第203話 風流洞攻略14日目(10):風精霊に導かれて

 風精霊はもう一度震え、ふよふよと移動を始めた。

 俺たちはその後を追っていく。


 スタート地点に案内してくれるのか。

 それとも、別の場所に連れて行かれるのか。

 どうなるかは分からないが、サラが信頼してるから、悪いことにはならないだろう。


 進んでいくうち、風精霊がピタリと動きを止める。


「どうした?」

「てき、来るー」


 サラは言うなり、前にスッと飛んでいく。

 言う通り――ドリアードが現れた。


『――【活火激発(かっかげきはつ)】』


 前に伸ばしたサラの手から、無数の火蜥蜴が飛び出す。

 ひとつひとつは手のひらサイズの蜥蜴だが、数が数だ。

 ドリアードの全身が火に包まれて――燃えカスとなる。


「木はよく、もえるー」


 ニコニコ笑顔だ。

 機嫌を直してくれたようでなにより。


「どんどん、いくー」


 サラにつられたのか、風精霊も嬉しそうに飛んでいく。

 しばらくそのまま後を追い、曲がり角を曲がったところで――。


「あれ、また、行き止まり?」


 先頭のシンシアが驚いた顔をする。

 風精霊に遊ばれたのか?

 いや、サラの態度からそれはないだろう。

 そう思ってよく観察すると――。


「あっ」

「これは」


 シンシアと声が重なる。

 後ろからステフが「どうした?」と覗き込む。


 床から小さな箱がにゅっと生えてきた。

 世界樹の枝で組まれた宝箱だ。


「罠は?」

「大丈夫」

「開けて良い?」


 宝箱を開けると――。


「精霊石だ」


 久しぶりの精霊石。


「見せてもらえるか?」

「ああ」

「これが精霊石か」


 ルーカスに手渡すと、彼は不思議そうな顔で精霊石に見入った。


「こいつが食べたいってー」

「欲しいのか?」


 風精霊から期待の念が伝わってくる。

 精霊石を与えると、嬉しそうに取り込む。

 そして、ひと回り大きくなった。


「精霊石くれるなら、あんないするってー」

「良いのか? サラも欲しいんじゃ?」


 精霊石は限りがある。

 そして、サラの大好物だ。

 精霊を強化する貴重な石で、ここぞというときのためにとってある。


「サラにもくれればいいよ」

「分かった分かった」


 精霊石を手のひらにのせると、サラは直接パクッと口にくわえる。


「ぱわーあっぷ!!!」


 サラは両手を挙げ、元気よく叫んだ。

 その姿に和やかムードになる。


「案内してくるか?」


 風精霊が肯定するように震える。


「もどるか、すすむか、どっちがいいかって」


 サラが通訳してくる。

 みんなの顔を見て、俺は決断を下す。


「今日はここまでだ。スタート地点に連れてってくれ」


 風精霊はクルクルと回ってみせる。

 サラの通訳なしでも、気持ちが伝わってくる。


 それから案内に従って進んでいく。

 途中で何度かドリアードとの戦闘があったくらいで、今度は問題なく、スタート地点に戻ることができた。


「約束のご褒美だよ」


 ふるふると精霊石を受け入れ、風精霊はひと回り大きくなる。

 今は直径二〇センチくらい。他の風精霊の倍以上だ。

 そのとき、また、声が聞こえる。


「ズルだ。ズルしちゃだめ」


 怒ったような、焦ったような、そんな声だった。

 それだけだったので、俺は無視して、解散を告げる。


「じゃあ、今日はこれまでだ」

「あるじどの、ばいばーい」

「サラちゃん、またね」

「ままー、ばいばーい」

「サラちゃん、元気でな」

「おまえもなー」

「……」

「おいたんも、また、あそぼー」


 こうして、ルーカスを加えての初日は無事に終わった――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


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次回――『ルーカスと二人飲み』



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