第169話 今再びのダリアへ②

 そう言えば、マリーの結婚相手で一人思い出したのだが、ランド王国シャロロ君が、神聖教教主ヨハン22世の即位をもって離婚が成立し、新たな結婚相手を求めて、本人から書状がきていた。マリーとの事だったが、まあ、一応、丁重ていちょうにお断りした。まあ、そりゃそうだよね。あの性格じゃ〜。


 ランド王フェラード5世に確認しても、おすすめ出来ません。との事で、まあ、そんな感じだった。


 そう言えば、奥さんのブロンセさんは、離婚後、幽閉ゆうへいからは解放されたものの、女子修道院で余生よせいを過ごすようだ。さらに、シャロロ君とブロンセさんの子供は、謎の死をげていた。怖いよね~、クワバラクワバラ。





 僕達は、フルーラ率いる皇帝直属軍こうていちょくぞくぐんと共に、ミューゼンへと街道を進む。


 そして、途中、立ち止まり北の方角を見る。見えはしなかったがカール従兄にいさんが幽閉ゆうへいされていた、ブラウニッツ城の方角だった。



「カール様っすか?」


 アンディが、馬を寄せてくる。


「うん、人の運命って分からないね」


「そうっすね。事故死っすよね?」


「うん」


 自死じしではないだろう。神聖教では、自死は禁じられているし、それに状況から見て、事故死だと確認されていた。


 暗殺の可能性はあったが、まあ、無いだろうね〜。カール従兄さんを暗殺しても、良い事はない。ヴィナール公国の方々も、げんヴィナール公の行動を見て、カール従兄さんの方がましだと言う事になっていたのだった。


 まあ、結局は、そのままオルセン君が、ヴィナール公として、ヴィナール公国を治めていくことになったのだが、まあ、ヒューネンベルクさんには頑張って頂いて、ヴィナール公国を平和に保ってもらいたい。



「正直、カールケント様の賠償金ばいしょうきんを払わなくて済んでほっとしております。オルセン様は、ヴィナール公になられる前は逆に地味じみな方で、あんな方だとは、思わなかったのですが……」


 ヒューネンベルクさんは、ヴァルダにやってきて、そう、しみじみと語っていた。



 オルセン君は、ヒールドルクス公の時代は、そんな事なかったがヴィナール公になって急に派手好きに。まあ、田舎から都会に出てきてというやつかな? と思ったのだが、オルセン君、ヴィナール育ちだよな?


 まあ、良いか。


 僕は、心の中でカール従兄さんの冥福めいふくいのると、ミューゼンに向けて馬を進めたのだった。





 僕達は、ミューゼン公国へと入り、公都ミューゼンに滞在たいざいする。



「グルンハルト陛下、ようこそお出で下さいました」


「うん、ロートレヒさんも、出迎でむかえご苦労様」


「はい」


 ミューゼンにある屋敷にて、ロートレヒさんの出迎えを受ける。ミューゼンの街には人があふれ、ミューゼン公国は安定し、繁栄はんえいをむかえているようだった。



「安定しているようだね」


「はい、おかげさまで」


 おかげさまでじゃなくて、これもひとえに、ミューゼン公となったロートレヒさんによるものだろうね。



「ところで陛下、この度のダリア遠征。私も同道どうどうさせて頂けませんでしょうか?」


「えっ、ロートレヒさんが?」


「はい」


 うん、まずは、ダリア遠征ではないのだが、これはあくまでも、ロマリアにクレメントさんの意志を届けるのが目的だった。


「今回は、遠征じゃなくて、私用しようだからね、大丈夫だよ」


「私用ですか?」


「そう、クレメントさんから頼まれた物をロマリアに届けるのが、目的だよ」


「そうですか、先代教主様の……。かしこまりました。ですが、何かありましたら、このロートレヒ、飛んで行きますので」


「そう、ありがとう」


 随分ずいぶんしたわれたな、僕も。





 ミューゼン公国を出ると、さらに南西に向かった。その先にあるのは、ハウルホーフェ公国だった。故郷こきょうハウルホーフェ。だけど、すでにボルタリア王国での生活の方が長くなっていた。



 で、今回の目的は、前回は冗談じょうだんだったが、コーネルや、お父様、お母様のお墓参りが目的だった。


 コーネルは、フルーゼンの教会に、お父様お母様は、ハウルホーフェ城の教会に埋葬まいそうされていた。



「グルンハルト陛下、わざわざ父のためにありがとうございます」


「うん、コーネルには、お世話になったからね~。代官として、ハウルホーフェも任せっぱなしだったし、感謝しかないよ」


「そうですか。父も陛下のその御言葉を聞いて、喜んでいると思います」


「そうかな?」



 現在、ハウルホーフェ公国の代官は、アンディのお兄さんがやっていた。シュテファンをハウルホーフェ公になんて、話もあったのだが、アンディのお兄さんが代官で上手くやっているのだから、そのままでと考えて、一応、僕が、ハウルホーフェ公という事になっていた。だが、アンディのお兄さんに、任せっぱなし。



