第202話 風流洞攻略14日目(9):異変


 しばらくすると、また、ドリアードが現れた。

 今度は二体だ――。


「プランB」


 俺の合図で、皆が動き出す――。


『――【挑発タウント】』


 ステフがスキルで挑発し、ドリアードの攻撃を集める。

 それと同時にふたつの影が飛び出す。


 シンシアとルーカスだ。

 二人とも、飛んでくる蔦鞭に臆せず。

 華麗に躱し――。


『――極重爆(グラビティ・ブラスト)』


 世界樹の靴を履いたシンシアの方がわずかに速かった。


 ――突ッ。


 シンシアがミスリルを胴体に叩きつけ。

 ルーカスのオリハルコンが胴体を貫く。


 二体とも一撃だった。


「さすがだな。俺の出番がなかったよ」

「うん。まだ余裕あるよ」

「ああ」


 作戦会議でルーカスが言った。


 ――俺なら蔓攻撃は躱せる。シンシアもだ。


 ルーカスの言葉にシンシアも頷いた。

 どうやら、俺は安全マージンを取り過ぎていた。


 未知の階層、初見の敵。

 慎重になるのは当然だ。


 だが、それで仲間の力量を見誤ってはならない。

 俺にとってはリスクだと思った突撃。

 二人にとっては、リスクではなかったのだ。


 【3つ星】。

 『水氷回廊フォース・ダンジョン』。

 『最果てへ』のリーダー。


 早速、俺に大切なことを教えてくれた。

 彼からは少しでも多くを学びたい。


「これからも遠慮なく、アドバイスしてくれ」

「ああ」


 攻略を再開し、何度か戦闘をした。

 全部、ドリアードだ。

 戦い自体は、なんの問題もなかった。


「待ってくれ」

「どうした?」

「少し戻りたい」

「分かった」


 【3つ星】のカンが伝えたのだ。

 俺には分からないなにかを。

 それに従わない手はない。


 俺たちは反転。

 ルーカスを先頭にさっき来た道を戻る。

 彼はなにかを確かめるようにしながら進んでいく。

 異変は突然だった。

 曲がり角を曲がると――。


「なっ!」

「行き止まり」

「ええっ?」


 通ってきたばかりの通路が壁でふさがれていた。

 俺たち三人が驚く中、ルーカスだけが冷静だった。


「やっぱりな」

「分かってたのか?」

「なにかまでは分からなかった」

「よく気づいたな」

「嫌な予感がしただけだ」


 また、子どもの声が聞こえる。


「あはは。迷子になっちゃった?」


 からかうような声は続く。


「そんなんで、ボクを捕まえられるかな?」


 明らかにこちらを挑発した声。


「頑張ってね。それじゃ」


 一方的にしゃべるだけしゃべって消えていった。

 残響が耳に残る。

 シンシアと顔を見合わせ苦笑する。

 声は聞こえなくても、からかうような気配を感じたのだろう。

 捕まえてお仕置きしてやらないとな。


 それにしても――。


 ダンジョンの形状が変わる。

 五大ダンジョンにはいろいろなギミックがあるが、こんなのは初めてだ。

 だが、納得する理由もある。


 風流洞ここは世界樹の中だ。

 生きている世界樹の体内なのだ。


 世界樹の枝や蔓でできた壁が動いても、なんの不思議もない。

 それにしても、ルーカスはよく感じ取ったな――そんな俺の思いが伝わったのか。


水氷回廊フォース・ダンジョンの悪意はこんなものじゃない」


 そう告げる彼の顔からは表情が抜け落ちていた。

 もとから表情を変えない彼だが、それとは別のなにかだった。

 ゾクリと背筋が震える。

 彼がフォース・ダンジョンでなにを見てきたのか。

 俺たちがそこに挑まねばならないのか。


「忘れてくれ」


 申し訳なさそうにルーカスが告げる。


「良い心構えになったよ。感謝する」


 冗談めかして、場の空気を暖める。

 それにシンシアとステフが乗っかる。


「ねえ、どうする?」

「これは、困ったな。もしかして、風の精霊王様に嫌われてしまったのじゃないか?」


 ステフがステフらしい発言をして、いつもが戻って来た。

 とはいえ、問題はなにも解決していない。


 ――ふるふるふる。


 一体の風精霊が大きく震える。

 この階層のスタート地点でも震えた精霊だ。

 なにか、伝えたいのか?


「こっちだって言ってるー」

「サラ?」


 今まで不貞腐れて、戦闘にも参加しなかった彼女がいきなりしゃべり始めた。

 さっきまでの不機嫌が嘘だったようだ。


「風臭くないのか?」

「こいつ、いいやつー」


 風精霊の中でも良い奴と悪い奴がいるようだ。


「シンシアは分かる?」

「うーん、私も区別つかない」

「まあ、サラがそう言うなら、ついていこうかと思うが?」


 反対意見は出なかった。


「じゃあ、行こう。案内してくれ」


 そう言うと、風精霊はもう一度震え、ふよふよと移動を始めた。

 俺たちはその後を追っていく――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】



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次回――『風流洞攻略14日目(9):風精霊に導かれて』

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