第29話

 無事拠点としている洞穴まで帰還し、俺は奥に肉の入った壺甲羅を置いて外に出る。

 HPがちょっと不安だが、俺にはまだやるべきことがある。


 あの赤い豆らしきものと、他に亀鍋に入れられそうな具材が欲しいのだ。


 これなら洞穴周辺で見つかるだろうし、今のHPでもさして危険はない。

 しいていうのなら、あの変なスライムと会うかもしれねぇってことくらいだ。

 初見はちっとビビったが、アイツもステータスは低いからな。

 次見たらサクッと倒して憂いを取り払ってしまおう。



 しっかし、オオツボガメを倒したときは気が動転しててあんまし注意してなかったけど、〖ステータス閲覧:Lv5〗って普通にすげぇんじゃね?

 アイテムとモンスターに関する詳細情報を閲覧することができるようになったらしいけど、これのお蔭で植物採取がメッチャ捗りそうじゃん。

 毒の有無もわかるしな。

 毒あっても、美味そうだったら喰うけど。耐性あるから多少は大丈夫だろ。 



 地面に注意しながら歩いていると、木の根にキノコが生えていることに気が付いた。

 黄色と黒の虎模様だった。

 お、これ美味そうじゃん。

 早速千切って手に取ってみる。


【〖カミナリダケ:価値E-〗】

【木の栄養を根こそぎ奪い取るため、寄生された木には実がならなくなるという。】

【他から奪い取る分、自身の栄養素は豊富で味も美味。ただし、軽い〖麻痺毒〗を持っている。】

【他所からは奪うが、自分の身には保険を掛ける。なかなか姑息なキノコ。】


 そんなこと言ってやるなよ。生きる知恵だろ生きる知恵。

 ちょっとくらいずる賢いことしなきゃ、世の中喰いもんにされるだけなんだよ。

 ……なんで俺はキノコを庇ってるんだ?


 しかし麻痺には俺、耐性ないからなぁ。

 残念だが、これは諦めるか。でも……美味なんだよな。

 一応持っていくか。麻痺毒は軽いものらしいし、多分大丈夫だろ。

 むしろ耐性がついていいかもしれん。



 大きな向日葵のような花があった。根の方が異常に膨らんでいる。

 ちょっと気になったので鑑定しようと近づくと、膨らんだ部分が裂け、大きな口を開けて俺を喰らおうとしてきた。

 咄嗟にぶん殴って仕留める。


【経験値を12得ました。】

【称号スキル〖歩く卵:Lv--〗により、更に経験値を12得ました。】


 食肉植物なんかあんのかよ……。

 喰えるもんじゃなさそうだけど、一応調べてみるか。


【ヒトクイバナ:価値C-】

【動物を喰らう珍しい植物。】

【ただ塩分は消化できないため、根の先の白化した部分に溜まっている。】

【そのため根を灰にし、塩として用いられることもある。そのため、土地によっては貴重がられていることも少なくない。】


 ほーん。

 そういや前世でも、葉に塩送り込んで風で流して捨てる木があるって聞いたことあんな。

 いいじゃん。塩ないと困りそうだし、根のところだけもらっていくとすっか。


 掘り返すと、確かに根の先が白く膨れ上がっている。

 結構量あるな。塩は欲しいから助かるが。

 見つけたら積極的に狩ることにしよう。



 さてと次は……と。

 お、紫の傘を持つデケェキノコがあるぞ。

 地面から引っこ抜き、〖ステータス閲覧〗で鑑定する。


【〖バケモノダケ:価値D〗】

【成長すると自分で動けるようになり、人を襲うモンスターとなる。】

【肉に似た味がし、珍味扱いされている。】


 いいじゃんいいじゃん。

 これも持って帰ろう。いいダシが出そうだ。



 お、またキノコだ。

 白くて小さく、どこか幻想的で可愛らしい。


【〖モロ・トロジア〗:価値A】

【栽培に成功すれば財政の傾いた国が立ち直るといわれているほど価値のあるキノコ。】

【〖アル・トロジア〗という毒キノコに酷似しており、またそちらの方が遥かに数が多いため、気付かない人も多い。】

【幻覚作用があり、強烈な多幸感を生じさせる。】

【500年前、潰して興奮剤と混ぜ、麻薬として売られていたことがある。】

【以来、見つけ次第焼き払うことが公的なルールとなっているが、今でも狂信者や狂戦士の育成、拷問まで幅広い用途で使われている。】

【ひとつを薄めれば多くの麻薬を作ることができるため、欲するものに売れば莫大な額で売れる。が、一歩間違えればその場で首を撥ねられることだろう。】


 ……地面に叩き付け、〖ベビーブレス〗で灰になるまで熱しておいた。


【称号スキル〖ちっぽけな勇者〗のLvが1から2へと上がりました。】


 上がったのは嬉しいけど、こんなんでいいのか?

 いや、これ放置したり欲が出て持ってってたりしてたら、村ひとつ消し飛ぶレベルの騒ぎに繋がりかねなかったな。

 むしろこのキノコを過小評価していたと考えよう。

 俺は未然に災厄を灰に帰したのだ。


 危ねぇ危ねぇ、とんでもねぇもん喰うところだった。

 耐性つくとかそんな次元じゃない。あれ喰ったら廃人になってたわ。

 もうキノコはいいか。結構採ったしな。


 確か……もうちっと歩いたところにあれが……ああ、あったあった。

 俺が胡椒代わりにしている赤い房の豆っぽいものだ。

 これは重宝するので、かなり多目に取っておく。

 ついでにちょっと調べとくか。


【〖ピペリス:価値B+〗】

【食欲を増進させる独特の香りを持ち、かつて最も人気のある香辛料とされていた。】

【しかし栽培が難しく、また根が万病に効く薬になるという風説が流されたため、今では辺境の地にわずかしか残っていない。】

【それもいずれなくなり、絶滅してしまうことであろう。】

【舌の肥えた金持ちの貴族からの需要が高く、同じ重さの金と同じ価値があるとまでいわれている。】


 ほぇ~これ、結構いい奴なのか。

 それにしてはあんまし村人とかも取りに来ねぇんだな。

 ここに来るまでにモンスターが多いからか?

 ひょっとしてここにあることに気付いてねぇのかな。

 まぁいいさ、ガッツリ採っておくか。

 ある日来たら全部根ごと引っこ抜かれてましたとかあり得るわけだし。



 他にも魔力が溜まっているらしい甘い木の根とか、いい匂いのする葉っぱとか、内部に溜まっている胞子の塊が珍味のキノコとか、めっちゃ光ってるキノコとか、白菜に似た野菜とかを採取した。

 やっぱ大事だよな白菜。鍋には白菜だろ。


 あと、途中で襲ってきたグレーウルフの群れを返り討ちにした。

 手がいっぱいいっぱいで使えなかったので、足で。

 俺も強くなったものだ。

 一旦洞窟に戻って採取したものを置いてから、グレーウルフの肉を取りに戻った。


 うむ、今日の収穫はなかなかだ。


 罅の入った壺甲羅、ツボガメの肉10体分、カミナリダケ、ヒトクイ花の根、バケモノダケ、ピペリス、魔法樹の根、アロマリーフ、ヒカリダケ、グリンボール、グレーウルフの肉と毛皮5体分。

 しっかしツボガメは今日食べるとして、グレーウルフの大量の肉どうしよ。干し肉にでもしてみっか。

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