第648話

 ミーアが〖黒蠅大刀〗を構え、俺達を見る。

 目は全くの無感情で、口許はやや余裕ありげに綻んでいた。


 対峙するアロもトレントも、顔が強張っている。

 俺も同じ表情を浮かべていることだろう。


 ミーアは強い。

 ステータスもそうだが、それ以上にスキルの練度と使い方が、俺とは桁違いだ。


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〖ミーア・ミトレニア〗

種族:タナトス

状態:狂神(小)、呪い、人化LvMAX

Lv :150/150(MAX)

HP :3333/6666

MP :4172/4444

攻撃力:2222(4444)+444

防御力:1106(2212)

魔法力:4444

素早さ:3220

ランク:L(伝説級)


装備:

手:〖黒蠅大刀:L+〗


神聖スキル:

〖地獄道:Lv--〗


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv8〗〖アンデッド:Lv--〗〖不滅の肉鎧:LvMAX〗

〖肉体変形:LvMAX〗〖死者の特権:Lv--〗〖冥府の鏡:Lv--〗

〖HP自動回復:LvMAX〗〖MP自動回復:LvMAX〗〖触手:LvMAX〗

〖飛行:LvMAX〗〖死神のオーラ:Lv--〗〖闇属性:Lv--〗

〖邪竜:Lv--〗〖気配感知:LvMAX〗〖魔術師の才:LvMAX〗

〖剣士の才:LvMAX〗〖隠密:LvMAX〗〖即死の魔眼:LvMAX〗

〖恐怖の魔眼:LvMAX〗〖支配者の魔眼:LvMAX〗〖魅惑の魔眼:LvMAX〗

〖悪しき魔眼:LvMAX〗〖狂神:Lv--〗


耐性スキル:

〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗〖状態異常無効:Lv--〗

〖闇属性無効:Lv --〗〖光属性耐性:LvMAX〗


通常スキル:

〖衝撃波:LvMAX〗〖残影剣:LvMAX〗〖神速の一閃:LvMAX〗

〖流し身:LvMAX〗〖掬虚月:LvMAX〗〖破魔の刃:LvMAX〗

〖ハイレスト:LvMAX〗〖ホーリースフィア:LvMAX〗〖ディメンション:LvMAX〗

〖クレイ:LvMAX〗〖アルケミー:LvMAX〗〖毒牙:LvMAX〗

〖灼熱の息:LvMAX〗〖病魔の息:LvMAX〗〖人化の術:LvMAX〗

〖自己再生:LvMAX〗〖デス:LvMAX〗〖念話:LvMAX〗

〖ダークスフィア:LvMAX〗〖フェイクライフ:LvMAX〗〖ダークレスト:LvMAX〗

〖腐敗の息:LvMAX〗〖穢れの舌:LvMAX〗〖ライフドレイン:LvMAX〗

〖分離獣:LvMAX〗〖ハイスロウ:LvMAX〗〖エクリプス:LvMAX〗


称号スキル:

〖最終進化者:Lv--〗〖元英雄:Lv--〗〖元魔王:Lv--〗

〖ド根性:LvMAX〗〖執念:LvMAX〗〖大物喰らいジャイアントキリング:LvMAX〗

〖武の神:LvMAX〗〖ラプラス干渉権限:Lv2〗〖死神:Lv--〗

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 改めて、ミーアのステータスを確認する。

 どうやらミーアは、俺との戦いもこのまま人化状態でいるつもりらしい。


 ヘカトンケイル戦のときからこちらの方が慣れているから……とは言っていたが、一部のステータスが半減してくれているのは、精神衛生上ありがたい。


 今まで通りの戦法で戦ってくれるのならば、注意しておかなければならないスキルは大体わかっている。


 ただでさえ速いミーアの動きを更に速くする〖神速の一閃〗。

 実体のある残像を生み出し、ミーアのただでさえ鋭い剣技をより複雑で強力なものにする〖残影剣〗。

 受けた衝撃を移動のエネルギーに変えてダメージを打ち消す〖掬虚月きくうつろづき〗。


 ……この三つは、常に頭に入れて戦う必要がある。

 少しでも隙を見せれば、俺の体力でも一気に〖残影剣〗による連撃や〖掬虚月きくうつろづき〗を用いたカウンターを叩き込まれ、あっという間に尽きかねない。


 逆に言えば、最優先で警戒するのはこの三つでいい。

 魔法スキルによる遠距離攻撃は、俺が張り付いてれば撃つ余裕はないはずだ。

 撃たれたとしても、ミーアの剣技に比べれば対応は楽だ。


『アロ、トレントは後方支援を頼む! アロの〖暗闇万華鏡〗は魔力を使い過ぎる、最大人数は避けて、魔力を温存しながら動いてくれ! ミーアには〖闇属性無効〗があるから気を付けろ!』


