第26話 在智麻里の義妹の話
「というわけで今回はここまでです。長時間のご視聴ありがとうございました。」
決まりのあいさつと共に、慣れた手つきで画面共有を切る私。今回の共有プレイでも、もはや見慣れたコメントが並んでいる。大半はゲームにない光景を驚くものと、セラティナとマリーヤの濃厚な百合に舞い上がるコメント群だ。特に今回はコメント量がすごかった。一言コメントで終わるどころか、長時間に及んだ。数週間分を流した時よりも、長かったように感じる。まあ、長く感じるのはすべてのマリーヤのセリフをかみしめながら、文章送り1回ずつに時間をかけすぎたせいなのだが。
それにしても遊園地デートだ。「内部データ的にはマリーヤとのデート先はここが正解」という前世のメモに頼り、何とはなしに提案してみたのだ。それがどうだ。一言どころかたっぷりと、休暇も伸ばしてじっくり遊園地を満喫し、お化け屋敷に石庭見学、弓道体験、中央遊具を満喫したら水族館デート、しまいにはホテルで一緒にお風呂。存在しないはずの背景画像を大量に消費しながら、存在しないはずのセリフを話すマリーヤ。まるで本当に私とお義姉ちゃんで遊園地に遊びに行っていたかのようなプレイ体験に、私の情緒はわけわからないことになっていた。「マリーお姉ちゃん」ことマリーヤの中身が私の大好きだった麻里お義姉ちゃんだったとしか思えない優しさと頼もしさ、そして温かさ。在りし日によく頭を撫でてもらったり、頬ずりをしてもらったりしていたことを思い出す。大変に愛おしい追憶が脳内を駆け巡る。
もしも、私が彼女と水族館や遊園地に遊びに行ったら、きっとこのように、幸せに満ちた思い出を一緒に作ってくれたりしたのだろう。お揃いのペンダントをつけたり、水族館でお揃いのペンギンぬいぐるみを買ったり、2人で一緒に贅沢なディナーを堪能してくれたり、したのだろう。
私が過去と、ありえた未来に思いをはせる中で、なお解析組は盛り上がっている。本編マリーヤ以上に遥かにお姉ちゃんとしてセラティナを溺愛してくれる彼女の姿、そして唐突な新キャラ「弓道絡繰アオイ=ミツバ」。更には遊園地「アゼリンスキー庭園」の広大すぎる全容に、とどめに風呂スチルである。解析に加わっている元開発会社の方曰く「現状流通している正規版のソフトにそんなものはありませんが、世界観設定の時点では遊園地はこのような広大さにはなっていて、アオイも存在していました。」とのこと。そんなものを出してはいけないことは社会経験のない私でも察するが、開発会社の方は設定資料を「本コミュニティ外に出さない」ことを条件に掲載してくださった。そこには、セラティナとマリーヤが廻った多様な世界観のもとに構成された一大テーマパークの様子や、王宮、そして各キャラクターの詳細設定やコンセプトが映し出されていた。そうだとしてもマリーヤの遊園地デートがここまで濃厚なイベントになる予定はなかったらしい。
麻里お義姉ちゃんの転生体=このロムにしかいない優しいマリーヤこと「マリーお姉ちゃん」だとでもいうのだろうか。仮にそう仮定するなら作中に存在しないはずの数々のマリーヤの行為や、麻里お姉ちゃんと私の思い出をなぞるかのようなイベントがすべて説明がつくのだ。本当にマリーお姉ちゃん=私のお義姉ちゃんだと確認でき次第、私はきっとこのソフトを最悪つけっぱなしにしてしまうかもしれない。それでも、かくあってくれと思わずにはいられない程に、マリーお姉ちゃんは私のお義姉ちゃんそのものなのだ。
しかし、その確認の前に私は猛烈にかのペンギンぬいぐるみが欲しくなった。設定資料にあったモデルになった水族館は東京にあるそうだ。電車賃的にも少しお年玉貯金を崩せば行けそうなので、次の画面共有までには確保したい。あんなに甘々と、おそらくは私の愛した義姉である人に素敵な思い出を作っているような品である。私としては外せない。
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