 そして、アンディのお兄さんなのだが、アンディのお兄さんの方が、コーネルに外見が似ていた。アンディは、お母さん似なのかもしれない。


 そして、とても真面目まじめな方のようだった。ハウルホーフェ公国は、発展はってんもしないが、経済的にも、政治的にも安定し、平和な田舎いなかの小国であった。


 まあ、ツヴァイサーゲルドの出入り口として、往来おうらいが増えて若干じゃっかんはフルーゼンの街はにぎやかになったような気がする。



「陛下のダリア遠征以来、フルーゼンの宿屋が増えて、街も賑やかになりました」


「そう」


 宿屋が増えて、ダリア商人や、マインハウス南部の商人や、旅人が宿泊し、お金を落とし、街は豊かになっているのだろう。


 後は、いちを開き、商品の売買をすれば、より一層いっそうの発展も見込まれるのだろうけど、そこは、近くに、ミューゼンという大きな街がある。難しいのだろうね。



 僕は、新しい可愛かわいらしい色とりどりの家々を見つつ、教会に向かう。教会も、大きくはない教会だが、フルーゼンらしい、綺麗な教会だった。


「コーネル、ハウルホーフェは変わらないね〜。安心して、安らかに休んでいてね」


 そう、報告したのだった。



 そして、続いては、お父様お母様だが。


 僕達は、小高い丘の上にあるハウルホーフェ城に向かった。ハウルホーフェ城は、住む者もいない城だったが、教会だけは、フルーゼンの街の方々もお祈りに来るので、使われていた。


 どうも貴族や騎士、そして、商人の方々は、ハウルホーフェ城の教会を好むのだそうだ。理由は、立派だから。


 石造りの大きなハウルホーフェ城の一角いっかくが、教会となっているのだ。僕も、ハウルホーフェ時代は、ここで、お祈りをした。司祭様は、数代すうだいも変わり、今の方は良く知らない。



 そして、祈りをささげると、お父様お母様に報告する。セーラがランド王妃おうひになった事とか、カール従兄さんの死とか。後は、またダリアに行くこととか。


「どうか、どうか、今回は、戦いになりませんように、お見守みまもりください」


「そんなの無理でしょ」


 お母様にそう言われた気がしたが、気のせいだろう。





 こうして、ハウルホーフェの街を離れると、ツヴァイサーゲルド地方に向かったのだった。



 まずは、アルトトルフという街で、民主同盟の新しい代表者の方と挨拶あいさつを交わす。アルテンス・テユディという方だった。


 元々、民主同盟の街の代表者の一人だったが、タイラーさんの政治面でのサポートをしていて、そのまま代表に押し上げられたそうだ。


「ぐ、グルンハルト陛下に、お、おかれましては、お日柄ひがらも良く……」


 もう、何を言ってるか、分からない。


「まあ、そんな緊張しないで、リラックスリラックス」


「そ、そのような……」


 まあ、挨拶だけだから良いか。



 そして、別の街に。


「そうですか。いやっ申し訳ありません、陛下」


「大丈夫なのかな?」


「それは、大丈夫と思います」


「そう」


 僕は、民主同盟の元代表タイラーさんのお見舞いに来ていた。いやっ、お見舞いってほどじゃないか?


 タイラーさんは、年齢を理由に民主同盟の代表を退き、隠居いんきょしていたのだった。


 タイラーさんは、元ただの猟師りょうし。しかし、ある事件で英雄と呼ばれ、民主同盟の盟主めいしゅにまつりあげられると、意外な才能を発揮し、ヒールドルクス公国との戦いで勝利。独立を勝ち取っていった。今や、ツヴァイサーゲルド地方の東半分は、ほぼ民主同盟の領土だった。


 残りの西半分も、色々な小領主と独立を目指す都市とがいたり、たまに戦いになっていた。


「タイラーさん、引退か〜」


 僕が、そう言うと、タイラーさんは、僕の言いたかった事を察したように。


「民主同盟の歴史は変わったのでございますよ、戦いの歴史は終わったのです」


「そうかな〜? 西側は、どうするの?」


「ハハハハハ、それは、彼らが決める事、我々はどうも致しませんよ」


「そうか~。だったら、あの代表さんで、良いのか」


「はい。戦うよりも、経済的に発展し、安定した国となるのは、彼のような人間じゃないと無理なのですよ。私のように、猟師出身で戦うことしかできない人間では駄目なのですよ」


「ふ〜ん」


 なるほどね〜。どうやら民主同盟は、国となりつつあるようだ。民主同盟は、都市の連合体。そのまとめ役が代表なのだろう。


 タイラーさんの時代は終わったか〜。ちょっと寂しい気もするね。





 タイラーさんに別れを告げ、僕達は、本格的な山の中に入る。


 すると、マリーが、


「そう言えば、お兄様も、ダリアにおりますわね」


「えっ、そうだっけ? 面倒めんどうくさいな〜」


「自分の息子に面倒くさいな〜、はないでしょ」


 エリスちゃんはそう言うが、エリスちゃんだって、マリーに計算高いって言ったじゃんね~。


「ですが、まあ、お兄様はこちらには来れないと思いますよ」


「そう?」


 マリーの方が、事情に詳しそうだった。


「ええ、エローラ侯国こうこくの救援なのですが、苦戦しているようですし」


「そうか~、エローラ侯国ね〜」



 エローラ侯国は、皇帝派の国だが、周囲に教主派に囲まれるように国があった。そして、しぶとく生き残っているのは、教主派の有力な領主を領内に囲っているからだ。


 教主派が優勢な時は、エローラ侯は大人しくしていて、皇帝派が優勢な時は、エローラ侯は、積極的に拡大路線を見せる。


 そして、今は、ジークに援軍を頼み、積極的な拡大路線なのだろう。



「それでか〜。それで、北部の諸侯は、居ないんだね」


「ええ、そうだと思いますわ」


 オーソンさんからの報告で、ヴィロナ公ガンバーリさんや、ゼニア共和国元首アリオーニさんは国にいるが、北部ダリア諸侯はいないという報告を受けていた。



「という事は、このままヴィロナに直行で良いね」



 僕達は、一路いちろ、ツヴァイサーゲルドの山を越えて、ダリア地方に入り、ヴィロナに向かったのだった。

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