第345話 開戦
レイングラード王国から使者が帰って3日後。
国境付近の駐屯地ではローランド軍が、レイングラード王国への侵攻を開始した。
その数は30万。戦力の大半は奴隷兵。奴隷兵と言っても、ローランド国の人口の大半が奴隷身分だった。
市民との違いは徴兵義務の有無と、納税額が少しだけ多いぐらい。しかも、30年働けば市民になって年金が支給されるので、他の国の平民よりも待遇が良いと言う奴隷も居るぐらいだった。
奴隷兵の主力武器は銃であり、遠距離なら無敵を誇る。だが、森と山に囲まれたレイングラード王国では敵の早期発見が難しい。
そこで、ローランド国は最初に2000人の偵察隊を送った。
レイングラード王国に侵攻した2000の偵察隊が、最初の村に到着する。
村に入っても村人は既に逃げた後で食料は残されておらず、律儀に井戸も潰されていた。
これは偵察隊の隊長も予想していたので、彼は特に怒る事なく周囲を探索した後、今晩はこの村で泊まる事にした。
隊長は侵攻初日と言う事もあり夜襲を警戒していたが、この日の晩は特に何事も起こらず朝を迎えた。
ぐっすり眠って無事に朝を迎えた隊長は首を傾げた。
村人が逃げ出して食料を持ち去ったのは分かる。だが、村の人間がまたここに戻るつもりなら、井戸まで壊さない。
おそらく井戸を壊したのは国の命令だろう。だとしたら、自分たちがこの村に来ることは予期していたはず。少しでも敵兵の数を減らすなら、夜襲があって然るべきなのにそれが無かった。
それに、昨日ここら辺を偵察したが、敵兵が居た痕跡1つ見つからない。
そこまで考えた隊長は、国境付近にレイングラード軍は居ない可能性があると駐屯地に報告書を送った。
偵察隊が村を出てレイングラード王国の奥へと侵攻する。
そして、5日間特に何事もなく移動して、最初の攻略都市ベルードまで到着した。
「隊長。誰も居ませんでした」
部下の報告に偵察隊の隊長は、あり得ないと顔をしかめた。
ベルードは城壁に囲まれた、言わば敵軍を食い止めるための都市。
それなのに平民だけでなく兵士すら居ないのは、異様としか言いようがなかった。
「食料と水は?」
隊長の質問に部下が頭を左右に振る。
「食料は全て持ち出されています。井戸も全て破壊されて、土で埋められていました」
「……そうか。井戸の復旧を急がせろ」
「はっ!」
部下を下がらせて、隊長が思考する。
ただで都市を手に入れたのは楽で良いが、食料と水を略奪できないのは痛かった。持ってきた食料は後3日分しかなく、これ以上の進軍は無理だろう。
以上の考えから、偵察隊の隊長はベルードに駐留して、本隊と補給を待つ事にした。
国境付近の駐屯地では、ローランド軍の大将ダンドンが偵察隊の報告書を読んでいた。
「国境付近に敵兵なし」その報告に、ダンドンはレイングラードの軍は首都付近に集めていると予想する。
そこで、敵が見当たらないなら問題なかろうと、本隊と補給部隊の進軍を決定した。
その翌日。
ローランド兵25万。その後から、彼らの食料を積んだ補給部隊がレイングラード国内へと進軍した。
「とうとう本隊が動いたな」
深い森の中、カールはスマートフォンの画面に映る衛星写真を見て呟いた。
カールと彼が率いる500人の傭兵部隊は、ローランド兵が侵攻する街道から5km離れた場所で隠れていた。
カールはローランド軍が侵攻を開始しても、偵察を一切送らなかった。
しかし、偵察を送らなくても、監視衛星の情報からローランド軍の動きを全て把握していた。
「親父、どうする?」
「今晩やるぞ」
ドミニクの質問にカールが答えると、部隊に緊張が走った。
「進軍の速度から予測して、敵の補給部隊は今晩、ガルルド村で停泊するはずだ」
ガルルド村とはローランド軍の偵察隊が最初に泊まった村。
カールはローランド軍の補給部隊が動いたら、必ずその村で一晩泊ると予想していた。
「隊長、本当にやるのか?」
カールが率いる傭兵の一人がカールに尋ねると、彼はおどけた様子で肩を竦めた。
「なんだ怖気付いたのか?」
「さすがに敵の数が多いから、気合入り過ぎてションベン漏らしそうでさ」
その冗談にカールだけでなく、部隊の皆が笑い出した。
「はははっ。安心しろ、何百倍の敵を正面から当たるほど俺は馬鹿じゃねえ。狙うのは敵じゃなくて、敵の補給だけだ。しかも、敵からは俺たちの場所は分からず、こっちからは丸見えだ。こんな楽な仕事は滅多にないぞ」
「まるで覗きをしてるみたいだな。残念なのは、覗いている相手が女じゃなくて、ローランド兵なのがな」
「頭の中でローランド兵を女だとイメージすりゃ解決だ」
「そりゃ酷でえブスだ」
傭兵の言い返しにカールが肩を竦める。
「まあ、冗談はこのぐらいにして、25時に襲撃する。23時にここを移動するから、それまで休んでおけ」
「そうは言っても、今が何時か分からねえよ」
そう言われて、カールがスマートフォンの画面に表示されている時計を確認する。
「今は15時21分だ」
「へぇ。そいつは時間も分かるのかよ。便利だな」
「これを見つけた人は遺跡から見つけたらしい。お前も戦争が終わったら遺跡を探してみるんだな」
「見つけても売って金にしちまうよ」
傭兵が肩を竦めて、再び笑いが起こる。
彼のおかげで、部隊に緊張がほぐれた。
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