第77話 1年後の戦争

 ナオミの発言に全員が驚いていると、彼女が苦笑いして肩を竦めた。


「何も知らないルディはまだしも、お前たちまで驚くとは思わなかった。私とローランドの経緯は知っているだろ」

「そうは言っても、突然言われたら誰だって驚くぞ。それにまだ戦争するかも分からねえ」

「本当にそう思うか? ローランドは支配した国を合併したと言うが、内情は過酷な植民地支配だぞ」

「……まあな」


 カールもその事は知っており、ナオミの話にため息を吐いた。


「私は弟子のルディ君が何も知らない事にも驚いたわ」

「僕、女の過去は聞かねーです」


 ルディがニーナに向かって言うと、それが可笑しくて全員が笑った。


「ふふふっ。笑ってごめんね。だけど、ルディ君は良い男ね」

「まあ、私の弟子だからな」

「俺の弟子でもあるぞ」


 ニーナの謝罪に、ナオミとカールが自慢げに言って、二人同時に睨み合った。


「だけど、ナオミ。参戦するならどうせバレるし、今のうちにルディ君に貴女の事を話した方が良いわよ」

「……そうだな」


 ニーナに諭されて、ナオミが真剣な表情でルディを見つめて口を開いた。


「ルディ。私の本当の名前は、レイラ・ハインライン・ナオミ・アズマイヤ・フロートリア。元フロートリア国の公爵家の娘だ」


 ナオミが本名を名乗ると、ルディは驚き、大きく目を見張った。

 なお、カールとニーナもナオミがフロートリアの貴族だと知っていたが、まさか公爵家だとまでは知らず驚いていた。


「名前、クソ長げぇです」


 ルディはナオミが貴族だろうが王族だろうが関係なく、長い名前にツッコみを入れると、全員が椅子の上で体をズルッと滑らせた。




「そっちにツッコむか……」

「でも師範、名前覚えきれねーです」


 カールにルディが答えると、ナオミが苦笑いを浮かべた。


「まあ、私も面倒な名前だとは思っている。ちなみに、最初のレイラが本当の私の名前だ。今使っているナオミは、元々祖母の名前だったのを、生まれた時に受け継いだ」

「じゃあ他は何ですか?」

「ハインラインが祖先の名前、アズマイヤが家名で、フロートリアは国の継承権がある事を意味している」

「と言う事は、ししょーはフロートリアのお姫さまですか?」


 ルディの質問にナオミが頭を左右に振った。


「王太子のフィアンセだったからそう呼ばれていたけど、本当の姫になる前に戦争で国が滅んだ」

「転落な人生です」

「……まあな」


 ルディのツッコミにナオミは怒る事なく苦笑して、これまでの自分の過去を語った。




「……つまり、ししょーは、自分の敵討ちでローランドと戦うですか?」

「そうだ。くだらないと思うか?」


 ナオミが聞き返すと、ルディが頭を左右に振った。


「くだらない、別に思わねえですよ。法があれば法に従うけど、法がなければ自分でなんとかするしかねぇです」


 ルディの返答に、ナオミだけでなく、カールとニーナも頷いた。


「確かにその通りだ。ローランドはこの大陸の秩序という法を犯している」

「そうね。国が法を守らなければ、人も法を守らない。野蛮な世界になってしまうわ」

「僕、ししょー、師範、ニーナを支援するか悩むです。だから、少し待ちやがれです」


 ルディはそう言うと席を立ち、どこかに行ってしまった。


「奈落、ルディ君は何処に行ったんだ?」

「……さあ、私にも分からん」


 カールの質問にナオミも分からず、首を傾げた。




 ルディは別室に入ると、電子頭脳でハルとソラリスを呼び出した。


『ハル、ソラリス、話は聞いてたな。俺たちも参戦すべきか否かどうかをAIに問う』

『条件付きで賛成です』

『反対でございます』


 ルディの問いかけに、ハルとソラリスの意見が分かれた。


『まずはソラリス。反対の意見を聞こう』

『ルディの参戦は無意味です。惑星ナイアトロン293Dの文明レベルでは、私たちが本気を出せば、この星の全戦力を相手にしても確実に勝利しするでしょう。なので、ローランドがこの森に侵略してこない限り、存在を隠すというルディの方針を第一優先とするならば、参戦するべきではございません』


 ソラリスの反対理由を聞いて、ルディが頷く。


『確かにその通りだ。次、ハル。条件付きでの賛成の意見を述べろ』

『イエス、マスター。ローランドとレイングラードの国力差は推定で約8倍。ナオミが参戦しても、レイングラードが勝利する可能性は10%を切ります。これまでのナオミの行動を観察する限り、彼女は復讐のためなら自分の命を捨てる思想が見受けられ、彼女が死亡する確率は50%前後でしょう。彼女の意見はマナの調査で大いに参考になります。利用価値を考えれば彼女は生かすべきと判断しました。ただし、我々が参戦した場合、ソラリスの言う通り、こちらの存在が見つかる確率は71%あります。そこで、ナイキの戦力を使わない事を条件に賛成です』

『……ふむ。縛りプレイな感じか?』


 ルディがゲームの仕様よりも難易度を高めるプレイをイメージする。


『禁止する兵器は、宇宙からの対地ビーム、ロボット兵器、対人タレットなどが挙げられます』

『……じゃあ、ドローンによる偵察、俺自身の参戦、ソラリスの参戦は?』

『許可。ただし、ソラリスはアンドロイドだと発覚される可能性があるため、表立って行動するのは不許可』

『それだけの戦力で、俺が死ぬとは思わないのか?』


 そう言ってルディが笑う。


『無人偵察するだけで、こちらの勝利は60%を超えると想定。そして、ナオミの話では開戦まで1年の猶予があります。それまでにマスターの体がマナを蓄え、ナオミの回復薬を使用した場合、マスターの生存確率は95%以上になります。それと、カールに通信装置を提供する事を提案します』

『……無人偵察をしても、それをうまく利用できる人材が必要か』

『イエス、マスター。カールの戦術家としての数値は未知数ですが、マスターはレイングラード軍から見ればよそ者です。なので、彼の方が情報を上手く利用できるでしょう』

『師範がスマートフォンを見せびらかして、こちらの正体が怪しまれそうだな』

『その可能性は大いにありますが、その時はこちらで彼の体内の爆弾を起動させます』


 ハルの返答にルディが頷いた。


『分かった。今回はハルの意見を採用しよう』

『イエス、マスター』

『分かりました』


 ルディは通信を終えると、倉庫から未使用のスマートフォンを取り出した。

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