第144話 風流洞攻略11日目4:討伐後

 シンシアの『――極重爆(グラビティ・ブラスト)』

 ステフの『――【刺突(ピアシング)】』

 サラの『――【火弾全射】』

 メンザの『――【雷霆(ケラウノス)】』


そして、俺の――。


『風の精霊よ、集い、固まり、縮まりて、敵を穿(うが)つ弾となれ――【風凝砲(ウィンド・キャノン)】』


 俺たちの全火力ともいえる総攻撃に、アラネア・ポリュプスは耐え切れなかった。

 みなでハイタッチを交わす。


 思っていた以上に楽勝だった。

 大量にレベルアップして戦力が底上げされたのもあるが、やはり、パーティーとして噛み合っていたことが大きな要因だろう。

 もともと、個々人の能力は高い。

 それが、完璧に連携が取れると、ここまで強くなれるんだ。


 あらためて、その事実を実感する――。


 やがて、アラネア・ポリュプスが消えると、部屋の中央に宝箱が現れた。


「たからばこー!」とサラが声を上げる。

「おお、ドロップ品かっ!」とステフは興奮気味。

「なんでしょうかね」とメンザは落ち着いている。

「もしかして……」とシンシアは期待が隠せない様子だ。


 皆、判断を仰ごうと俺に視線を集める。


「罠はない感じだな」


 俺の【罠対応】には反応がない。

 ただ、俺のはそれほどレベルが高くないので、少し不安だ。


「私が調べてみましょう」とメンザ。


 メンザが詠唱を開始し、罠を調べる魔法を発動させる。


「ええ、罠はないですね」


 俺のと違って、メンザの魔法なら信頼できる。


「じゃあ、開けてみよう」


 皆に見つめられながら、宝箱に手を伸ばす。

 ふたを開くと――。


「木靴か?」


 一見すると、普通の木靴だ。

 だけど、この状況でただの木靴ってことはないだろう。


「ちょっと貸してもらえますか?」


 木靴を手渡すと、メンザは鑑定魔法を唱える。

 みんなが固唾を呑んで見守る中――。


「ほう。これはこれは……」

「やはり?」

「ええ、間違いありません。三種の王器のひとつ、『世界樹の靴』ですね」

「「「「おおおおおおおっ!!!!」」」」


 やっぱり、当たりだった!


「素材は世界樹の枝ですね。効果は移動速度アップです」


 速度上昇か。


「ただ、その効果が桁外れですね。これほどのものは水氷回廊(フォース・ダンジョン)でも見たことがないです」


 三種の王器の名の通り、その性能は破格だった。


「サイズに関しては自動調整機能がついてるので、誰でも問題ないですね」


 さて、問題は――誰が装備するかだ。

 試しに俺が装備しようと試みるが――ダメだ。

 靴に拒まれる。


 俺はエルフ女王の言葉を思い出す。

 三種の王器は精霊術士をサポートする仲間のため。

 だから、俺は装備できないのだろう。


 となると、他には――。


「私には必要ないですね」とメンザ。


 もともとメンザはほとんど移動しない戦闘スタイルだ。

 ピンチのときの緊急回避くらいしか使い途はない。


「いらないー」とサラ。

「いいの?」

「なんかくさいー」

「そうか、臭いはしないぞ?」


 鼻に近づけると、微かに世界樹の枝の香りがするが、それもむしろ心地よい香りだ。


「風くさいー」

「ああ、そっか」


 たぶん、風精霊がらみのアイテムなのだろう。

 どうも、サラにとっては風精霊はあまりいい印象ではないみたいだ。


「試させてもらえないか?」とステフ。

「ああ」


 ステフは『世界樹の靴』を履くと、軽くダッシュする。

 その動きは普段とは比べ物にならない速さだ

 だが、数歩進んだところで、バランスを崩し、転倒してしまう。


「いや、これは私には無理だ。とても使いこなせない」

「そんなに違うのか?」

「ああ、性能が高すぎて、身体のコントロールが全然効かない。風の精霊王ゆかりの物だから、使いたかったのだが……残念ながら、諦めざるを得ないよ」


 ステフが無理となると――。


「シンシアも試す?」

「ええ、やってみるわ」


 よほどの身体能力がないと使いこなせないようだが、ウチで一番身体能力が高いシンシアならば……。


 靴を履いたシンシアは軽く身体を動かしてから、走り出す――。


 一瞬、シンシアの姿が消えたかと思った。


 壁に向かって走ったシンシアは、壁手前で急制動。

 ブレーキをかけると、反転しこちらに迫って来る。


「うわっ」

「きゃっ」


シンシアは俺の目の前で急停止しようとしたが、勢い余って俺に抱きつく。


「すごいっ。これ、すごいわよっ!」


 興奮気味なシンシア。

 まだ慣れてはいないが、彼女ならすぐに使いこなせるようになるだろう。


「じゃあ、決まりだな」


 俺に使いこなせるとは思えないし、他のメンバーからも反対はない。

 靴の持ち主はシンシアに決定した。


「よし、帰ろう」


 今日の攻略はここまで。

 明日の休みをはさんで、明後日から第43階層に挑戦だ。

 風の精霊王様の言葉では、のんびり攻略している余裕はない。

 また明後日から、ガンガン攻略していこう!





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『誘拐』


 不穏な気配が漂ってきました。

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