「はいっ!」


『トレントはひとまず木霊のままでいてくれ! ミーア相手に、フルサイズは危険過ぎる!』


『わかりましたぞ、主殿!』


 トレントの持久力は、スキル込みで考えれば伝説級である俺さえも凌いでいる。

 だが、ミーアの連続攻撃をトレントに捌けというのは、あまりに酷だ。

 トレントの持久力の高さは、回避を捨てて相手の攻撃を受けて耐えるところに特化しているため、という節がある。

 選択肢として無しではないが、無暗に取れる選択ではない。


「〖闇払う一閃〗は、君が持っているのだったね。私の得意スキルだったから、相対すると何だか不思議な感じがするよ」


 ミーアの声音は淡々としており、過去を懐かしんでいる、というふうには聞こえなかった。

 ミーアは〖黒蠅大刀〗を左手で持ち、右手で自身の首へと触れた。


「〖道連れ〗も持っているのだったか? 一番厄介かもしれないな。対策を考えておかないと」


『ミーア、お前……!』


 次の瞬間、ミーアの手許がブレた。

 黒い二つの斬撃が俺へと迫ってくる。


 〖衝撃波〗と〖残影剣〗の合わせ技だ。

 こんな使い方もあったのか……!

 言葉で俺の気を引いて、一気に仕掛けてきやがった。


 爪で相殺するか?

 いや、駄目だ。

 ミーアが単発攻撃なんか仕掛けてくるわけがねえ。


 俺だって、この手の仕掛け方は散々学習してきた。

 狙いはわかっている。

 この〖衝撃波〗の目的は、体勢を崩して追撃を狙うこと。


 俺は頭に、相柳戦とヘカトンケイル戦でのミーアの動きを浮かべる。

 わかってる……ミーアの仕掛け方!

 俺だってこれまで、何度も死線を潜って来たんだ!


 俺は尾で地面を弾いて跳び上がって二つの〖衝撃波〗を避け、爪を振るった。

 ここだ!

 わかる……ミーアは、ここに来る!


「グゥォオオオオオオッ!」


 俺は振るった前足の先端で、〖神速の一閃〗の超速度で移動するミーアを捉えた。

 〖神速の一閃〗は速いが、動きがどうしても単調になるのだ。


 ミーアは俺の爪を刃で受けてはいたが、地面へと叩き落とすことに成功した。


 反応できた。

 やった……やってやった!

 俺にだって、ミーアの剣技に対応できた!


 運も味方しただろう。

 だが、実際にミーアの最高速度を叩き落とせた、という意味は大きい。


 俺は続けて、ミーアへ〖次元爪〗を放った。

 手は緩めねぇ! 少しでも優勢を取ったら、そこに喰らいつき続けろ! 


「〖流し身〗」


 ミーアは側転しながら床に着地したかと思えば、凄まじい速度で俺目掛けて跳ね上がってきた。

 〖次元爪〗の斬撃は、ミーアの刃に綺麗に受け流されていた。

 慌てて振るった俺の前脚を擦り抜け、ミーアの身体が加速する。

 

 俺の身体に、斬撃が走った。

 胸部を斬られた!

 俺は激痛に耐えながら、我武者羅に前足を振るった。

 ミーアは、俺の爪の先に着地していた。


 俺が前足を振り上げると、ミーアは爪先を蹴って背後へと飛んだ。

 迷いない動きで壁を蹴り、再び加速して俺の頭を狙ってくる。

 この位置だと、ガードが間に合わねぇ……!


