビニア国の参戦
翌朝。
ガルルド村では、補給部隊の隊長が被害報告を聞いて頭を抱えていた。
死者数358名、重傷者数98名。補給品全焼。
重傷者数より死者数の方が多かったのは、敵の気配がなく油断しており、防具を脱いで寝ていたところでの夜襲だったのが主な理由だった。
「これでは一度戻るしかない」
補給品が残っていれば、先に進んでいる本隊から人を呼び寄せて運べるが、その補給品が全て燃え尽きている。
市民権を持っていた補給部隊の隊長は「自分は奴隷に落とされるだろうな」と、がっくりと項垂れて、部隊を国境付近の駐屯地へ戻す事にした。
数日後。
国境付近の駐屯地では、ローランド軍の大将ダンドンが補給部隊の隊長の報告を聞いて、彼と同じ様に頭を抱えていた。
敵が居ないと判断しての補給輸送が失敗した。もし、敵兵が潜んでいると分かっていれば、一度に多くの補給品を運ぶことなどしなかった。
既に25万の本隊はベルードへ進軍中であり、これだけの大軍を戻すのも難しい。
偵察隊の報告によると、ベルードでは井戸を掘り起こして水は確保出来たが、食べ物は補給部隊を待っている状況だった。
ダンドンは悩んだ末、補給部隊の兵士を3000人に増やして、早急に食料を送る事にした。
だが、その5日後。
彼の下に、ベルードまで後1日の街道で、またもやレイングラード軍の夜襲で、食料の大半が燃やされたという報告が舞い込んだ。
話を開戦直後まで戻して、ハルビニアの王城でクリス国王が執務を行っていると、緊急の手紙が彼の下に届いた。
手紙を封じている封蝋には、ガーバレス卿の判が押下されており、クリス国王はとうとう来たかと封を切る。
手紙を読むと予想していた通り、ローランド国とレイングラード国が開戦した事が書いてあった。
「緊急会議だ。全大臣を呼べ!」
手紙を読み終えたクリス国王は、側近に命令して全ての大臣を集めた緊急会議を開催した。
1時間後、大会議室にハルビニアの全大臣が集まった。
クリス国王からの緊急な呼び出しに、全大臣が何事かとざわめく。
そこへクリス国王が現れ、全員が席を立って頭を下げた。
「皆の者、忙しいところよく集まった。楽にしてくれ」
クリス国王の声に全員が席に着き、彼の言葉を待った。
「たった今、ローランド国とレイングラード国が、戦争を始めたと連絡が入った」
その話に大臣たちは驚きはする。だが、大半の大臣は、大陸の西にあるレイングラード国がどんな国なのか知らず、それがどうかしたのかと他人事に感じていた。
「皆は知らぬだろうが、レイングラード国は西側小国群で鉄を算出する唯一の国だ。そこが落ちたら、西側小国群は全てローランド国に併合されるだろう」
クリス国王の説明を聞いて、西側諸国を征服した後のローランド国の向き先がハルビニア国になると、全ての大臣が理解した。
「それで、陛下はどのようなお考えでしょうか?」
「選択は2つ。戦うか、近い未来にローランドに征服されるかだ。私はこのまま国が亡びるのを待つぐらいなら、戦いを選択する」
クリス国王が告げると、すぐさまバシュー財務大臣が声を上げた。
「お待ちください!」
「……発言を許可する」
「では、失礼します。戦争をするとしても、相手はローランドですぞ。戦って勝てるのですか? 勝てない戦争を仕掛けても、相手の敵意を増やすだけでございます‼」
「では、バシュー卿はこのまま黙って征服されろとでも言うのか?」
「だから、前国王は不可侵条約を結んだのです。平和が保たれているのに、わざわざ戦争を仕掛ける必要などございません」
「ローランドが我が国と不可侵条約を結んだのは、西側を征服している間に邪魔をされたくないからだ。西側を全て征服した後、ローランドは何時でも不可侵条約を破棄するぞ」
「だが、戦争をすると言っても一体どこを攻めるんですか? 陛下がガーバレス卿と何かを相談していたのは知っております。ローランドの北の領地を落としたところで、中途半端に勝てば相手の反感を買うだけですぞ!」
「バシュー卿。ローランドの兵が西に傾いている今、我々が勝てるのはこの時しかないんだ」
「領地を落としたところで、レイングラードなど、たかが小国群の1国ごときが耐えられるとは思いませんな。直ぐに征服されてローランドの全兵力がこちらに向きますぞ‼」
この後、バシュー公爵以外の大臣から、クリス国王に同意して戦争に賛成する者、バシュー公爵に同意して戦争に反対する者。意見は真っ二つに分かれて会議が荒れた。
そんな中、クリス国王は粘りに粘って説得を続け、何とか無名投票まで漕ぎ着けた。
棒の先端が赤なら戦争に賛成、何も色がなければ戦争に反対。
各大臣が見せない様に棒を選んで箱に入れる。
全員が棒を入れた後、クリス国王の前に箱が届いて、側近が箱から棒を出して数え始めた。
「8対8……同数ですな」
棒の数に大臣の誰かが呟いた。
おそらく、中立派の宰相を味方にしていなければ負けていた。
そう思いながらクリス国王は笑みを浮かべると、1本の棒を掴んで全員に見せた。
「最後に私の分だ」
その棒の先端は、赤い色で塗られていた。
9対8。こうして、ハルビニアの参戦が決定した。
屋根裏では、会議の様子をハルが使役している1体の小型ドローンが監視していた。
そして、参戦が決まると同時にルディへ結果を送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます