第571話
リリクシーラは光の大鎚をまた四つの光の刃へと変え、長い身体を自在に操って崖狭間を飛び回り、俺へと距離を詰めて来る。
俺は破損し掛かった〖オネイロスライゼム〗と、〖オネイロスフリューゲル〗を掲げる。
〖アイディアルウェポン〗で修復したいところだが、そこに最後のMPを使い切るわけにはいかない。
武器がある以上、これは使い回すべきだ。
俺とリリクシーラは、互いに残りMPは僅かしかない。
どのスキルを使うかが勝敗に直結する。
〖闇払う一閃〗は、剣が遅くなる。
耐性無視で大ダメージは狙えるが、リリクシーラ相手に当たるとは思えねぇし、そこまで相性がいいわけでもねぇ。
〖次元爪〗は決定打には使えねぇが、牽制としては優秀だ。
〖グラビティ〗の移動制限も悪くはねぇ。
恐らく、さっきみてぇに向こうも同じスキルをぶっ放して対抗してくるだろうが。
〖ヘルゲート〗はMP残量的に使えない。
〖ワームホール〗は、使い方次第といったところだが。
……一番狙いてぇのは〖ミラージュ〗の幻覚だ。
この大剣……〖オネイロスライゼム〗には、ある能力がある。
【〖オネイロスライゼム〗:価値L(伝説級)】
【〖攻撃力:+240〗】
【青紫に仄かに輝く大剣。】
【夢の世界を司るとされる〖夢幻竜〗の牙を用いて作られた。】
【この刃に斬られた者は、現実と虚構が曖昧になり、やがては夢の世界に導かれるという。】
【斬りつけた相手の〖幻影耐性〗を一時的に減少させる。】
斬りつけた相手に、一時的な〖幻影耐性〗の減少を付与できるのだ。
リリクシーラには何度も〖オネイロスライゼム〗の刃を通している。
問題は、幻覚で何を見せるか、である。
あまり大規模なものはすぐに見破られる。
〖ミラージュ〗で見せる幻覚は当然現実に反している。
偽の情報は、違和感として現れる。それを見逃してくれるような甘い相手じゃねぇ。
その上、リリクシーラは読み合いのプロだ。
当然〖オネイロスライゼム〗の効果も確かめているだろう。
細かい部分で一点勝負で騙しに掛かっても、それを読まれれば〖ミラージュ〗は破られる。
俺に、本当にリリクシーラを出し抜けるのか……?
〖ミラージュ〗は避けるべきか?
〖次元爪〗で牽制するか、〖グラビティ〗合戦の運勝負に持ち込むか?
リリクシーラが四つの刃を振るって迫って来る。
俺は……覚悟を決めた。
〖ミラージュ〗で勝負する。
……俺の幻覚は〖ミラージュ〗だけじゃねぇ。
もう一つの方はあまり当てにはしていねぇが、二つ連続で仕掛ければ、両方を見破るのは難しくなるはずだ。
半ば運頼みになっちまうが、絶対に勝てる作戦なんてねぇ。
んなもんがあったら、端から俺もリリクシーラもここまで苦労なんてしていない。
俺は光の刃の一打目を大盾で受け流し、大剣で反撃してリリクシーラの腹部を斬りつけた。
リリクシーラの口から大量の血が垂れる。
〖ミラージュ〗を狙いやすくするために、強引にでもダメージを稼いでいく。
「安易ですね」
二振りの刃が、俺を襲った。
左右から同時に袈裟斬りを受けた。
守りを疎かにして、攻めに出過ぎたか……!
だが、リリクシーラもここまで攻撃に転じて来るとは思わなかった。
これまでリリクシーラは、全く焦れる様子を見せずに、徹底して安全にダメージを稼ぐ戦い方に出て来ていた。
そういう意味では、今の反撃はリリクシーラらしくない攻撃だった。
これなら、こっちからもお返ししてやれる。
「グゥオオオオオオッ!」
俺は咆哮を上げながら大剣の一撃を振るった。
リリクシーラは俺の下を潜り抜けるように回避しようとしたが、それでも胸部にまともに攻撃を受けていた。
彼女の腕が一本、構えた光の刃ごと崖底の奈落へと落ちていく。
リリクシーラは大怪我を負いながらも、俺の横を駆け抜けて更に光の刃の一閃を放った。
自身の血が宙に舞う。
掠れる意識を、俺は必死に保つ。
大丈夫だ、まだHPは残っている。
リリクシーラももうギリギリだ。
ここを堪えて、〖ミラージュ〗で決定打を叩き込む!
