第79話 ルディの欲しい物

「つまり、師範の兄が王様で、その人にスマートフォン、教えるですか?」

「そうだ。恐らくローランドの事を知れば、国の中で開戦派と降伏派に分かれるだろう。だから、その前にコイツの事をラインハルトと親父に話す。そうすれば、二人は降伏派の意見を無視して開戦するはずだ」


 カールがスマートフォンを軽く振りながら、理由を語った。


「ししょー、その王様の人となり知ってろですか?」


 ルディは兄弟に聞くよりも他人の評価が知りたくて、ラインハルト国王の人柄をナオミに尋ねた。


「王様にしてはマシな方だぞ。善政をしいてるし、反対勢力を抑えているから謀略も及第点だな。あと10年もすれば賢王と呼ばれるだろう」

「税金はどうですか?」


 その質問に、ナオミが笑った。


「お前は相変わらずそこに拘るんだな。私は税金まで知らないよ。カールに聞け」

「他国と比較して、少しだけ安いとは思うぞ」

「なら、良い王様です」


 ルディが満足げに頷いていると、カールが話を続けた。


「それに、戦争が始まったら俺も参戦するが、おそらく俺が任されるのは中部隊の隊長辺りだろう。それだったら、俺よりも全体の指揮を執る親父に持たせた方が、よっぽど有効活用してくれるぜ」

「…………」


 ナオミの評価とカールの話を聞いて、ルディが考える。

 師範の言っている事はもっともな話だな。それに言っている事も筋が通る。コイツを遺跡からの発見品にすれば、俺の存在までたどり着くのは難しいだろう。だったら、もっと渡しても構わないか……。


「分かったです。その王様とカールの父親に喋るの許可してやるです。ついでに、スマートフォンも必要な数だけ用意してやるから、それで連絡を取りやがれです」

「本当か? そいつは助かる!」

「ただし! これの説明する時、遺跡からの発見物にして、僕の事内緒ですよ」

「もちろんだ」


 ルディの条件にカールとニーナは当然だと頷いた。


「ルディ、良いのか?」


 ルディの正体が発覚する危惧を考えて、ナオミが問いかける。

 心配するナオミにルディが肩を竦めた。


「やるからには勝つですよ。向こうが銃の火力で勝負するなら、こっちは情報で攻撃です」


 こうして、一年後の戦争についての話し合いが終わり、ルディは「一年後の戦争よりも今晩の晩飯です」と言って、さっさと夕ご飯を作りに行った。




「ねえ、ナオミ。ルディ君っていったい何者?」


 ルディが去った後、ニーナがナオミに質問してきた。


「その質問には答えられない」


 そうナオミが答えると、カールがニーナの肩に手を置いた。


「ルディ君が何者でも、別に良いじゃないか。俺の勘だが、ルディ君は自分の事を調べられるのを何よりも嫌がっている。だけど、彼はこの地下でお前を治して、さらに魔道具を提供した事で、少しだけ正体を明かした」

「……そうね」

「多分、本当は嫌だったんだと思う。だから、俺たちがルディ君に出来る事は、彼の事を他人に知られないようにする努力をする事だ。そうだろ?」


 そう言ってカールがナオミに視線を向けると、彼女はその通りだと頷いた。




 ルディが一階に戻ると、ソラリス指示の元、ドミニクたちが鹿肉の下ごしらえをしていた。

 ドミニクが肉を叩いて柔らかくして、ションが一口大に肉を切る。

 フランツはソラリスと一緒に、わかめスープを作っていた。


「僕、出番なさそうです」


 キッチンの様子にルディが呟くと、ソラリスが話し掛けてきた。


「今晩は焼肉という事でしたので、もう少しで準備が整います」

「ドミニクたちも手伝いありがとうです」

「気にするな。俺たちはタダで泊らせてもらっているんだから、この程度の仕事は当たり前さ」


 ドミニクが肉を叩く手を止めて、ルディに笑った。

 怪しまれるからドローンは使えず、リハビリと裁縫で忙しいソラリスの代わりに、カールの息子の三人は、洗濯、掃除、雑用を手伝っていた。

 その事にルディは感謝していたけど、忘れてはいけない。本当だったら、炊事洗濯掃除はナオミの弟子であるルディの仕事だ。


「あっ、ご飯は炊いてあるですか?」


 ふと気になってルディが質問すると、ソラリスが首を傾げた。


「ご飯? 焼肉でご飯を出したら、米でお腹が膨らんで、肉が食べられなくなりますよ?」


 その返答にルディがソラリスを睨んだ。


「お前は何を言っているのですか? 熱々の肉とご飯を一緒に食べるのが、焼肉の醍醐味だと何故分からぬのですか!」

「美味しい肉なら、肉だけを食べれば良いかと思われます」


 ソラリスの反論にルディが肩を竦めて、やれやれと呟く。


「これだから味覚音痴は駄目なのです。贅沢とはタンパク質と炭水化物、それを一緒に食べる事こそ至宝なのです」

「それではビタミンが不足になります」

「焼肉の時は健康なんて忘れろです」


 ルディの熱弁にソラリスの眉間にシワが寄った。


「申し訳ございませんが、ルディの言っている事は理解不能でございます」

「ソラリスさん、大丈夫だ。横で聞いていたけど、俺も理解できん」

「俺もだ」

「炭水化物って何だろう?」


 ソラリスに続いて、ションとドミニクが彼女に同意し、フランツは栄養価について首を傾げていた。


「だったら、後で食べて驚きやがれです!」


 ルディはそう言うと、ドミニクとションを押しのけて、米を炊き始めた。

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