第13話
蓄積した疲れを少しでも紛らわすために、他愛のない話を続けながら歩いていると、やがて遠くの方に小屋のようなものが見えた。多分あれが店なのだろう。隣にいる彼女の表情を見ると口角が上がり心做しか嬉しそうに見える。近づくにつれ、二軒が並び建っていることがわかった。
「あれは……服屋?」
屋根が赤いほうを指差すと、彼女は頭を振り否定の意を示した。ともすると茶色いほうか。赤いほうは多分武器屋だろう。砂漠にあるだけあって人通りは少ない、というよりほぼない。だが、種類は豊富で中には高価なものもあるらしい。いわゆる隠れた名店というものだろう。
荒く据え付けられた木の扉を恐る恐るノックして入ると、口髭を蓄えたふくよかな店主が野太い声でらっしゃい! と言った。
「こんにちは、マーティン」
「これはこれは、姫君じゃないか! どうしてここに?」
姫君……? チラリと盗み見すると、彼女は口元に人差し指をあててシッ! と言った。それを見たマーティンは慌てたように口を手で抑えた。
「ねぇねぇ」
「ん?」
「今、姫君って……」
「なんでもないわ! さぁ早く武器を選ぶわよ」
取り繕うような早口で話題を変えられた。これはきっと彼女が隠し持つパンドラの箱だろう。うん、と返事をしたあと店内いっぱいに並び置かれている武器を見てみる。
オススメと書かれた剣はとてもかっこいい形で欲しいとも思ったが僕はごく普通の高校生であり、今まで弓道部や剣道部などの運動部に入ったことがないため使えるかどうかはわからない。目線を逸らし他を探した。悩みに悩んで手に取ったのは隅っこに置かれていた茶色の革袋に入った短剣。調理実習で包丁やナイフは使ったことがあるので少しは使えるだろうと考えたからだ。
「よぉ、兄ちゃん。武器を選べたか?」
「はい、これがいいかなって思ってて……」
そう言うとマーティンは急に真顔をして首を振りながらやめとけ、と言った。聞くと、この短剣は呪いの短剣だと言われた。どうやら、前の持ち主がかけたものらしい。
「前の持ち主って?」
「それは、言えねえな。守秘義務ってもんがあるからな。悪いことは言わない。それは、やめとけ」
「……わかりました」
渋々頷き元の場所に置く。さて、どれにしよう。彼女は何を選んだのだろうか。無性に気になって振り返ると身長の半分はあるであろう大きな弓をじっくり見ていた。時折マーティンが話しかけているもののほとんどが生返事だった。くるりと前を向いて短剣を見てみるがどれもしっくりこない。
「マーティンさん!」
「へいへい、何でしょう?」
「初心者向けの剣とかって無いの?」
「あるぞ、案内するからついておいで!」
言われた通りついていくと、はたして見つかった。それも大量に。種類も豊富で何より形状がかっこいい。何にしようか考えているとマーティンが、武器を一つ持ってきた。これは……剣? 重そうに見えたが持ってみると意外と軽く扱いやすそうだった。
「どうだい?」
「とてもいい感じです! これにします」
パンっと手をたたいてよし決まった! と言われた。会計を済まそうとしたが、一つ重大なことを僕らは見落としていた。……お金がない。
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