第378話
灰銀色の核が僅かに埋もれる水溜り、マギアタイト・ハートが、洞窟内の床を駆け抜けて俺へと向かって来る。
なかなかの速度だ。
俺にはアロ(B+ランク)、トレントさん(C+)、ナイトメア(C+)が付いている。
まだ全員レベルはさほど高くないが、B-のマギアタイト・ハートくらいならば、ひょっとしたら俺なしでも狩れるかもしれない、くらいの相手である。
あっさり仕留められるはずだ。
マギアタイト・ハートは俺に接近すると、さっと洞窟わきへと移動する。
……好戦的かと思ったら、横を抜けて逃げるつもりか?
俺としては、逃げる相手はどうしてもやり辛い。
そう考えた瞬間、マギアタイト・ハートの身体の一部が持ち上がり、銀灰色の塊が発射される。
前足で薙ぎ払って弾き飛ばそうとしたが、体表に付着して弾けなかった。
おまけに鱗を焦がし、煙を上げる。超高温だ。
こいつ、魔法とコアの熱で、ガチガチの金属の身体を溶かして動かしてるんだったか。
つつ……ちっと、舐めすぎたか。
うっかり直接触ったら、こっちの方のダメージがでけぇかこりゃ。
俺は身体を仰け反らせながら身を屈め、翼を羽搏かせて腕を振るい、〖鎌鼬〗を放った。
風の刃は、マギアタイト・ハートの銀灰に輝く身体の上を滑る様に受け流され、地面を穿つ。
や、厄介な性質だ……。
どうにも捕えづらい。
そう思っていると、マギアタイト・ハートの身体が長い鞭を生成し、俺の足元へと一撃を放った。
チッ! 足先付近に、高温の一撃をもらった。鱗の上に、びっちりと焦げ跡がついている。
ち、ちょっと一回、マギアタイト・ハートのステータスをしっかり確認し直そう。
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種族:マギアタイト・ハート
状態:普通
Lv :52/70
HP :96/112
MP :373/410
攻撃力:121
防御力:456
魔法力:332
素早さ:390
ランク:B-
特性スキル:
〖マギアタイト:Lv--〗〖帯毒:Lv7〗
〖MP自動回復:Lv6〗〖グリシャ言語:Lv2〗
耐性スキル:
〖物理耐性:LvMAX〗〖魔法耐性:LvMAX〗
〖状態異常無効:Lv--〗
通常スキル:
〖魔金属生成:Lv7〗〖リクゥイド:Lv7〗〖コロナ:Lv6〗
〖変形:Lv6〗〖念話:Lv5〗〖ファイアボール:Lv8〗
〖クレイ:Lv5〗〖クレイガン:Lv5〗〖自己再生:Lv6〗
〖メタルブレス:Lv4〗〖衝撃殺し:Lv5〗〖受け流し:Lv4〗
〖毒毒:Lv7〗〖人化の術:Lv1〗
称号スキル:
〖最終進化者:Lv--〗〖鋼の賢人:Lv--〗〖臆病:Lv--〗
〖稀少魔物:Lv--〗〖古を知る者:Lv--〗
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な、なんつークセのあるステータス……!
しかし、俺を倒し切るほどの攻撃のポテンシャルはない。
今の、ちっと火傷を負わせる程度が限界か。
ただ、〖衝撃殺し〗と〖受け流し〗のスキルの力なのか、俺の攻撃を受けてなお、ほとんどダメージがない。
まともにダメージを与えるなら、完全に動きを捉えて直撃を与える必要があるな。
……つーか、こいつ、知性高いぞ。
〖念話〗だけじゃなく、〖グリシャ言語〗まで持っていやがる。
ランクも高いし、知性があるなら、ここの鉱山の情報を得られるかもしれねぇ。
称号スキルにも〖臆病者〗がある。
攻撃してきたのは、洞窟奥に逃げるよりも、横を通過して外に逃げることを選んだから、と考えた方が合っていそうだ。
作戦撤回だ。
ちょうど、居残り組の護衛が欲しかったところだ。
このランクなら、鉱山でも上位だろう。
しかし……こっちからの〖念話〗での呼びかけができない以上、一度抗戦状態のマギアタイト・ハートを止める必要があるな。
相方、アロ、ナイトメア、トレント、捕獲の方向で頼む。
俺が心中で呼びかけると、トレントが前に出る。
『ナンダ、飲マネェノカ』
飲まねぇよ、死ぬ気か。
まずそうって散々言っていたのに……。
俺側の方向に、マギアタイト・ハートに窪みが生じた。
マギアタイト・ハートの窪みが周囲の空気を吸い込んで膨れ上がり、一気に俺へと放出する。
銀灰に輝く息吹が放出される。
これは〖メタルブレス〗か?
