第118話

 俺は滞空しながら、翼で〖鎌鼬〗を撃つ。

 空気の刃が針ラクダの体表を確実に削いでいく。


 抉れた体表の中から、あのサボテンと同じく粘性の強い液体が垂れ、甘い匂いが漂ってくる。

 戦闘中にも関わらず、俺は思わず舌なめずりをした。


 針ラクダは身を縮めて防御に徹しながら、目の位置にぽっかり開いている虚空で俺を睨む。

 悪いな、針ラクダ。

 だけどわざわざ近づいてやる道理もないもんでな。

 遠くから確実にHPを削らせてもらうぞ。


 針ラクダはこのままでは消耗するだけだとわかったのか、防御態勢を解いて立ち上がる。

 それに合わせるように、針ラクダを中心に周囲の砂が巻き上がる。


 〖砂嵐〗のスキルか。

 にしても、そこまで激しくねぇな。

 これくらいなら何とか相手を探せる。

 ただ視界が悪くなると、〖蜃気楼〗を看破し辛そうなのがなぁ……。


 MPもったいねぇけど、定期的に〖ステータス閲覧〗を使うしかねぇか。

 ちっと反則臭いが、蜃気楼の幻影に〖ステータス閲覧〗が通らないことはわかっているため、逆にそれを利用して本物かどうかの判断ができる。


 滞空しながらの〖鎌鼬〗乱射は翼への負担が結構デカい。

 いうまでもなく、どっちも翼を酷使しているからだ。

 そろそろ降りた方がいい。


 針ラクダが本体かどうかを〖ステータス閲覧〗で確かめ、俺は高度を落とす。

 その瞬間、真下から妙な音が聞こえてきた。

 俺は嫌な予感を覚え、咄嗟に軌道を捻じ曲げながら落下する。


 先の尖った砂の柱が、俺の真横を貫いて真っ直ぐに伸びる。

 その直後、砂の柱は自壊して崩れ、砂嵐を一層と濃くした。


 無理に軌道を捻じ曲げたため、体勢を崩したまま落下することになる。

 俺は〖転がる〗で無理矢理身体の向きを整え、尻尾を地面に叩き付け、衝撃を殺してから着地する。

 そのまま地を蹴っ飛ばし、後方に飛んで針ラクダから距離を取る。


 あっぶねぇ。

 砂を操って固めたのか。


 今のは〖クレイ〗のスキルだろう。

 確かクレイベアが同じスキルを持ってやがったな。

 つっても、あの針ラクダの方が遥かに規模がデカいが。


 ……あの針ラクダの奴、〖クレイ〗で作った砂の柱を〖蜃気楼〗で隠し、〖砂嵐〗でその補助までしてやがったな。

 〖砂嵐〗で妨害されてんのは視界だけじゃなくて聴覚もだかんな。

 直前まで砂の柱が迫ってくる音に気付けなかった。


 やっぱ魔力高いと危険だわ。

 割と俺魔力軽視してたんだけど、今まで魔法タイプと対立してなかっただけか。

 思い返せばあの森、黒蜥蜴以外は脳筋タイプしかいなかったような気がするぞ。


 下手に近づくのも嫌だし、遠くからまた〖鎌鼬〗で削らさせてもらうか。

 あの針だらけの皮をぶん殴るのはちょっと嫌だ。

 勢いも絶対弱まっちまうし、大した打点にならない。

 HPは順当に減らせている。このままいけば狩れるはずだ。


 翼を羽ばたかせようとすると、何かが風を切って飛んでくる音が聞こえる。

 俺は羽ばたかせようとした翼でそのままガードする。

 翼にザックリと三本の針が突き刺さった。


 また〖蜃気楼〗で隠しながら飛ばして来やがったな。

 こんな細いの見極めらんねぇよ。

 向こうも狩られまいと必死か。


 遠距離回避は、この砂嵐の中で何とか音を拾うしかねぇな。

 視覚は当てにならね……おわっと!


