第180話 食文化とテキーラ!
「ジャジャーン。テキーラのカクテルと言ったら、テキーラサンライズです!」
オレンジ色。下の方は濃く次第に薄くなるカクテルは、砂浜で見る朝日を描く。
グラスの縁には輪切りのオレンジがトロピカルな感じを演出していた。
ルイジアナはテキーラサンライズを見て、初めてお酒が美しいと思った。
「……んー美味い!」
食べ物は辛党だけど、逆に酒は甘党なナオミがカクテルを飲むや、美味しさに体を震わす。
続けてルイジアナが一口飲むと、オレンジジュースの果汁感が爽快で美味しかった。
じゃがいもの生クリーム煮のパパス・コン・ナタを皆で食べる。
搦めてある生クリームがじゃがいもに絡んで、口の中がしっとりと甘かった。もちろん、美味しい。
どうやらゴブリン一郎はこれが気に入ったのか、大きな口を開けてバクバク食べた。
「テキーラサンライズの次はマルガリータです」
ルディの命令にドローンが別のカクテルを作り始める。
テキーラをベースに、オレンジ風味のリキュール、ライムジュースをシェイカー入れてシェイクした後、カクテル・グラスに注ぐ。
そして、縁をライムで濡らして塩を付けるスノースタイルのマルガリータが完成した。
「先ほどのテキーラサンライズとは違う芸術を感じます」
ルイジアナがマルガリータに顔を近づけて感想を言うと、ナオミもグラスを掴んでマジマジとカクテルを観察した。
「うむ……さっきのテキーラサンライズはカクテルその物に風景を描いていたが、マルガリータは場の空気と合わさる事で1つの芸術になるのだろう」
ナオミはそう言うと、味わうようにマルガリータを一口飲む。
すると、ライムとオレンジの甘ったるさを縁に付いた塩が抑えて、逆に清涼感を生み出し、テキーラのアルコールが喉を熱くした。
「久しぶりに飲んだけど、相変わらず美味いな!」
マルガリータをナオミが絶賛する。彼女は以前にも飲んだことがあり、マルガリータは好きな酒の1つだった。
ナオミに釣られてルイジアナも飲んでみれば、目を輝かせて美味しいと絶賛した。
ちなみに、カクテルはゴブリン一郎に合わなかったのか、テキーラをショットグラスに注いで、ぐいっと呷っていた。
「今回は辛党のししょー用に、激辛のサルサソースを作ったです」
「マジで?」
ルディの話にナオミの顔が綻びる。
「サルサソース?」
「トマトベースの唐辛子ソースです。それと、タコスにカクテルは合わねーですから、コロナビールのお替わりです」
ルイジアナの質問にルディが答える。
彼女は唐辛子を知らなかったが、辛いという事は胡椒と同じ物だと思った。
タコスの皮に細く切り裂いた豚肉、刻み玉ねぎ、パクチー、その上からサルサソースを掛けてタコスで包む。
ルイジアナが大きく口を開けてがぶりつくと、辛いサルサソースと歯ごたえのある豚肉の後に玉ねぎの甘さが来て、最後にパクチーの清涼感が口の中に広がった。
その複雑な味に驚き、だけど辛さが後を引いて止まらない。
そのまま一気に食べて、そう言えば激辛を食べたナオミはどうなったのだろうと振り向けば、彼女も美味い美味いと食べていた。
「ルイ、こっちも食べてみるか?」
「……チョットだけ挑戦してみます」
視線に気づいたナオミの誘いに頷くと、ナオミ自ら激辛タコスを作って彼女に手渡した。
それをドキドキしながら一口食べてみる。
(あれ? そんなに辛くない?)
だけど、それはサルサソースがタコスの皮に包んであったから。
直ぐに激辛ソースが舌をぶん殴って、ルイジアナは叫びたくても叫べず涙目になると、両手をわしゃわしゃ動かして暴れた。
「んー! んー‼」
「あはははははっ!」
「ルイちゃん、面白れーです!」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!(だはははは!)」
水を求めるルイジアナに全員が笑うがそれどころじゃない。
目に入ったコロナビールを掴むと、一気に飲み干した。
「か、辛かった……」
「あははっ。その辛さが癖になるんだ」
舌を出してヒーヒー言うルイジアナの背中をナオミがバシバシ叩く。
ルイジアナは背中を叩かれながら酷い目に遭ったと思うが、同時に笑っているルディたちを見て、自分も彼らの仲間になった気がした。
牛肉のグリル料理カルネ・アサーダの皿には、刻んだ玉ねぎが添えてあった。
ルイジアナは薄切りの牛肉の上に玉ねぎをたっぷり乗せて食べる。
すると、牛肉に甘酸っぱいソースが絡み、後から玉ねぎの辛さが甘さを吹き飛ばして口の中をスッキリさせた。
「美味しいです‼」
やっぱり語彙力がないけど、ルイジアナは今までの人生で一番おいしい牛肉料理だと思った。
「ルディの肉料理は、他と違うだろ」
「そうですね。何でですか?」
ナオミが話し掛けるとルイジアナが頷き、ルディに質問する。
「んー。まず、肉が違うです」
「え? 牛肉ですよね」
「牛肉ですけど、きちんと正しい製法で血抜きして熟成させた肉だから、獣臭さがないです」
「それは分かります」
「それと、ステーキだと塩コショウを振った肉の味だけで勝負です。それはそれでうめーけど、僕の求める料理は、メイン食材、ソース、副食材、その3つを絶妙なバランスで組み合わせて、1つの料理として完成させるのです。それをうめー酒と一緒に合わせる。これこそが食文化というヤツです!」
ルディの話を聞いてルイジアナが衝撃を受ける。
彼女は宮廷魔術師として王城で働いていた時、何度か王室や貴族のパーティーに呼ばれて高級な料理を食べたが、どの料理も味より高価を求めて美味いと思わなかった。
確かに、王宮で食べた料理は贅沢なのだろう。だけど、どれも食材だけは拘っているけど、ルディの言う食文化を感じなかった。いや、おそらく食文化という概念がない。
ちなみに、彼女の食事に対する語彙力がないのはそれとは関係ない。
だけど、ルディは料理を文化と言う。
一番大事なのは料理の味。彩を飾り、料理に合わせた酒を飲む。ただの料理を如何に美味しくするか、知恵を使う事こそ文化なのだろう。
ルイジアナはルディの料理を眺めて、これがただの料理ではなく英知の塊であることに気づいた。
「さあ、料理はまだあるから、どんどん食べやがれです」
「それよりも酒だ。ルディ、他のカクテルも頼んで良いか?」
「もちろんどうぞです。ルイちゃんも飲むですか」
「はい!」
こうして、ルディたちはメキシコ料理を食べながら、美味しい酒を飲み、食文化を十分に味わった。
「ぐぎゃがやぎゃぎゃぎゃ!(テキーラとビール、混ぜるとうめえぜ!)」
ゴブリン一郎がキッチンからジョッキを持って来て、コロナビールを注ぎ、テキーラの入ったショットグラスを沈めて飲む。
それはサブマリンというカクテルで、翌日は確実に二日酔いになる恐ろしいカクテルだった。
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