翼で咄嗟に顔を庇う。
翼一面に、激痛が走る。
それも、痛みは継続する。
おまけに、翼が固まった様に動きにくい。
ちっ! 超高熱で気化させたマギアタイトを吐きつけてきやがったな!
宙で温度を下げたマギアタイトが固体に戻り、俺の翼の表面に付着しやがった。
とんでもねぇ技だ。小柄な魔物なら、これだけでマギアタイトメッキ加工の彫像にされちまうぞ。
マギアタイト・ハートは、〖メタルブレス〗を吐きつけた反動を利用して大きく動き、そのまま出口へと向けて駆けだそうとする。
「グゥオオオオオオッ!」
俺はマギアタイト・ハートの背へ向けて、〖咆哮〗を上げた。
〖臆病者〗への脅しには十分だったらしく、マギアタイト・ハートの身体がびくんと跳ね、大きな隙を作った。
「〖クレイ〗!」
アロがマギアタイト・ハート目掛けて手を翳す。
アロ達の速度ではマギアタイト・ハートへと直接攻撃を当てることは難しいが、進行方向の地面をかき乱すことは容易い。
マギアタイト・ハートの向かっていた先の地面に、極端な凹凸や、鼠返しの様な仕掛けや、格子状の壁の障害物ができる。
これは上手い。
地面を這って移動するマギアタイト・ハートにとっては致命打だ。
マギアタイト・ハートが減速し、自身の身体の金属を操り、進路方向へとマギアタイトの槍を放った。
アロの作った土の仕掛けを、マギアタイトの槍が貫いて破壊する。
再びマギアタイト・ハートが加速しようとしたところを狙い、トレントの無差別〖グラビティ〗が発動。
黒い光の円が広がっていく。
範囲の中には、マギアタイト・ハートを筆頭に、俺、アロ、ナイトメアを含める。
……もうちょっとそのスキル、使い勝手がよくならんのだろうか。
まあ、ステータスで圧倒してる俺はほぼ無抵抗に動くことができるから、俺のサポートにはなってるんだけど、上手く膝を突いたけど耐えるのに失敗してうつ伏せになってもがいてるアロや、足で踏ん張りながら多眼で睨んでるナイトメアに後で謝っとけよ?
俺は重力を振り切り、身体を翻して動き、マギアタイト・ハートのすぐ真横へと爪を突き立てる。
マギアタイト・ハートは、必要以上に俺の攻撃を大きく回避。
回避しつつ、俺の方向へと金属の槍を生やし、射出。
無理に避けて逃すわけにもいかないので、前脚で受け止める。
鱗を貫いて刺さったが、そこまで大騒ぎするダメージじゃねぇ。
牙を喰いしばって耐えて、そのままマギアタイト・ハートへと前脚を伸ばす。
マギアタイト・ハートは、前方のアロの生成した、土の格子状の壁へと突撃。
液体状態のマギアタイトの身体が、加速しながら格子を貫通。
ここだっ!
俺はアロの用意した土の壁ごと、前脚で薙ぎ払う。
土壁が俺の指先で崩され、通り抜けていたマギアタイト・ハートの金属の身体を貫き、指先にマギアタイト・ハートの本体である、金属製の臓器を得る。
俺に掬い上げられた本体は、そのまま爪に放り投げられ、洞穴の壁へとめり込む。
勝負あった。
金属体のマギアタイト・ハートが格子の壁を減速を抑えて透過するには、身体をより密度の低い液体に近い状態にすることで、接触時の抵抗を抑える必要がある。
そこを狙い、マギアタイトの鎧から引き摺り出してやったのだ。
ダメージを大幅に軽減し、〖受け流し〗と〖衝撃殺し〗を十全に発揮するマギアタイトの鎧は厄介に過ぎる。
殺すならともかく、生け捕りにするとなれば、鎧から引き剥がす他になかった。
俺は壁に埋まったマギアタイト・ハートへと顔を近づける。
〖念話〗があることは知ってんだよ。
この鉱山について、知ってることを吐いてもらうぞ。
『マサカ、コノタイミングデ外カラ高位ドラゴンガ現レルナド……』
マギアタイト・ハートの本体が、やや赤みを帯びた光を点滅させながら〖念話〗を送ってくる。
お、おお……話が通じそうだぞ。
『仕方アルマイ。余ヲ煮ルナリ焼クナリ、好キニ喰ラウガヨイ』
……いや、喰わねぇよ。
お前、自分が美味いと思ってるのか。
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