 俺の首へと目掛けて飛んできた針を、身体を捻じって回避する。

 針がブレて瞬間移動し、俺の胸元に突き刺さった。


 いってぇ!

 もう視覚は信じねぇって決めてたのに! 見えたらそら反射で避けちまうよチクショウが!


 もうこうなればと、俺は瞼を閉じる。

 見えたら惑わされる。見えないだけならまだしも、別の場所に見えるのは危険だ。

 音だけを頼りにした方がいいか。


 ただこうしちまうと、今度は狙いがつけられねぇんだよな。

 針の飛んでくる先っつうことはわかるんだけど、目閉じたままだと自分がどういうふうに動いてんのかが不安っつうか。


 針を回避し、隙を突いて〖鎌鼬〗をお返しする。

 駄目だ。どうしても攻撃頻度が落ちちまう。

 アイツ〖HP自動回復〗持ってるから、このままだとズルズル長引いちまうんだよな。


 こうなりゃ針覚悟で、接近戦で一気に決めるか?

 相手の攻撃力は低いし、殴り合いに持ち込めればどうとでもなる。

 幻影で隠しながら針飛ばされること考えてたら、離れてた方が不利だ。


 俺は飛んでくる針を〖鎌鼬〗と翼で防ぎつつ、本体への距離を詰める。

 視覚を誤魔化されても、こんだけ針飛ばしてきてるんだから本体を探すのは容易だ。


 激しくなる砂嵐の中、目前に針ラクダの姿が見える。

 俺は思いっ切り〖鎌鼬〗を放ち、目前の砂を取り払いながら攻撃を仕掛ける。

 そのまま風の刃を追うように、地面を蹴って翼を広げ、低空飛行しながら相手へと飛び掛かる。


 俺の身体が、針ラクダと正面から衝突する。

 その瞬間、針ラクダの姿がぐらりと揺らぐ。

 俺は戸惑うことなくそのまま針ラクダをすり抜け、真っ直ぐに飛ぶ。

 思った通り、目に見えていたのは針ラクダの蜃気楼だった。


 方向を誤魔化せないのなら、奥行きを誤魔化す。

 それくらいの知恵は針ラクダにもあったらしいが、こちとら元人間なもんでな。

 〖ステータス閲覧〗で幻影か否かのチェックだってできるんだから。

 獣との知恵比べにゃ負けねぇぞ。いや、植物か。どっちでもいいか。


 俺のすぐ後ろを、土の塊の塔が貫く。

 針ラクダの幻影の前で止まったところを〖クレイ〗でブッ飛ばすつもりだったらしい。

 そんな何度も引っ掛かるかよ!


 進路へ〖鎌鼬〗を放つ。

 風の刃は砂嵐を蹴散らし、ノイズが薄くなった〖気配感知〗が隠れている針ラクダの居場所を教えてくれた。

 ステータスを見る。

 非表示にならず、確認ができる。間違いなく本体だ。


 俺は飛びかかりながら、針ラクダの頭部へと〖鎌鼬〗を放つ。

 右頭部を守っていた針が辺りに飛び散る。


 俺は空中で腕を伸ばし、針ラクダの右頭部に手を当てて鉤爪を喰い込ませてがっちりと掴み、大きく側転することで頭を捻じ飛ばす。


【通常スキル〖首折舞〗のLvが2から3へと上がりました。】


 針ラクダの頭が弾け飛び、中身の液体が飛び散った。

 着地して振り返ったのと同時に、針ラクダの巨体が大きな音を立てながら倒れる。


【経験値を504得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を504得ました。】


 結構入ったな。

 やっぱ、Lv高い敵は狙い目だな。大ムカデとはもう会いたくないが。


【〖厄病竜〗のLvが22から29へと上がりました。】


 うしうし、いい感じだ。

 さて、針ラクダの中身を回収しますかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る