第204話 胴上げわっしょい!
フォレストバードに乗ったルディたちがエルフの道を進み、ダの集落まであと数時間の距離まで近づくと、前方からフォレストバードに乗ってこちらに向かってくる2人エルフが現れた。
彼らは騎乗しているのとは別に、大きな荷物を載せた2匹のフォレストバードを同行させていた。
ルディたちの先頭を走るミンクは、近づく相手が今回の討伐に参加したエルフの2人だと気付いてフォレストバードの速度を落とし、ルディたちもミンクに合わせて速度を緩め2人に近づいた。
ちなみに、男性エルフの名前はイグナールとソロン。イグナールは人懐っこい顔で、トレードマークなのか頭に赤いバンダナを巻いており、ソロンは神経質そうな顔をしていた。
「予定よりも早いな。一郎君の病気は治ったのか?」
会話できる距離まで近づくと、互いに騎乗したままイグナールが話し掛けてきた。
ちなみに、人間のルディがフォレストバードを上手に操っている様子に若干驚いていたりする。
「もうすっかり元気よ」
ミンクの返答にイグナールがルディの後ろに同乗しているゴブリン一郎を見れば、彼はルディに抱きついて嬉しそうにニコニコしていた。
「ゴブリンだから回復が早いのか?」
「早めに薬を飲ませたから、治るの早えーかったです」
イグナールの質問にルディが答える。
「そう言う事か。そうそう、集落の2人も今では普通に食事がとれるぐらい回復したよ。ルディ様には感謝します」
イグナールと一緒にソロンがルディに向かって頭を下げた。
「どういたしましてです」
「それで2人は何処に行くの?」
ミンクが質問すると、ソロンは1枚の羊皮紙を荷物から取り出して、彼女に見せた。
「全集落への緊急召喚状。内容はマソの怪物の討伐と、エルフの旧名を知る者の来訪報告」
「ついでに、ルディ様に貰ったお土産を配ってこいってさ」
この緊急召喚状はエルフ全体の問題が発生した時、全体会議の開催を全エルフに通知するための手紙で、それを受け取った伝達係は全ての集落に連絡するため、1カ月の間にエルフの道を走って雪の大森林を1周しなければいけなかった。
それと、フォレストバードの背中の積み荷は、ルディの持ってきた香辛料で、どうやらアガラはルディが持ってきた香辛料を独り占めせず、全集落に配ると決めたらしい。
緊急召喚状を見たミンクが驚いた後、2人に同情するような眼差しを向け、彼らも彼女の言いたい事に気づいたのか苦笑いして肩を竦めた。
「これから1カ月の旅路頑張ってね」
「討伐では役立たずどころか、足手まといになったからな。名誉挽回のために頑張るさ」
エルフは長寿であるがため名誉を尊重する傾向があり、2人は討伐の失敗を回復すべく、集落に戻るや直ぐに伝達係を自ら買って出た。
その後、イグナールはルディに頼んで、他の集落でもマソに苦しんでいる同胞が居た場合に備えて治療薬を受け取り、急ぎの旅という事もあって2人はルディたちに頭を下げると、フォエストバードを走らせて立ち去った。
イグナールたちと別れて数時間後、ルディたちは無事にダの集落に到着し集落の全員に歓迎された。
特にアクセルから話を聞いていたのか、ゴブリン一郎への歓迎は熱烈で、彼がフォレストバードから降りると、エルフたちからもみくちゃにされていた。
「ぐぎゃぎゃががぎゃが!(背中がゾクゾクするから角は触るな!)」
残念、言葉が通じない。
『わっしょい、わっしょい! わっしょい、わっしょい!』
ゴブリン一郎の抗議は無視されて、興奮したエルフたちは彼を持ち上げて胴上していた。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ(降ろせ、降ろせ、降ろしてくれ)」
残念、言葉が通じない。
ルディたちがゴブリン一郎を見ているとアガラが彼の前に現れて、ルディたちに向かって頭を下げた。
「おかえりなさい。既に話は聞いているけど、全員無事で良かったよ」
「何とか倒せたです」
ルディの返答にアガラは微笑むと、ゴブリン一郎を放って自分のテントへルディたちを招いた。
「本当は早く全体会議を開催したいけど、おそらく雪解けの時期になるでしょう」
「ふむ……今は秋だから収穫時期で忙しく、あの怪物のせいで今まで狩ができなかったのが理由か?」
「それもあると思いますが、あと一月でこの森に雪が降り始めます。南と違って積雪量が多いので、フォレストバードに乗っても移動できません」
アガラの話にナオミが応え、それに続いてルイジアナが彼女の話を補足した。
「ふむふむです」
話を聞いてルディが腕を組んで考える。
会議の開催まで半年。彼の頭の中に4つの選択肢が浮かんだ。
1つめは、会議を待たずにエルフの秘宝のありかを自分で探して、勝手に手に入れる。これは後々問題になりそうだから却下。
2つめは、会議が開催するまでの間、ダの集落に留まる。多分、不便な生活に耐え切れないからこれも却下。
3つめは、一度家に帰って春先になったら戻る。一番無難な案だから保留。
最後の4つめは、せっかく遠い土地に来たのだから、ノーザンランド国へ遊びに行く。
ルイジアナの話では、祖先がミュータントのネコッテ族とワルダー族の多くが、ノーザンランドに住んでいるらしい。
ルディが思うに、彼らが人間が多く暮らす南ではなく北で暮らしているのは、人種差別云々以前に、彼らの体毛が濃くて、南だと暑いからだろう。
この案はかなり興味が湧いたけど、問題はゴブリン一郎を連れて行けるかが気がかりだった。
「行って駄目だったら、帰れば良いじゃん」
今度の予定をナオミに相談したら、彼女はあっけなく答えた。
ちなみに、最初の案を言った時にアガラの顔が引き攣っていたけど、彼女の立場を考えれば仕方がない。
「できれば集落で歓迎したいところですが、如何せん今の私たちでは満足に歓迎できないでしょう。戻ってくると信じますので、ご自由にどうぞ」
本音を言えばルディたちを留めたいが、食糧難の今は不自由に過ごさせるよりも、彼らを信じて自由に行動させるべきだと判断した。
「じゃあ、1週間ここに泊まって、ノーザンランドに行きやがれです」
1週間留まるのは、マソに感染してまだ回復していない2人のエルフの容態を心配したのと、食料難のエルフたちを助けようと狩を手伝おうと考えていたため。それと、もう少しフォレストバードにクンカクンカしたかった。
ルディが今後の予定を決めたその時、突然ナオミのスマートフォンから着信音が鳴って、初めて電子音を聞いたアガラとルイジアナが何事かと警戒する。
ナオミは2人の様子に「やばい」と心の中で思いつつも、スマートフォンの画面にカールの名前が表示されているのを見て眉をひそめた。
もし、彼の妻のニーナからだったら、どうせ世間話か何かだろうと後で掛けなおすつもりだったが、彼から電話が来るのも珍しい。
何か重要な話でもあるのかと彼女は全員に詫びを入れてから、外に出て彼の話を聞いた。
ちなみに、ナオミが電話をしている間、ルディはアガラとルイジアナからアレは何かと問い詰められていたが、遺跡で見つけた通話道具と適当に嘘を吐いてごまかした。
それから暫くして、通話を終えたナオミが顔をしかめてテントに入るなり、困った様子でルディに話し掛けた。
「どうやらカールが大変な事になって、家に来るらしい」
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