第224話 初めての魔法

「一郎、ししょーの話し分かったですか?」

「ぐぎゃぎゃぎゃが(お前、無茶ぶりすぎるだろ)」


 ゴブリン一郎もナオミとルイジアナの魔法を見て、自分も使えたらなと思う事はある。だが、そう思うだけで、魔法が使えるなんて夢にも思っていない。

 今、ナオミが魔法について教えているのは、何となく理解している。でも何を言っているのか全く分からない。

 ゴブリン一郎は魔法を教える前に、言葉を教えろと切に思った。


「魔法の発現にはマナを使う。それは分かっているな」

「もっちです」

「では問題だ。今の魔法を使う時、マナを体のある場所に集める必要がある。それは何処だ?」

「指先ですか?」

「ハズレ。正解はここだ」


 そう言ってナオミがこめかみを指先で突いた。


「頭?」

「正解。最近は魔法の発動場所にマナを集中させると教えているらしいが、それは不正解だ」

「なんで間違った事、教えてろですか?」

「そいつはルーン教に聞け。20年ぐらい前に教義が変わってそうなった。魔法の指向性は脳で構築するが、その時もマナが必要になる。それなのに他の場所にマナを集める? 意味が分からん。無駄な消費だ」

「なるほどです」


 ルディはマナが上位マナニューロンによって脳で構築され、下位マナニューロンで魔法に必要なマナを集める事を知っていたため、ナオミの話に納得した。




「なんでも魔法の発現場所にマナを集めると、集中できるからみたいですよ」


 ナオミの話を聞いていたルイジアナが、休憩にと全員のお茶を持って来て口を開いた。


「なんだそりゃ?」


 意味が分からないと肩を竦めるナオミに、ルイジアナが微笑む。


「例えば指先にマナを集めようとすると、目線が指先に集中するでしょ。頭で考えるよりも、そっちの方が集中できるというのが理由です」


 ルイジアナは王宮で働いていたので人間界の魔法にも詳しく、ルーン教の経典についても詳しかった。


「確かにその方が集中できるかもしれないが、無駄なマナを消費したら、大きな魔法は使えないだろう」

「ええ、その教義が広まってから、魔法使いの質が落ち始めてますね。でもルーン教の本殿はローランドですから」

「……なるほど」


 ローランドでは魔法の銃が普及していた。そして、魔法の銃は詠唱をせず、引き金を引くだけで魔法が撃てる。それ故、従来の魔法が廃れ始めていた。




「魔法の構築が完了すると、体からマナが抜ける感じがする。そうしたら成功だ。指定した場所に魔法が現れる。と言う事で、先ほど私がやった指先に火をつける魔法をやってみろ」

「了解です」


 ルディが教わった通り、頭にマナを集めて魔法の構築を始める。

 だが、集中しても頭にマナが集まる感じがしなかった。


「……ししょー。全然マナが頭に集まらねーです」

「んー? 昨日は体内のマナを動かしていただろ。その要領と同じだぞ」

「そー思ってやってるですよ。実際に体のマナはあちこち動かせるです」

「不思議ですね」


 全員で悩んでいると、ナオミが電子頭脳の事を思い出した。


「あールディ、ちょっと来い」


 ナオミに呼ばれて2人がキッチンに行く。そして、ルイジアナに聞こえないように、こそこそと話し始めた。


「お前、脳にマナが入らないから、電子頭脳のバッテリーにマナを貯めていただろう」

「あ、そうでした」

「さっきのは普通の人間が魔法を使う方法だ。お前の場合、バッテリーからパワコンだっけ? それを使って魔法を構築してみろ」


 ナオミの説明に、ルディが納得して頷いた。


「理論は分かったから、魔法用のアプリケーションを作るです」


 ハルが。


「となると、後は一郎です」

「それはさすがに無理だろう……」


 2人が同時にゴブリン一郎を見る。彼はナオミがやっていた通り人差し指を立てて、小声で「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ(暗黒から生まれし紅蓮の炎よ、我に力を)」と呟いていた。


「僕は魔法はアプリケーション作ってからです。だから、先に一郎教えてきてやるです」

「そうか……まあ、がんばれ」


 励ますナオミにルディは頷き、ゴブリン一郎の元へ向かった。 




「一郎、良いですか? これから、お前に魔法の使い方を教えるです」

「ぎゃがぎゃががぎゃぎゃ(だから、何を言ってるか分からねえんだよ)」

「ふふふ。お前の考えている事ぐらいまるっとお見通しです。言葉が通じないと言ってるですね」


 やっと意思疎通できたが、進展は全くない。


「そこでこれです。ジャーン」


 自分で効果音を言ってルディが用意したのは、紙とクレヨンだった。


「言葉が通じねえでしたら、絵でお前に説明してやるです」


 ルディの話に、ルイジアナは良いアイデアだと思うのと同時に、もっとそれを早く使えば、ゴブリン一郎も今まで苦労しなかったのでは? と思った。


「良いですか? 魔法は頭でイメージを作って、体で放つです……」


 そう言ってルディが絵を描くが、残念ながら彼に絵の才能はなかった。

 ルイジアナとナオミはルディの絵を見て、5歳児なみの才能だと思う。

 電子頭脳を持つルディなら、絵描き関係のスキルをインストールすれば、簡単に上手い絵を描ける。だが、ゴブリンに上手な絵を見せる意味がない。という理由で、ルディはあえてインストールをしなかった。


 そして、悪戦苦闘した結果、ゴブリン一郎が何とか魔法について理解した。


「ぐぎゃがぎゃぎゃぎゃ『指先で小せえ灯て火』」


 ゴブリン一郎の魔法が完成して、彼の指先に本当に小さな炎が灯る。


「一郎、やったです!」

「ぐぎゃ!(やった!) ぎゃぎゃぎゃぎゃ!(本当に魔法使えた!)」


 ルディとゴブリン一郎が喜び抱き合う側では、ナオミとルイジアナが信じられないといった様子でゴブリン一郎の灯した炎を見ていた。

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