第274話 義理には義理で返す
ドミニクに呼ばれてルディが食堂へ向かうと、カールとニーナが彼を待っていた。
その2人の正面にはナオミとレインズが座っており、全員が顔を曇らせていた。
「皆、困っているみたいですけど、どーしたですか?」
ルディは話し掛けながらナオミの横に座り、ドミニクがカールの横に座る。
「親父から連絡があった。レイングラードが閉鎖されて、帰れなくなったらしい」
カールの話によると、先ほど彼の義理の父であるレイングラード国の将軍からスマートフォンで連絡が来て、ローランド国と西側の小国群の国境間で街道が封鎖されて、全ての商人と旅行者が通行止めになった。
「思っていたよりも敵の行動、早かったですね」
「来年までは大丈夫と思っていたが、どうやらもう隠すつもりはないらしい」
「それだけ向こうは余裕なんだろう」
カールに続いてナオミが口を開く。
「でも、帰る前に分かって良かったです」
「まあね」
そうルディが言うとニーナが相槌を打った。
ルディの言う通り、カールの家族が帰宅中にこの事を知ったら、またハルビニアに戻る事になる。早々に知れたのだけは良かった。
「それでカール殿。其方が帰らなくても、レイングラードは大丈夫なのか?」
「分からん。俺が任されていたのは、冒険者と退役兵をかき集めた傭兵部隊で、敵の補給拠点を襲撃する予定だったんだ。だが、俺が帰れないとコレが使えないから無理だろうな」
カールはそう言うと胸のポケットから、少しだけスマートフォンを見せた。
「それでルディ君。一つ頼みたい事がある」
カールは真剣な眼差しでルディを見た。
「なーに?」
「俺は顔が知られてるから帰れないだろう。だが、ドミニクはそれほど知られてない。何とかコイツだけを帰して、俺の代わりに部隊の指揮を取ってもらおうと考えている。そこで、俺が借りているコレをドミニクに貸しても良いかを確認したい」
そう言うと、カールが再び胸にしまったスマートフォンを指先で叩いた。
「師範は律儀ですねぇ……」
黙ってればバレないのに、わざわざ断りを入れるカールの人柄をルディが褒めた。
なお、スマートフォンはGPSで場所が分かるから、勝手に貸したらバレるが、その事をカールは知らない。
「ルディ君が俺を信じて貸してくれたんだ。不義理なマネはできないよ」
「また貸ししたどこぞの野郎に、師範の爪の垢を飲ませてやりてえです」
どこぞの野郎とは、ルディーのギターをまた貸ししたウィートの事。
「師範、安心しやがれです。僕、義理には義理で返す。それがマイポリシーよ。スマートフォンはそのまま持っていやがれです。それに、兄者だけじゃなく、皆もレイングラードに送ってやるです!」
ルディが自分の胸をポンと叩いて言うと、輸送機の存在を知っているナオミとレインズが心なしか安堵した。
逆に、輸送機の事を知らない、カールたちが首を傾げる。
「送り届けるってどうやって?」
ニーナの質問に、ルディは小声で輸送機の存在をカールたちに話した。
「そんな物まで持っていたのか……」
「輸送機持ってなかったら、北の果てから魔の森を超えて、ししょーに会えねーです」
ルディの嘘に、宇宙から来た事を知っているナオミ以外の全員が納得した。
「私とルディは、もう王都に用はないから、帰ろうと思う」
カールの方の問題が片付いたところで、ナオミが話し掛けた。
「そーですね。早くレインズさんを家に送らねーとです」
「確かに早く帰って軍の編成をしないと、間に合わないな」
「それでルイはどうする?」
ナオミの質問にルディが難しい表情を浮かべた。
ルイジアナは軍事同盟で決まった詳細を、定期的にクリス王太子に報告しなければならず、王都に留まる必要があった。
「めんどーですけど、定期的に輸送機で送るです。ついでに殿下にボールペンの芯を渡してもらうです」
なお、送迎するのはソラリスか他の春子さんなので、面倒だと言うルディの負担は何一つない。
「お前たちはどうする?」
「そうだな……陛下の用事も済ませたし、俺たちもデッドフォレストに行くか?」
「ルディ君のご飯が食べたいから私は賛成」
ナオミが話を振ると、カールとニーナが答えた。
「だったら、一緒に送ってやるです」
「助かるよ」
「ありがとう」
ルディの提案に2人が礼を言った。
「でも親父。馬車はどうする?」
カールたちはここに来るまで馬車で来た。輸送機に乗ると馬車を置いていく必要がある。
ドミニクがその事を指摘すると、カールは彼に視線を向けて肩を竦めた。
「スタンに頼む。アイツ等もデッドフォレストに行くんだから、ついでに運んでもらえばいい。荷運びの馬車が1台確保出来るんだ。馬の餌代を払えば、アイツも喜んで依頼を受けるさ」
その意見に全員が納得する。
ルディはカールの柔軟な考え方に感心していた。
帰る事が決まって、話し合いに参加していない全員に話すと、カールの家族は驚き、ルイジアナが喜んだ。
なお、彼女が喜んでいたのは、ルディのご飯が食べられるから。ルディの飯は、この惑星の人間からしてみれば麻薬に近い。
スタンはカールから馬車を預かる依頼を受けた時、カールの家族がどんな手段でデッドフォレスト領に帰るのか分からず首を傾げていた。
それでも、色々事情があるのだろうと、何も言わず了承した。だけど、その間はルディの作るご飯が食べれないと思って、泣きそうな顔をしていた。
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