第199話 強力過ぎる餌

 ルディたちは翌日も早朝からフォレストバードに乗って、途中でエルフの道を外れると、昼前にルディたちがマソの怪物と遭遇した渓流に到着した。


「やっぱり速いですね。歩いて3日の距離を1日とチョットで着いたです」


 地面に降りたルディがアクセルに話し掛けると、彼はフォレストバードを撫でながらルディに笑顔を向けた。


「人間は馬という動物に乗ると聞いたが、それと比べてどうだ?」

「馬、乗った事ねーから、知らねーです」


 ルディの返答に、フォレストバードの自慢を言いたかったアクセルは会話を続ける事が出来ず、少し残念そうに「そうか……」と呟いた。




 少し早めだが昼食を取り、それぞれ配置に着く。

 ナオミはマソの怪物が現れるだろう場所の渓流を挟んだ場所に立ち、少し離れた位置にルイジアナとルディ、おまけでゴブリン一郎が待機。

 アクセルとミンク、それと協力してくれる2人のエルフは、マソの怪物が逃げないようにナオミとは反対岸の茂みに隠れた。

 彼らはルディの攻撃を合図に、渡されたグレネード付きの矢を放つ予定。


「ルディ、マナ回復薬をくれ」

「はいです」


 ナオミの命令にルディが錠剤の入った小瓶を投げ渡す。

 ルイジアナはマナ回復薬という言葉に反応して、目をギョッとさせたけど、今はマソの怪物に集中しなければと、パワーワードを封印した。

 ちなみに、この星ではマナ回復薬など存在せず、もし本当に薬で体内のマナが回復するならば、多くの人間が薬を求めるだろう。


「それでルディ、あの化け物は何処に居る?」

「アイツの場所、スマートフォンで分かるですよ」

「ああ、それがあったか」


 ルディの返答に、ナオミがポケットからスマートフォンを取り出して、マソの怪物の現在地を確認する。


「あれは遺跡で手に入れた魔道具です。帰ったらルイちゃんにも貸してやるですよ」


 ナオミが操作するスマートフォンを見て首を傾げるルイジアナに、ルディが嘘の説明をする。


「……ありがとうございます?」


 スマートフォンが何か分からず、その価値も分からないけど、ルイジアナは貰えるのなら礼を言うべきだろうと頭を下げた。




 ナオミがスマートフォンでマソの怪物の位置を確認すると、怪物はここから10km離れた位置で動かずに居た。


「……結構離れているな」

「駄目ですか?」

「いや、やってみる。かなり強力なのを放つから、ルイは魔法抵抗を強化した方が良いかも」

「わかりました」


 ナオミの警告にルイジアナが魔法を詠唱して、自分の魔法抵抗値を強化した。


「それじゃ、やるぞ」


 ルイジアナの魔法が終わると同時に、ナオミが両手を広げて体内のマナを解放した。




 ナオミの体からマナの荒風が全方向に襲い掛かる。

 全属性の彼女のマナは虹色に輝いて美しい。だけど、その威力は狂暴の一言。

 周辺の草木はマナの暴風に激しく揺さぶられ、近くに居た鳥と小動物が慌てて逃げ出し、離れた場所に停めていたフォレストバードが「ぴよーー!」と叫んで気絶した。


 ナオミのマナを知るルイジアナは魔法抵抗値を上げて構えていたが、それでも意識を保つのが精一杯。

 彼女の近くに居たゴブリン一郎は、ナオミのマナで何度も気絶した経験から、彼女が両手を上げた時点でヤバイと気づき、慌ててルイジアナの陰に隠れて地面にしゃがんだ。


「ぐぎゃ、ぐぎゃ、ぎゃぎゃがぎゃ、ぎゃぎゃ⁉(ヤバイ、ヤバイ、あの女が本気だしやがった、一体何が始まるってんだ⁉)」


 咄嗟の行動だったが、彼は卑怯にもルイジアナを盾にして、しゃがんだ事で何とか気絶せずに済むが、ナオミのマナに震えが止まらず奥歯がガタガタ鳴っていた。

 ちなみに、ゴブリン一郎はこれから何が起こるのかを未だに知らない。


 ルイジアナとゴブリン一郎は無事だったが、対岸で構えていたエルフの4人はナオミの狂暴なマナの被害に遭っていた。

 アクセルとミンクはナオミから離れていた事と、それほど油断していなかったため気絶しなかったが、後の2人は「たかが人間の魔法使い、魔法に長けたエルフと比べて大した事ないだろう」と舐めた結果、ナオミのマナを一身に浴びると、バタンと垂れて気絶した。




 ルディはナオミのマナを受け、激しい風で髪が乱れるのを嫌がって顔をしかめる。

 ルディがナオミのマナを受けても無事なのは、彼の体内にマナが無いのと、電子頭脳に取り付けたマナのバッテリーが、外からのマナを保護しているのが理由だった。


 ルディは背中の矢筒からグレネード付きの矢を1本抜いて、左目のインプラントで衛星画像を表示させてマソの怪物の動向を確認。

 すると、マソの怪物はナオミのマナに気づいたのか、慌ただしくこちらに向かっていた。


「ししょー、餌に引っ掛かったです」


 ルディの報告にナオミが頷き、持っていたマナ回復薬の錠剤を口に入れてかみ砕く。

 これで3割ほど減っていた彼女のマナが少しずつ回復し始め、マナの減少値が減った。




 ナオミがマナを解放して13分が経ち、森の中を全速で走ってきたマソの怪物が渓流の対岸に姿を現した。

 前回ルディが負わせた怪我は綺麗に消え去り、マナを解放しているナオミを凝視する。そして、どうやって渓流を渡って彼女のマナを喰おうか考えている様子だった。


(計画通り、師匠だけを見て油断してるな)


 ナオミがマナの解放を緩めると同時に、ルディがマソの怪物に向かって矢を放った。

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