第301話

「ハ、ハンニバル大部隊長! このドラゴン、想定していた奴と次元が違います! 一度撤退しましょう!」


 今さっき俺が足許に転がしたバレス部隊長の部下が、隻眼の男へと唾を飛ばしながら叫ぶ。


「お前らは……バレスの部隊か。部隊長のビビリ癖が移ったらしいな! 久々に我も、全力が出せそうというものよ! しかと目に焼き付けておくがいい!」


 隻眼の男は言葉を返す……というよりも、全体に演説するかのように言った。

 どうやらあの隻眼の男が、この場にいる八十人のボスらしい。


 パッと見た限り……八人前後で、一つの小さな隊を作っているように見える。

 バレス部隊長も七人の部下を連れていた。

 恐らく、一つの部隊が八人なのだろう。

 そんで大部隊長が十の部隊を纏めてんのか。


 俺は念のため、ハンニバル大部隊長のステータスを確認しておくことにした。

 とりあえずこいつらのトップクラスがどの程度のものなのかを把握しておきたい。


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〖ハンニバル・グレイザース〗

種族:アース・ヒューマ

状態:通常

Lv :39/60

HP :262/262

MP :72/72

攻撃力:241+60

防御力:184+55

魔法力:65

素早さ:143


装備:

手:〖ミスリルの大槍:B〗

体:〖ミスリルの胸当て:B〗


特性スキル:

〖グリシャ言語:Lv6〗〖槍使いの才:Lv6〗〖忍び足:Lv5〗

〖闘争本能:Lv4〗〖士気伝染:Lv2〗


耐性スキル:

〖物理耐性:Lv3〗〖魔法耐性:Lv2〗

〖毒耐性:Lv4〗〖麻痺耐性:Lv3〗


通常スキル:

〖衝撃波:Lv3〗〖不意打ち:Lv5〗〖パワー:Lv2〗

〖ポイズン:Lv6〗〖大跳躍:Lv3〗


称号スキル:

〖元グレイ山賊団長:Lv--〗〖飢えた狩人の大部隊長:Lv--〗

〖槍王:Lv4〗

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 ……武器が多少高級品になった、劣化アドフってとこか。

 やっぱし、アドフが通常の人間の限界ラインなのだろう。

 このくらいなら問題はねぇな。

 気に掛かるのは、全体での連携くらいか。


 全員を相手にすんのは時間が掛かる。

 ハンニバル大部隊長を潰してから脅しを掛けて、さっさとこの場は終わらせるか。


「近接の偶数部隊は、徹底してドラゴンを囲め! 前方に立つ部隊は牽制に務めよ! 奇数部隊は魔撃部隊の守護に当たれ! 我ら七十一番隊は、双方を熟しながら隙を窺い、決定打を与える!」


「はっ!」「承知!」「派手にぶちまけてやるぞぉ!」


 ハンニバル大部隊長の命令と共に一斉に動いた。

 俺の周囲を、騎兵が取り囲み始める。


「グゥゥ……」


 俺は大きく首を曲げて視線を自分の真下へと向け、それから近くにいるリトヴェアル族へと呼びかける。

 これで伝わりゃいいんだが……。


「りゅ、竜神様……?」

「お、恐らく、下に入れと仰っているのだ!」


 バロンが上手く解釈してくれた。

 俺はこくこくと頷く。


「馬鹿め、固まりやがって! 野郎どもぉ! 纏めて火炙りにしてやれェッ! ヒヒハァッ!」


 やや後方にいる騎兵の男が周囲に呼びかけるように大声で叫び、続けて俺へと金属製の杖を向けた。


「〖火精強化〗! おらっ、続け続けェッ!」


 俺の周囲を、赤い光が漂い始める。


「〖スプレッドファイア〗!」

「〖フレイム〗!」「〖グリムバーナー〗!」


 後方の騎兵達が、続々と杖を大きく掲げる。

 その延長線上に赤い光が生じ、先端から様々な形状の炎が飛んでくる。

 一つは炎弾、一つは火炎放射……と、形態がやや異なるものの、俺ごとリトヴェアル族を焼き殺そうとしているのははっきりとわかる。


 俺は首を大きく持ち上げて、腹の底にありったけの魔力を込める。

 それから顔を前へと勢いよく降ろしながら、一気に魔力を吐き出した。

 〖灼熱の息〗のスキルである。


 俺の口から出た炎の息吹は、たちまちに反対側から来た小さな炎を呑み込んでいく。

 そのまま俺はぐるりと首を一周させた。


「ぐわぁぁっ!」「なんだ、何が起きた! 誤射か!」

「立て直せ! 部隊長を見失ったものは一度離れろ!」


 炎の息吹が俺の周囲を焼き払った。

 身体の燃えた馬が、悲鳴を上げながら騎兵を振り下ろしてその場から逃げようとする。

 転げ落ちた者は、身体から炎を上げながらのた打ち回る。

 一瞬にして、辺り一帯は阿鼻叫喚に包まれた。


 せいぜい人間(ヒューマ)の魔法力は、高くても200半ば程度だろう。

 それに引き換え、ウロボロスである俺の魔法力は1000の大台に乗ったところである。

 防御力も500以上ある。

 ヒューマの魔法攻撃程度、どうということはない。


【経験値を1203得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を1203得ました。】

【〖ウロボロス〗のLvが87から88へと上がりました。】

【称号スキル〖災害〗のLvが7から8へと上がりました。】


 一息でこんだけ……か。

 経験値効率いいんだな。だからって、進んでやる気にゃなれねぇが。

 この調子だと、全部片付く頃には悪系称号スキル全部カンストしちまいそうだな。


「ヒ、ヒヒ……こ、こんな……こんなはずじゃ……」


 先ほど火魔法を使うよう呼び掛けていた男が、呆然とした様子で立っていた。

 他の騎兵が逃げ惑う中、一人つっ立っている。

 逃げる騎兵に馬が倒され、男は地面に飛ばされて杖を手放した。


「ハウン部隊長! 一度離れましょう!」


 一人の騎兵が駆け寄り、手を差し伸べる。


 ……あの男も、部隊長か。

 早めに全体を崩すためにも、優先して首を取らせてもらうとしよう。


「グゥオオオッ!」


 俺は足許のリトヴェアル族へ配慮しながら前へと出て、邪魔な騎兵を前足で蹴散らす。

 俺の一撃で剣はへし折れ、身体が潰れていく。


 尾を周囲へ走らせて土ごとひっくり返して地面を崩し、馬の足場を失くすと同時に燃え残っていた炎を強引に消火した。

 同時に翼を羽ばたかせ、計六発の〖鎌鼬〗をハウン部隊長含むあちこちへと発射する。


 風の刃が地面に大きな罅を入れ、その反動で爆風が巻き起こった。

 巻き込まれた馬が倒れ、乗っていた騎兵が地に投げ出され、這う這うの体で俺から離れていく。

 悲鳴と、馬の振り絞るような嘶きが響き渡る。


【経験値を588得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を588得ました。】


 砂煙が風に吹かれて晴れていく。

 六発の〖鎌鼬〗が被弾した個所は地面ごと爆ぜ、跡には窪みと血、肉片だけが残っていた。

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