第13話:検証中1

 そう考えると、なんで俺って一度で出来たんだろうと考えてしまいそうになるが……その思考に陥ることは検証に支障が出そうなので、放棄することにしよう。


 二回目は〖声に出さず転移する。対象は自分〗──先ほどのように、今度はベッドからソファへ戻るイメージ。しかし先ほどと違うのは声に出して転移しないこと。


結果は成功。


 先ほどよりは軽く、欠損部位がないか確認するが何も問題は無かった。


 三回目は〖目を閉じて声に出して転移する。対象は自分〗──目を開けていた先ほどまでとは違い目を閉じて転移。


結果は成功。


 少し怖かったが、これで成功するのならば次も問題はないだろう……。


 四回目は〖目を閉じて声に出さず転移する。対象は自分〗──先ほどとは違い目を閉じ更に声にも出さず転移。


結果は成功。


まあここまでは序の口だな。


 部屋の中で対象を自分のみにして転移することには、転移と発声しても無言でもステータスを見る時と同じで発動した。


 次は──目につく物で次にしたい検証で使えそうな物がない。壊してしまったら転移では直すのは無理だしな……。


 こうなるとどうしようもない。ロイルさんにお願いしよう。早速ロイルさんを探しに──いや、城の中を歩いてもし万が一クラスメイト達にエンカウントすることは避けたい。


俺がうーん、と悩んでいると女神さまのへぇ〜と感心したような声。


《私が思っていたよりシズヤって想像力あるみたいね》


《……侮りすぎでは?》

少し不満です。


ふふっ ごめんね。と女神さまが微笑むように言うので許します。


《無言でイメージを固めるには、それだけ想像力が必要なのよ。もう今、試せることは無いの?》


《はい、小物がない部屋なので。物の転移を試したいのですが、下手にソファとかテーブルを転移させて壊しても直せません。ロイルさんに何か、対象を用意してもらうしかなんですが……ロイルさんとの連絡手段を失念していました。》

要は手詰まりです。


《私が呼べればいいんだろうけど、シズヤの側は離れられないし……そもそも私の声をシズヤ以外の子は聞けないし、どうする?》


 そういや女神さまって姿は見えず声だけだが、思念体か何かなのだろうか?


《思念体……そういう認識でも構わないけど、この場にいるわけじゃないから少し違うわ。一方的なビデオ通話が近いかしら?》


 こちらからは声しか聞こえないけど、女神さまからは見えているし声も届けられる……確かに一方的なビデオ通話っぽい。


あ、今ので一つ思い付いてしまった。


「あー、ロイルさんに用があるのに連絡手段が無いなー。どうしようかなー? 本人かメイドさんでもタイミング良く様子見に来てくれたりしないかなー」 


分かってはいたが、俺に俳優の才能は無いようだ。


《シズヤ……?》

女神さまの戸惑うような声。


 二人で話すなら声に出さなくてもいいのに、いきなり声に出して更に棒読みなものだから、女神さまは困惑しているようだ。


そりゃそうなりますよね。でも奇行じゃないですよ?


壁に耳あり障子に目あり、です。


《誰かに見られて……監視されている、ということ?》


《確かではありませんが、先ほど副委員長と委員長に仕掛けた布石への対応が早過ぎたので、あり得なくはないかと。》


 それに俺、一応勇者ですし。聞かれても簡単に教えると思われていないのか、俺の適正魔法は聞かれていなければ、わざわざ言ってもいない。そうなると探る他ない。


《なるほどね。》


《それに、俺が逆の立場でもそうします。新たな勇者がどんな適正魔法を持っているのか探り、把握することは大事です。まあ、約束なので部屋の中にはいないと思いますが……覗き穴もしくは、見たり盗み聞くような、監視カメラみたいな魔道具があってもおかしくないです。》


