第374話
ただっぴろい海原を、聖竜セラピムと並んで飛行する。
「グゥォッ」
俺はセラピムの背に乗るリリクシーラへと声を掛け、彼女の気を引く。
俺が何か言いたいことがあると理解したらしく、リリクシーラは俺の方を見て小さく頷く。
「ええ、どうぞ」
俺に〖念話〗のスキルがない以上、会話を成立させるためには、〖念話〗持ちのリリクシーラに俺の考えていることを読み取ってもらう他にない。
なぁ、リリクシーラさんよ。
俺らと一緒に並んでるの見られたら、ヤベーんじゃねぇのか?
「……ええ、申し訳ありませんが、そうですね。大海原を抜ければ、私のリーアルム聖国があります。陸地が見え始めたところで、一時的に別行動とさせていただきます。その際に、アーデジア王国の王都まで向かうための地図をお渡ししますね」
まぁ、当然のことだ。
リリクシーラは、最終的には俺の身元を保証してくれるとは言ったが、物事には時期というものがある。
何の準備もなしに俺を連れて行けば、いくら彼女のお膝元の国とはいえ、上手く事が進むはずがない。
「別れる前に、魔王討伐についてお話しておきましょう。魔王は、恐らくAランク……それも、レベルは貴方よりいくらか劣ると、私は考えています。上手く事が進めば、さほど苦戦もしないかもしれません。あくまでも、仮定でしかありませんが」
……ほう。
本当だとすれば、ありがたい話だ。
んで、その根拠についても教えてもらっていいのか?
「理由は、魔王の動きが遠回しに過ぎることですね。人間の城を乗っ取り、恒常的な自らのレベルを上げるための生贄を求めている。安全にレベルを上げつつ、あわよくば聖女である私から正体を隠したいという欲が見えます」
安全なレベル上げ、か。
確かに、リリクシーラやエルディアよりも強いのならば、コソコソと動かなくてもいいはずだ。
「しかし、予測には穴もあります。一つは、レベル上げが目的だとしても、あまりにも、やり口が遠回しに過ぎる気がするのです。他に何か、利点があるのか……はたまた、単に魔王の性格なのかはわかりませんが」
遠回し……ね。
確かに人間の権威者に化けて実力者を募って殺すよりも、他にもっと手っ取り早い手があったのではないか、という気はする。
「もっとも、会ったこともない魔王の性格なんて知りようがありませんし、魔王のスキルについても、情報が少なすぎてキリがありませんからね。〖人化の術〗と〖猫又〗を持っているのは間違いないでしょうが、逆に言えばそれくらいのことしかわかりません」
〖猫又〗は、マンティコアの持っていた〖人化の術〗のアホみたいなMP浪費を妨げることのできる特性スキルだ。
因みにナイトメアも持っている。
王女に化けているのは〖人化の術〗だろうし、ずっと〖人化の術〗をキープできるのならば〖猫又〗持ちかウロボロス以上のMP持ち以外あり得ない。
しかし、〖猫又〗の事も知っているのか、この人。
やはりレベルMAXでスキルも研ぎ澄ませている、ステータスガチ勢の聖女様は見識が広い。
「二つ目は……魔王の頭がいくらよかったとしても、王女と成り代わることに成功していること自体に、違和感があります。もしかしたら、魔王と手を組んで、魔王が城を牛耳るのを内側からサポートしている者がいるのかもしれません」
……魔王以外にも、城に敵が眠ってるかもしれねぇってことか。
もしもあっさりと魔王を倒すことができたとしても、油断はできねぇな。
……しかし不確定要素が多い以上、魔王がAランクでそこまでレベルは高くないのではないかという考えは、希望的観測に過ぎないな。
「魔王討伐の際には、私もアーデジア王国の王都に向かいます。手に負えないと判断したときには、どうにか魔王を外へと引き摺り出していただけると幸いです。魔王に魔物の姿を晒させることに成功すれば、私も国家間のしがらみを無視した行為が取れます」
俺が討ち漏らして逃がすか、逆に戦力不足で撤退して追い掛け回されたときには、聖女が魔王を『なぜか城から出て来た化け物』として叩けるということか。
それで、リリクシーラさんがアーデジア王国へと顔を出せるのはいつ頃になるんだ?
「放っておけば犠牲が増え、そしてそれだけ魔王のレベルが上がります。今日すぐにでも叩きたいところですが……私が国境を跨ぐとなると、それだけで少々厄介でしてね。下手なことをして魔王を警戒させてしまうわけにもいきません。セラピムには死ぬ気で飛んでもらうとして……明後日、いえ、三日後には間違いなく王都についているはずです」
セラピムがやや不満げに目を細める。
もっとも、そのセラピムの背に乗っているリリクシーラには、セラピムの顔が見えるはずもなかった。
しかし……三日か。
俺が本気で飛べば、アーデジア王国までは一日と掛からない。
一日目は移動、三日目が討伐としても、間の二日目が完全にフリーである。
余裕があれば、王都で〖人化の術〗を使って情報収集を行ってみるか。
魔王について、何か噂が聞けるかもしれねぇ。
魔王討伐に掛かるよりも先に、聖女の言葉を裏付けられる情報を押さえておきたい。
俺が今代の魔王について知っていることは、聖女の口から聞かされた分だけである。
もしかしたら、聖女が何らかの意図で俺を嵌めるために魔王をでっち上げていただけだった、というのも考えられない話ではない。
俺があれこれと考えていると、聖女がじぃっと俺の方を見ていた。
おっと、まずい言葉を拾われたかもしれねぇ。
おっといけない、玉兎玉兎……。
俺の思考が、玉兎を積み上げて作った玉兎の塔の事でいっぱいになる。
そんなこんなで長時間の飛行を終えた後、ついに遠くに陸地が見え始めて来た。
アダムの住んでいない、真っ当な地である、
リリクシーラの口にしていた、リーアルム聖国らしい。
リリクシーラがセラピムを滞空させる。
俺もセラピムを前方から回り込んで滞空し、顔を突き合わせる。
リリクシーラからアーデジア王国、そしてその王都までの道のりを記した地図をアロが受け取り、リリクシーラと別れることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます