第16話

 やっとのことで服屋に到着すると、中からマーティンとよく似たおじさんが出てきた。違ったところは……髭の量だろうか。額の汗を袖で拭きながらおじさんが言った。


「よう、来たねぇ。ほれ、外は暑いじゃろけ、中入りんさい」


「え、あ、失礼します」


「そねぇにかしこまらんでええよぉ」


 と僕の腕におさまっている彼女の青白い顔を見て、おじさんの顔色が急に変わった。こりゃいかん、と言いながら早足で店内を歩き回り、奥の方でチョイチョイと僕を手招きした。行ってみると、洗濯したての布団が一式敷いてあり、ここに彼女を寝かせろとそれは意味していた。彼女を優しく布団に置くと、いつの間にか氷袋を持ってきていたおじさんが脇や首筋に挟んでいく。水を持ってこようと立ちあがると、おじさんが静止して結局、座り直すことになった。


「お兄さんも大変じゃったじゃろう、どれ、嬢ちゃんが元気になるまだぁここにいんさい」


「で、でも」


「わしが水持ってくるけぇ、嬢ちゃんのこと見ちょってぇや」


「……わかりました」


 渋々うなずき、彼女を向くと顔の赤みが少し戻ってきており、眉間に寄せられた皺は消えていた。いくらか楽になったようだ。程なくして、おじさんは水の入ったコップを二つ持って、戻ってきた。そして、何も言わず僕に手渡した。えっ、と驚いている僕におじさんは言った。


「お兄さんも水分取りぃね、その格好で外いたんじゃけ、脱水症になりかけちょる」


「脱水症?」


「ほら、立ったときに目眩がしたり吐き気がしたりしたじゃろ?」


 そういえば、先程立ち上がったときなんとなくだが、違和感を感じた。マーティンさんのところで飲んだ液体が原因だと思ったが違ったらしい。ごめんよ、マーティンさんと心のなかで謝罪する。

 それにしてもよく、気付いたなと出会ったばかりのおじさんに感心する。迷惑をかけたくないと言う理由から不調を気づかれないよう隠していたのだが。そんなことを思いながら水を飲む。それは今にも張り付きそうな喉を心地よく流れていった。と、おじさんがこちらを向き、口を開いた。


「ところでお兄さん、紹介がまだじゃったな。わしゃムートゥンじゃ。これから少しの間じゃが、よろしゅうな!」


「はい!」


 丁寧な自己紹介に思わず立ち上がってしまった。おじさんの座りんさいで少し赤くなった顔を隠すように正座して背筋をただし、自己紹介をする。


「僕は、ショウです。これからよろしくおねがいします!」


「お兄さんはショウっちゅうんか……。いい名前じゃな」


 そう言って手を伸ばされたため、反射的に手を握るとおじさんはガッシリとした体型に似合わない柔らかさで握り返してきた。


「そういや、ショウ。この嬢ちゃん、誰か知っとるん?」


 質問に首を振ると、おじさんはため息をついた。マーティンと同じように。

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