《ないと思って油断しているより、あると思って警戒しておいた方がいいってことね。》


《そうです。》



 そして俺の棒読みから五分ほど経った頃、部屋の扉がノックされる。どうしたのか。一つしかない。


やっぱりか……。疑念が確信に変わった。


《ホントに来た!》

驚く女神さま。


「はい。どちらさまですか?」


扉を開ける前に、一応尋たずねる警戒心を忘れない。


「おくつろぎのところ申し訳ありません。ロイル様より連絡用の魔道具を渡し忘れたので、持っていくよう仰せつかりました。」


「そうですか。分かりました」

返事をしながら扉を開ける。


目の前には食堂に案内してくれたメイドさんがいた。


「こちら〖コールキューブ〗という魔道具になります。」


俺にキューブ状の物を手渡すと一礼して離れ行く。


メイドさんの姿が見えなくなるまで見送ってから扉を閉める。


 ルービックキューブより一回り小さく、下手すると失くしてしまいそうなキューブ状の物。


「これが連絡用の魔道具……」


 起動するためのボタンのようなものは見当たらない。青と緑の間みたいな色した表面は発光しそうだが、おそらくそれは起動中に起こるものだろう。


《コレで連絡が取れるの?》


《らしいですよ。》


 あ、使い方を聞くのを忘れた。……いや、意図的に質問の時間をなくされた? 手渡して直ぐに離れて行ったもんな……。


 これは試されていたりする……のか? 俺の知能というか考える力、みたいなものを探られている気配。


 まずはキューブをよく観察してみる。よく見てもボタンのようなものは見当たらない。こういう場合は音声認識だろうか? しかしそれだと……いや、俺が連絡を取る必要があるのは、今のところロイルさんくらいだ。


 そうなるとこのキューブはロイルさん直通とみていいだろう。そして、先ほどメイドさんはこれを、コールキューブと言った。ならば──


──「コール」


俺の声に反応して青っぽく発光するキューブ。そして──


『お待ちしておりました』


──ロイルさんの声が聞こえてきた。


「よかったです。使い方、合ってたみたいですね」


少しの沈黙。


『試すようなことをして申し訳ありませんでした。』

少し声が固いロイルさん。


「いえ、俺がどういった人間なのかを把握することは大事だと分かっていますから。」


なんでもないような声を出す俺。


『……恐れ入ります。』


「それで、俺が考えている通りだとこれは、ロイルさん直通だと思うのですが、合っていますか?」


『さようでございます。このコールキューブは、私にしか通じません。』


「ならいいです。それでは連絡した本題なのですが、用意してもらいたい物が二つほどあります。」


『それは……もうご存知と思いますので単刀直入に言いますが、適正魔法のためですか?』


「そうです。」


 俺の予想は完全に的中していた。これで少しでも、頭が回る奴だと思ってくれたら重畳だ。


『畏まりました。何をご所望でしょうか?』


「〖鉄のインゴット〗と〖取っ手付きの花瓶〗をお願いしたいです。用意は可能ですか?」


『可能でございます。直ぐに持って行かせますので少々お待ち下さい。』


「分かりました。お願いします」


『〖コールオフ〗』

というロイルさんの声と共にフォンと音がして発光が消えた。これで通話終了ってところかな。


切る時はコールオフ、覚えておこう。


 そしてまた五分ほど経った頃に扉がノックされ、先ほどと同じメイドさんが、鉄のインゴットと取っ手付きの花瓶が乗った台を持ってきてくれた。


受け取って礼を言い扉を閉める。


検証再開。


《次は物を使うのね。でもどうしてその二つなの?》


《後で分かりますよ。まあ百聞は一見にしかず、です。》


 五回目は〖触れている物を形そのままに転移する。対象は鉄のインゴット〗──台に乗ったままの鉄のインゴットに触れてソファに転移。


結果は──……一応成功。


 転移はできたものの、転移させた鉄のインゴットは転移した先でゴッと音を立てて落ちた。


 これは転移させるだけじゃなくて、ってことも意識しないと駄目だ。


 再度、ソファに落ちている鉄のインゴットに触れて、今度は置くことも意識して台に転移。


結果は成功。


無音で台に戻すことができた。


 六回目は〖触れていない物を転移する。対象は鉄のインゴット〗──今度は鉄のインゴットに触れずに手元へ転移。


結果は成功。


 手元にズシッとした重みを感じて無事転移できた。そこでふと思う、まだ触れていない花瓶も可能なのだろうか?


 七回目は〖触れたことが無い物を転移する。対象は花瓶〗──花瓶を割れないように手元へ転移させるイメージ。


結果は失敗。



 初めての失敗だ。触れたことが物は転移ができるが、触れたことが物は転移させられないらしい。



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