 俺は必死に頭を下げ、前足を伸ばす。

 左目のすぐ上を斬られた。

 体表が鱗ごと抉られ、頭蓋骨にダメージが響く。

 左目の視界が、溢れた血に覆われる。


「グゥウゥ……!」


 ミーアを追って爪を振るうが、全く当たらない。

 

 俺は、たった一撃防げただけで、何を喜んでいたんだ!

 偶然じゃ駄目だ。

 打ち合うくらい、当たり前のようにやってみせねぇと……!


 次の瞬間、ミーアの姿が完全に俺の視界から消えた。

 俺は血に覆われた左目を細め、大剣が風を切る音を頼りにミーアを探しながら腕を振るう。

 

「悪いけど、これで終わりだよ」


 見つけたミーアは、手許がブレていた。

 〖残影剣〗が来る。

 俺の首を狙っていた。

 振るった腕の軌道を変え、強引にミーアを狙う。

 だが、間に合わない。


「〖ゲール〗!」


 三重のアロの叫び声が響く。

 三つの竜巻が宙に並び、防壁のように現れた。


 ミーアの刃に、光が灯った。

 〖破魔の刃〗だ。

 アロの作った風の防壁が一撃で四散する。


 だが、その隙は大きかった。

 真っ直ぐ伸ばしていた俺の爪の一撃が、刃を振るったばかりのミーアへと到達した。

 ミーアは俺の爪を蹴り飛ばし、床へと着地した。


 また、当て損ねた……!

 だが、防げただけでも御の字だ。

 今の一撃は、アロの援護がなければ対応できなかった。

 まともに〖残影剣〗を首に受ければ、そのまま殺し切られていたかもしれない。


 〖暗闇万華鏡〗で三人になったアロが、黒翼を羽搏かせながら俺の肩の上辺りを飛ぶ。


『アロ……! 助けられたが、魔力消耗が激しすぎるから、最大人数は駄目だ!』


 俺はそう言ったが、アロは首を振った。


「私の身を案じて言ってくれているのは、わかっています。でも、私にだってわかります。ミーアさんは、温存して戦える相手じゃありません」


『……それは、そうだが』


 〖暗闇万華鏡〗で三人に分身し続けた場合、後でアロがまともにスキルを使えなくなってしまう可能性がある。

 ミーアを相手取るに当たって、戦力の維持は必須だ。

 誰かが戦闘不能になれば、その時点でミーアはアロやトレントの横槍を警戒する必要がなくなるため、一気に攻勢に出てくる。


 そうなったら、きっと俺は対応しきれなくなる。

 だから、アロとトレントには控え目に行動してもらうべきだと……俺は、そう考えていた。

 考えていたつもりだった。

 だが、アロが口にしたように、温存しながら戦える相手じゃないことも確かだ。

 

 ワルプルギスとなったアロは、魔力の塊のような存在だ。

 MPを使うのはHPを消耗することに等しい。

 だから俺は、もっともらしい理由を付けて、アロにスキルの使用を制限するように言ってしまっていたのかもしれない。


「私にも……もっと、命を張らせてください、竜神さま。竜神さまが命懸けで戦っているのに、HPを気遣いながら後方で魔法を撃つだけなんて、とてもできません」


『アロ……』


「ワルプルギスになって、レベルだっていっぱい上がって、ステータスも一気に上昇したんです! 今の私の魔法なら、当たりさえすれば、人化状態のミーアさんであれば、重傷を与えられるはずです! もう、守られるばかりではいたくありません!」


『わかった! 温存は考えず、全力でミーアを叩くぞ! ミーアにぶつけるのは難しいだろうが、範囲攻撃で確実にミーアの進路を潰してくれ! それでかなり、動きを読むのが楽になる!』


「はいっ!」


 俺の肩に、トレントが降り立った。


『アロ殿にばかり格好を付けさせるわけにはいきませんな! 主殿、私も全身全霊を以てお供しますぞ!』


『トレント……!』


「参ったな……遠くからの小粒の魔法攻撃程度の援護なら、まだ対応しやすかったのだけれど。こうなったら、本格的に皆殺しにするしかないらしい。悪くは思わないでくれ、世界のためだ」


 ミーアが〖黒蠅大刀〗を構え、俺達を睨み付ける。

 トレントは身震いして半歩退いたが、アロ三人組がミーアの視線に負けじと睨み返しているのを見て、そうっと一歩前に出た。

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