第117話
サボテンがむくりと動き、そこから頭が伸びる。
俺は急ブレーキを掛け、〖転がる〗を即座に解除する。
こいつ、ただのサボテンじゃねぇぞ。
歪で肥えた身体をした、針だらけの緑の塊。
それはサボテンであったが、輪郭だけでいえば、ラクダだった。
サボテンかラクダ来いと思ってたら、サボテンのラクダが来ちまったよ。
しかもただのラクダじゃねぇ。
全長4メートルの超巨大ラクダだ。
目の部位には小さな穴が開いているだけだが、口はデカイ。
サボテンラクダが口を開けると、粘り気のある薄緑の液体が糸を引いていた。
うげ、気持ちわりぃ……。
なんだよコイツ。
ステータスよりも先に、まず何者なのかをチェックしたい。
【〖カクトゥス・トゥルフィリオス〗:C-ランクモンスター】
【500年生きた〖カクトゥス・トゥルプーパ〗は強大な魔力を得て、やがては自我を確立する。】
【トゥルフィリオスは、茨童子の意。】
【自らの体重を支えて動くため4つの脚を持ち、水を際限なく吸収する性質のため背にはいくつものコブがある。その姿はラクダに似ている。】
【魔力によって体表が強化されており、針が硬い。】
【ただの植物の振りをして、近づいてきたモンスターを魔法で弱らせてから喰らう。】
あのサボテンの進化系かよ。
Cランクって……あんな外見でもリトルロックドラゴン相当ってことか。
舐めて掛かっていい相手じゃなさそうだな。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
種族:カクトゥス・トゥルフィリオス
状態:普通
Lv :46/50
HP :308/308
MP :185/185
攻撃力:120
防御力:198
魔法力:210
素早さ:56
ランク:C-
特性スキル:
〖土属性:Lv--〗〖光合成:Lv--〗〖貯水:Lv6〗
〖針の鎧:Lv5〗〖HP自動回復:Lv3〗〖MP自動回復:Lv3〗
耐性スキル:
〖干ばつ耐性:Lv4〗〖熱耐性:Lv5〗
〖物理耐性:Lv3〗〖魔法耐性:Lv4〗
通常スキル:
〖蜃気楼:Lv4〗〖消化液:Lv3〗〖クレイ:Lv5〗
〖ウィーク:Lv3〗〖アイアンメイデン:Lv6〗〖噛みつく:Lv2〗
〖針千本:Lv2〗〖サンドブレス:Lv1〗〖砂嵐:Lv3〗
称号スキル:
〖植物神の子:Lv--〗〖長生き:lv2〗
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
Lv高っ!?
経験値稼ぎにゃ良さそうだけど、ホントに舐めて掛かっていい相手じゃねぇな。
HPMP、魔法力なら俺より上じゃねぇか。
敬遠したい相手だけど、コイツ逃したら次にいつ水分の豊富な獲物と出会えるかわからねぇからな……。
あんまし玉兎とニーナを放置しとくわけにもいかんし。
ま、いけるだろ。
攻撃力は低いし、動きも鈍そうだ。
戦闘は攻撃力と素早さが大事。今までの経験からしっかり学んだからな俺は。
防御が高くたって相手に攻撃が当たんなきゃ消耗する一方だし、魔法だって所詮は補助であって、メインは殴り合いになりがちだし。
よっしゃ、久々にがっつりLv上げさせてもらうか。
俺は間合いを取った状態から針ラクダを睨み、向こうの出方を窺う。
針ラクダは4つの脚で立ち上がり、穴の開いているだけの目を俺に向ける。
向こうさんも固まり、ピクリとも動かない。
あっちはあっちで俺がどう動くかを見たいらしいな。
譲り合ってんのもアホみたいだし、だったらこっちから仕掛けさせてもらうとしますか。
遠距離から仕掛けたいところだが、〖灼熱の息〗使ったらせっかくの水分が台無しになっちまいそうだな。
となれば、アレしかねぇか。長らく使ってなかったが。
俺は魔力を両翼に集め、羽ばたくことでを前方へと打ち出す。
風の刃で敵を切り裂く、〖鎌鼬〗のスキルだ。
魔力を帯びた風が、針ラクダへと襲いかかっていく。
だいたい一発目は無傷だが、同じところ二発目が当たれば傷がつき、三発当たれば針が折れた。そして四発目が当たれば、針ラクダの体表を削り取る。
【通常スキル〖鎌鼬〗のLvが1から2に上がりました。】
お、スキルLv上がった。
一層切れ味を増した風の刃の嵐が、針ラクダへと降り注ぐ。
針ラクダはその場に蹲り、頭を守る。
だがそれでも俺は翼を止めない。どころかむしろ勢いを強め、間隔を詰め、着実と針ラクダの体表を削り飛ばしていく。
いけいけ、乱打だ乱打。
もう魔力全部つぎ込んじゃうくらいの気持ちで行っちゃうぞ
このまま押しきれちまうんじゃねぇのか?
前に使ったのがリトルロックドラゴン戦で、あのときは相手にそこまでダメージ通んなかったから過小評価してたが、〖鎌鼬〗結構強いじゃねぇか。
あの針ラクダの足じゃあ俺に近づけねぇし、逃げ回りながら〖鎌鼬〗撃ち続けたら俺勝っちゃうんじゃねコレ。
MPを半分ほどぶつけてやったところで、ピクリとも動かなくなかった。
俺は一旦〖鎌鼬〗の乱射を止め、針ラクダへと目をやる。
さて、ステータス確認させてもらいますかな。
【対象が捉えられません。】
おん?
メッセージの意味を考えると、ふと豹を追い掛けていたときのことを思い出す。
あのとき一度、俺は豹に幻覚を見せられて岩に衝突することになった。
確か通常スキル〖蜃気楼〗のせいだったはずだ。
あの針ラクダも、〖蜃気楼〗持ってやがったな。
すぅーっと蹲る針ラクダの姿がブレて消え、砂の上に俺が〖鎌鼬〗で削ったサボテンの欠片だけが残っていた。
どうやら俺がスキルを乱打している最中、〖蜃気楼〗でこっそり風地獄の中から抜けだしていたらしい。
サボテンの欠片の数から察するに、後半はまるまる無駄打ちだったようだ。
俺が気付いたのを見て、針ラクダが何か仕掛けてくる可能性が高い。
どこだ、どこから来る? いや、考えている時間はねぇ、どこから来てもいいように動くまでだ。
俺は地を蹴り、宙に跳び上がる。
俺の膝裏付近に、ぶっとい針が突き刺さった。
一本避けそこなったか、判断が遅れたな。
つーかあの針、飛ばせんのかよ。
どうやら針ラクダは俺に幻覚を見せ、その間に斜め後ろに回り込んで針を撃ち込むタイミングを計っていたらしい。
俺は痛みに堪えつつも翼を使い、宙に滞空する。
足が痛い。あのステータスの割には、結構威力あるぞ。
そこまでダメージがあるってわけではないが、決して無視していい程度ではない。
鱗の薄い部位とはいえ、俺の体表を貫通しやがった。
あのスライムみてぇに鱗貫くための特別な性能でも持ってんのか。
そう簡単にはいかねぇか。
つっても、もう〖蜃気楼〗にゃ引っ掛かんねぇぞ。
あの幻覚、厄介ではあるが、結構粗がある。気を張ってりゃ妙だってすぐに気付けるはずだ。
一気にブッ倒して食糧にしてやんよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます