第207話 一を聞いて十を知る天才魔女

 カールがナオミの家に向かっていると聞いて、ルディが首を傾げた。


「何で師範が家に来るですか?」


 ルディの言う師範とはカールの事。彼はニーナの命を救ったお礼に、カールから剣を学んでいた。


「なんでも仕事で、ハルビニアの王太子に会いたいらしい」

「それ、ししょーと関係ねー話だと思いやがるです」

「私もそう思う」


 ルディの言い返しにナオミも同じ意見だと頷く。

 そして、会話を聞いていたルイジアナが恐る恐る手を上げて、2人の会話に入り込んできた。


「あのー。カールと言うと、もしかして黒剣のカール様ですか?」

「あれ? ルイちゃん、師範を知ってるですか?」

「会った事はないですけど、凄腕の冒険者として名前は聞いています」

「さすが師範です」


 ルイジアナの話にルディが誇らしげに胸を張る。

 ちなみに、人間界では有名なカールの名声も、北の地までは届いておらずアガラは彼の事を知らない。


「うーん、アガラさん。僕たち緊急会議開くから席外して良いですか?」

「もちろんです」


 アガラから了承を得てルディとナオミが席を立ち、テントを出る前にルディが振り返って、座ったままのルイジアナに声を掛けた。


「ルイちゃんも会議に参加しやがれです」


 ルディから声を掛けられて、自分はまだ部外者だと考えていたルイジアナが目をしばたたかせた。


「でも、私はカール様の事を詳しく知りませんよ」

「今回は何となく政治的な話だと思うのです。と言う事で、ハルビニアの元宮廷魔術師のルイちゃんからも意見聞きてーです」

「その考えは私も同じだ」

「分かりました」


 ルディの返答に続いてナオミも頷き、ルイジアナが喜んで席を立つ。

 彼女はルディたちとの距離感が、少しずつ近づいている事が嬉しかった。




 ルディは自分たちが寝泊まりしているテントに移動すると、ナオミからカールの話を聞いていた。

 ちなみに、テントに居ないゴブリン一郎は胴上げされた後、美女のエルフに囲まれており、それを見たルディは「あれがハーレムか……」と、自分が女性に囲まれても気苦労しそうだと、頭を左右に振ってハーレムを否定した。


「つまり、戦力足りねーから同盟結びてーけど、コネがねー。だから説得に協力してくれですか? 師範ってルイちゃんの事、知ってたっけです」


 カールの話を簡単に纏めたルディが、元宮廷魔術師でハルビニアの王太子と謁見した事のあるルイジアナに質問すると、彼女は頭を横に振った。


「先ほども言いましたが、カール様とは会った事がありません」

「ですよねー」


 ルディとルイジアナの会話中、ずっと考えていたナオミが口を開いた。


「カールは何も言わなかったが、私の勘だとレイングラードの国王が仕組んだな」

「確か国民に優しい王様でしたっけ?」


 ルディの政治家判断は税金の額で決める。

 以前、カールからレイングラード王国の税金は、他と比べて安いと聞いていて、ルディはまだ会った事のないラインハルトを良い王様と判断していた。


「国民に優しいかどうかは知らないが、カールは国王を勘の良い社会不適合者だと言ってたぞ」

「師範と双子なのに、ひでー人相観ですね」


 ルディの言い返しが可笑しくて、ルイジアナが笑いを堪える。ついでに、カールが国王の双子だと聞いて驚いた。


「んー、もしかして……」


 何かを思い付いたナオミは、スマートフォンを取り出して地図アプリを起動させると、納得した表情で頷いた。


「ししょー何か分かったですか?」

「多分、これだ」


 ルディの質問にナオミがスマートフォンの画面を2人見せる。

 そこにはラインハルトも見た、デッドフォレスト領の村民の大移動が映っていた。


「……ソラリスの方は順調みたいですね。それと風車の方も1台出来たみたいです」

「そうじゃない。おそらく、スマートフォンを持っているレイングラードの国王は、これを見て私かお前が何かしたと気付いたんだ」

「そんなまさかです⁉」


 ナオミの話にルディが目を大きく開き、ルイジアナも同様に驚くが、彼女はそれ以上に、スマートフォンの精密な画像に驚いていた。


「カールが勘が良いと言ったのは伊達じゃない。それに、私も数年前は西側に居たから、それなりに彼の功績を知っている。彼が国王になって僅か数カ月で反対派の勢力をあっという間に封じ込めた。あれは並の人間では不可能だ」

「それでデッドフォレスト領ですか? 意味分からんです」


 ルディの意見に、ルイジアナも同意と頷く。


「私だって分からん。レイングラードの国王は、直観でこのままだとローランドとの戦争で負けると気付いたんだろう。それで、スマートフォンの画面を見て勘が働き、私とお前に頼れば何とかなると考えたんだと思う」

「この王様は、預言者か何かですか? ついでに、その考えに至ったししょーの頭脳もすげーです」

「だが、レイングラードの国王の勘は間違っていない。国交を結び同盟を結ぶためには、お互いの国の信用が必要だ。そのためにはトップ同士、もしくは側近同士の会談が重要なカギになる」


 ルディも宇宙に居た頃に、政治ニュースで国同士が会談を行ったというニュースを散々見てきたから、彼女の話に納得する。


「離れている国同士では会談なんて不可能だ。しかも、間に敵国が挟んでいる。だけど、私たちにはこれがある」


 そう言って、ナオミはスマートフォンをもう一度2人に見せた。


「カールがハルビニアの王太子に謁見できれば、トップ同士の電話会談も可能だろう。レイングラードの国王はそれが狙いだ!」


 ナオミの考えにルディとルイジアナは、驚くと同時にカールの目的を理解した。そして、2人は僅かな情報だけで全てを知ったナオミを、天才だと称えた。

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