第73話 無知は恐怖
「やっぱり駄目です。俺には師匠の薬が効かねーです」
ルディはナオミの薬を調べた結果、今の自分の体には効果がなく、逆に抗生物質の副作用で毒となる事が分かった。
原因も判明しており、ナオミの薬は彼女のマナ成分が抗生物質の副作用を無効化しているのだが、ルディの体内にあるマナ用のワクチンが彼女のマナを殺しているせいだった。
ワクチンの効果が切れるまで、あと2ヶ月ぐらいだろ。ワクチンが切れる前にマナ回復薬が完成しなかったら、またワクチンを打たないと駄目だけど、そうしたら俺の体にマナが溜まらない……。
ルディそこまで考えると悪循環に苛立ち、両手で髪の毛を掻き毟った。
「あーもー! この星以外の生物、僕しかいないです。マウスの実験出来ねえのキツイですよ!」
その時、ルディの脳裏でピキーンとアイデアが閃いた。
「そうか、マナのない動物が居なければ、作れば良いんです!」
マナを殺すワクチンを打てば、体内のマナはなくなる。それなら今の自分と同じだ。
ルディは早速試してみようと、マウスを確保しに外へと向かった。
外に出ると、魔法の修行をしていたフランツが話し掛けてきた。
「ルディ君、どこかに行くの?」
「森の中でネズミ捕ってくるです」
「僕も行っていい?」
フランツは何でネズミを欲しがるのか分からなかったが、ルディと遊びたくて自分も行くと言い出した。
「構わねえです」
「やったね」
こうしてルディとフランツは森の中へと向かった。
「ネズミ、いねえです」
「夜行性だから、日中は土の中じゃないかな」
1時間探してもネズミは見つからず、困っているルディをフランツが宥めた。
「それに町のネズミと違って、野ネズミは捕まえるの難しいよ」
「そーなのですか?」
ネズミの生態に詳しくないルディの問い掛けに、フランツが頷いた。
「動物の中で一番弱いからね。野ネズミは隠蔽の魔法で姿を隠すんだ」
「ネズミごときが魔法使うですか?」
フランツの話にルディが驚いて聞き返した。
「うん。魔法の検知に引っかからないぐらい微弱な魔法で姿を隠すから、けっこう捕まえるのって難しいよ」
「むむむ、ネズミ侮りがたしです」
ルディとフランツが会話をしていると、少し離れた場所で物音が聞こえた。
「何か音がしたです」
「気を付けて!」
ルディとフランツが警戒していると、物音が少しづつ近づいてきた。
そして、目の前の茂みがガサガサ揺れると、中から30cmはあろうトカゲの頭が現れた。
「でっけえトカゲだけど、お前に用はねえから帰れです」
ルディがシッシッと手を払う。トカゲは二人に興味がなかったのか、のそのそと去って行った。
「ルディ君ってすごいね」
トカゲが立ち去って警戒を解いたフランツは、ほっと溜息を吐くと、ルディに話し掛けてきた。
「何がです?」
「あんな大きなトカゲを見ても、物怖じしないんだもん」
「ビビったら負けです」
なお、ルディはナイキのデーターベースで、今のトカゲが草食爬虫類だと分かっていたから放置しただけ。
「僕は全然駄目だよ。戦うときはいつも怖がってるから、兄さんたちに叱られるんだ」
そう言ってフランツが表情を曇らせた。
「怖いのはフランツが無知だからです」
「無知?」
フランツが首を傾げる。
「そうです。ししょーはあんなにつえーのに、いっつも好奇心溢れまくって勉強しとるです。あれは自分が強くなるためなのです」
「勉強で強くなれるの?」
「なれるです。知識あればあるほど相手の事丸分かり。それだけ自分有利になって恐怖が減るのです」
ルディの説明にフランツがなるほどと頷いた。
「そうだね。うん、僕も勉強するよ」
「それだと、今まで勉強してなかった言い方です」
「そんなことないよ。もっと勉強して強くな……」
フランツが言い返していると、今度はギャーギャーと喧しい声が聞こえてきた。
「会話の最中にうるせえです。今度は何ですか?」
「ルディ君、今の声はゴブリンだよ」
フランツがルディの服を引っ張って注意を促す。
「むむむ。いつの間にかししょーの結界の外まで行ってたですか」
ルディがショートソードを抜いて一歩前に出る。
「フランツ、声でゴブリンと分かったです。それで、こっちが少し有利になった。これが勉強する意味です」
「そうか…そうだね!」
ルディたちが警戒していると、三体のはぐれゴブリンがルディたちを見つけて襲い掛かってきた。
ゴブリンが武器を振り上げて近づいてくるのと同時に、ルディが走り出す。
「風の雨!」
すでにフランツは魔法を完成させており、奥のゴブリンに向かって透明な風の魔法を放った。
ゴブリンが攻撃する前に、ルディが素早くゴブリンの横を走り抜ける。その際にショートソードがゴブリンの脇腹を深く切り裂き、出血の後からボトリと内臓が地面に落ちた。
フランツの放った刃が上空で反転して4つに分裂する。
そして、奥で控えていたゴブリンの真上から襲い掛かり、体を引き裂いた。
これは、フランツがナオミから教わった魔法の1つ。ただまっすぐ飛ばすだけの風の刃と異なり、気付かれにくい上空から風の刃を分裂させて振り下ろす事で、不意を突く魔法攻撃だった。
真ん中に居たゴブリンは目の前で仲間が切り裂かれて驚き、背後からの悲鳴に振り返れば、もう一体の仲間もフランツの魔法で死んでいた。
突然の出来事に動揺して動けずにいると、ゴブリンの面前にルディが現れた。
ゴブリンは自分も殺されると思い、何もできず身を縮こませた。
「……とりゃ!」
ルディが剣の柄頭で思いっきり頭をぶん殴る。
ゴブリンが気絶して地面に倒れた。
「ルディ君、とどめを刺さないの?」
気絶して目を回してるゴブリンを見下ろして、フランツが質問する。
「コイツ、ネズミの代わりです」
「……?」
フランツが首を傾げる前で、ルディが「にひひ」と笑った。
フランツはルディの笑顔を見て、何故か分からないけど寒気を感じていた。
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