第12話
スッと音を立てて、戸が開く。おまたせの四文字と共に姿を表した彼女を見ると、どうやら準備が終わったようだ。今日の髪型は高めに括った一つ結び、俗に言うポニーテールだと思われる。昨日とはまた雰囲気が違いドキドキする。そんな僕には気づかず、行きましょうとリュックを背負って彼女は一歩踏み出した。慌ててついていこうと、足を動かした。刹那、パンッとクラッカーの弾けるような音がして反射的に目を固く瞑る。次に見えた景色は外だった。テントから出た記憶がなく、一瞬で外に出たことで混乱した。彼女を見て説明を求めると、テントは昇華したと言われた。
「どういうこと?」
「テント内に時計のような文字盤があったの覚えてるかしら? あれが機能したのよ」
彼女曰く、魔法で造られた建物は食品のようにどれも期限があるらしい。徐々に腐る食品とは違って期限が来ると自動的に消える。ちょうど、今のように。
「もしかしてだけど、あのランプもそれを?」
「ええ。色が変わって本当は音がなるはずだったんだけれど……ちょっと失敗したみたい」
「全然大丈夫だよ」
「ありがとう」
僕に対して微笑んだあと、前を向き再び歩き始めるその姿はとても勇ましい。しかし、同時に脆いように感じた。女の子だからという理由……ではない。もっと別の何か。何にせよ本人が隠したがっていることを聞くのは野暮というものだ。いつか彼女から話してくれるのを待つしかない。
「そういえば、昨日のコヤンナンってどうなったの?」
あれからずっと気になっていたことを聞く。もしかしたら、また出会うかもしれない。その不安が無意識に、口を開かせた。
「ああ、それなら心配ないわ。私が魔法で討伐したから。それに、もう砂になっているわよ」
「え? それってつまり……死んでいるってこと?」
「そうよ」
なるほど、死んだ魔物は砂となって消えるのか……だったら食料にならない。この長旅がいつまで続くかわからないが食糧難だけは避けたい。かと言って彼女を当てにするわけにもいかない。先が思いやられて思わず頭を抱える。もちろん、彼女に見えないように。今更だが、かっこ悪いところを見せたくはない。どうしようか考えていると、彼女の声が遠くから聞こえた。顔を上げて見ると、いつの間にか距離が空き先の方で彼女が何やら叫ぶように話しながらこちらへと手を大きく振っていた。慌てて、走ろうとするが暑さと砂の重さによって足を思うように動かせず、全然前へ進まなかった。やっと彼女の元へたどり着いたときには滝のように汗が髪から滴り落ちていた。
「大丈夫? ごめんなさい、どんどん先を歩いてしまって……」
沈んだ顔をして頭を下げる彼女に焦ってストップをかける。鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてこちらを見つめられたが、もとはと言えば自分が悪いのだ。加害者が謝らずして何になる。息を整え、まっすぐ彼女の目を見つめる。
「ごめん! 僕が悪いんだ。君は悪くない!」
「え、で、でも……」
「いいから!」
頭を真っ直ぐ下げながら言う。やがて小さなため息が聞こえ、今度からお互い気をつけましょうと言われた。その言葉にうなずき、引き続き歩みはじめた。今度は手を繋いで。
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