リリクシーラは宙で素早く旋回し、俺へと素早く迫って来る。
〖チャクラ覚醒〗の消耗HPが激しくて余裕がないのかもしれねぇ。
序盤に比べて、明らかに攻め重視の戦い方になっている。
俺に考える時間を与えねぇためか?
もしかして……敢えて大雑把に攻撃に出て反撃を受け、〖オネイロスライゼム〗の〖幻影耐性〗減少効果を狙っている?
通常ならば、そんな行動に意味はない。
だが、今の状況ならば、〖ミラージュ〗を凌いで俺のMPを空にして仕留める自信があるのなら、リリクシーラならばやりかねない。
本当に〖ミラージュ〗でいいのか?
いや、迷うんじゃねぇ。リリクシーラだって余裕がねぇはずなんだ。
全部が掌の内だなんて、そんなわけがない。
この斬り合いで勝敗がつく。
今更迷うんじゃねぇ!
俺は〖ミラージュ〗のスキルを使った。
跳び掛かってくるリリクシーラに対して、俺の手許を〖ミラージュ〗の幻覚によって誤魔化した。
これで大剣の斬撃が、現実よりも先行しているかのように錯覚させる。
引っ掛けられるのなら、これだけで充分なはずだった。
動きが止まったリリクシーラを大剣でぶった斬ってやれる。
リリクシーラの目が、全く大剣の幻影に向けられていなかった。
〖ミラージュ〗の幻覚が読まれたのだと、俺はすぐに理解した。
使い方が安易すぎたのか、それともタイミングか。
しかし、他に小規模で効果的な使い方とタイミングが、俺には思いつかなかったのだ。
やはり〖ミラージュ〗は避けるべきだったのか。
使い方とタイミングが限定された時点で、幻覚のフェイクはその価値を大きく下げる。
正面からの斬り合いでは、手数の勝るリリクシーラが優勢になる。
そして現状、俺の方が残HPが厳しい。
MPに至ってはほとんど底を突いている。
いや、俺はまだ終わっていない。
まだ、もう一つの、最後の幻覚が残っている。
俺は〖オネイロスフリューゲル〗を掲げた。
【〖オネイロスフリューゲル〗:価値L(伝説級)】
【〖防御力:3000〗】
【青紫に仄かに輝く大盾。】
【夢の世界を司るとされる〖夢幻竜〗の翼を用いて作られた。】
【人の世界と神の世界を隔てる扉として用いられているとされている。】
【生半可な攻撃を通さないのは無論のこと、近付こうとする者は幻影に惑わされるという。】
〖オネイロスフリューゲル〗の幻覚効果に懸ける!
タイミングや見せる物は、完全に俺の意思に無関係で発動する。
読み合いに強いリリクシーラとて、〖オネイロスフリューゲル〗の幻覚を凌げるかどうかはまた別だ。
「う、嘘……こんな……」
リリクシーラが目を見張り、三本の光の刃を僅かに下げた。
これまで見たことのない表情だった。
戦いのときの無機質な顔とも、最果ての島で見た取り繕った顔とも違う。
初めて見たリリクシーラの素の表情だったのだろう。
瞳に、微かに涙が滲んているかのように見えた。
俺は〖オネイロスフリューゲル〗をリリクシーラへとぶん投げた。
リリクシーラはすぐに刃を構え直して、〖オネイロスフリューゲル〗を両断して斬り飛ばす。
その間に、俺はリリクシーラとの距離を詰めていた。
俺は〖オネイロスライゼム〗の刃を大振りで放った。
手応えがあった。
リリクシーラの翼が、動きを止めた。
手から三本の光の刃が落ちる。
これは、演技じゃねぇだろう。
今〖アパラージタ〗の武器を完全に手放せば、再び出せるMPはもう残っていないはずだ。
経験値取得のメッセージこそ出なかったが、リリクシーラの身体が力なく崖底へと急落下していった。
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