第667話

 俺はアロ、トレントと共にンガイの森を移動していた。

 目的はアポカリプスのレベル上げ及び、新スキルの確認である。


 現状、最大レベルのオネイロスのステータスの半分以下なのだ。

 この状態で神の声のスピリット・サーヴァントとぶつかりたくはない。

 低レベル間は一気にレベルが上がりやすい。

 A級でも倒しておけば、ある程度は格好のつくステータスになるはずだ。

 

 まだミーア戦でのダメージもほとんど抜けていないが、俺達には時間がない。


『……しっかし、こういうときに限って見つからねえな。あんまし天穿つ塔から離れたくはねえんだが』


 〖気配感知〗に意識を向けながらふらふらと歩いていると、微弱ながら反応があった。

 俺は傍らを歩くアロ達へと目を向けて合図する。

 姿は見えない……と思ったが、目前のノロイの木の根元に、直径一メートルはありそうな青黒い巨大な花が、いくつも咲いていた。

 どうやら気配はあそこから放たれているようだ。


【〖ディスペア〗:Aランクモンスター】

【世界の終焉に咲くとされている花。】

【深い嘆きや悲しみを糧として育つ。】

【聖神教の教えでは、いずれ世界は〖ディスペア〗に覆われるだろうとされており、それを遮るための救世主を待ち望んでいる。】


 お、おっかねぇ……。

 ざっと見る限り、十以上のディスペアが咲いている。


 ここは神の声に散々利用された奴らの墓場みてぇなものだ。

 〖ディスペア〗が咲くのも頷けるが……。

 しかし、レベル上げとして丁度いい相手であることは間違いない。


 花が一斉に震え始めたかと思えば、大きく持ち上がった。

 俺が警戒して睨んでいると、根っこが球状に膨れ上がっており、そこに円らな瞳が二つ、小さな口が一つ付いていた。


「ふろぉー」


 幼子のような鳴き声を上げる。


「ちょ、ちょっと可愛い……?」


 アロがディスペア達を目にして、ぽつりと漏らした。


 い、いや、可愛さに騙されてはいけない。

 こんな外見でも、こいつらはAランクモンスターだ。

 凶悪なステータスを有しているに決まっている。


 俺のステータスが進化したてでアロ達と大差ない数値になっている今、危険な魔物が複数体出てくれば、あっさり全滅させられることも考えられる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

種族:ディスペア

状態:狂神

Lv :94/115

HP :1985/1985

MP :3227/3227

攻撃力:387

防御力:667

魔法力:1244

素早さ:887

ランク:A


特性スキル:

〖MP自動回復:Lv7〗〖隠密:Lv8〗

〖飛行:Lv7〗〖狂神:Lv--〗


耐性スキル:

〖魔法耐性:Lv8〗〖毒耐性:Lv8〗

〖麻痺耐性:Lv7〗〖呪い耐性:Lv7〗


通常スキル:

〖デス:Lv7〗〖カース:Lv7〗〖ミラージュ:Lv7〗

〖忌み噛み:Lv6〗〖毒毒:Lv6〗〖ライフドレイン:Lv7〗

〖ダークスフィア:Lv7〗〖絶望の散華:Lv1〗


称号スキル:

〖最終進化者:Lv--〗〖不運の花:Lv--〗

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 うし……ステータスを見る限り、扱い易い相手だ。

 Aランクでは魔法力はやや高めだが、それだけだ。

 魔法型にしては、中途半端にHPとMP、素早さが高く、ステータスが割れて長所に欠けるタイプのモンスターである。

 この手のタイプは格下・同格相手には安定した戦い方ができるが、格上相手には成す術がないことが多い。


 おまけにスキルもパッとしない。

 〖デス〗、〖カース〗、〖ミラージュ〗、〖毒毒〗は俺達に対してほぼ死にスキルだと言っていい。

 〖忌み噛み〗も攻撃力の低いあのステータスではあまり意味がない。

 警戒するのは〖ダークスフィア〗くらいだ。


 ディスペアのタイプを敢えて分類するのならば、魔法特化で状態異常を操れるアタッカーとでもいったところか。

 距離を置いて戦う魔物にしては、素早さや耐久能力が中途半端に高い。

 相手の攻撃を受けながら戦うならば、中距離魔法や状態異常に特化しているのはアンバランスだ。

 これなら魔法型より、白兵戦で殴れるタイプの方が遥かに強い。


『速度がちっとマシで頑丈な魔術師タイプだ! 使ってくるのは〖ダークスフィア〗! 後は、一応〖ミラージュ〗警戒くらいだな。ステータスが分散してる分、秀でたところはない。そこまで警戒する必要はねえはずだ。ちっと不憫なステータスだな』


 これならトレントも下手に、元のワールドトレントの姿に戻る必要もねぇだろう。

 あのサイズに戻ったら他の魔物を引き寄せる可能性も高い上に、複数体相手だとちっと危険だ。


『……少し親近感が湧きますな』


 トレントが寂しげに零した。


『お、同じ植物ってところにだよな……?』


 しかし、回復スキルもないのに近接戦型でMPばかり多いのは、本当に意味が分からない。

 確かに今までのトレントのステータスはやや不遇だったが、敵の攻撃を引き付けるというコンセプトがあった。

 ディスペアにはそれさえ見えない。

 これだけMPがあろうと、近距離で回復なしに戦うことになれば、絶対MPがなくなる前に決着がつく。

 こんな絵に描いたようなハズレステータスも珍しい……ん?

 最後の通常スキル、初見だったか。


【通常スキル〖絶望の散華〗】

【自身の残MPを全て身体の中心に集中して圧縮して爆発させ、その勢いで花びらを射出する。】


 あるじゃねぇか、持て余したMPの使い道!

 〖ダイレクトバースト〗系統の自爆スキルだ。

 俺の脳裏では、満面の笑みのクレイガーディアンが浮かんでいた。

 

『アロ、トレント、気を付けろ! こいつら自爆するぞ!』


 アロとトレントがぎょっとしたように身構える。

 直後、周囲に生えていたディスペアが全員地面から身体を出し、俺達目掛けて走ってきた。


「ふろぉー!」

「ふろぉおお!」


 もう少し速度が遅かったら振り切って別の魔物を狙うのもアリなのだが、中途半端にディスペアの足が速いため、今の【Lv:1】の俺の速度では、しばし鬼ごっこを続ける羽目になる。

 このンガイの森では、そんなことをしていたら他の厄介な魔物に囲まれるリスクが大きすぎる。

 リスクを取って振り切っても、結局この森で、ステータスの下がっている今の俺が安定して勝利を収められる相手とぶつかれるっつう保証はねぇ。


『速攻で叩いて全滅させるぞ!』

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