第97話 ワーテルランド動乱③

 オースチローでは、チルドア候ヤンさんによって歓迎会があった。そして、それをこそっと抜けて、街に出てプラツキー専門店へ。


 プラツキーは、すりおろしたジャガイモと小麦粉を混ぜて焼いた物だった。トッピングによって、味を変えるような感じだった。


 野菜だったり、肉だったりをのせて巻いて食べる。さらに揚げたり、バターで焼いて砂糖かけたり。うん、美味しいけど、専門店はさすがに飽きる。


 僕と、アンディ、ガルプハルトと出かけて、それぞれ1枚頼みシェアして食べた。その後、揚げたプラツキーと甘いプラツキーを食べて帰ってきたのだった。


 いや、美味しかったよ。美味しかったけど、ピルスナー飲みながら、色々食べたかったな〜。



 戻ると、まだ、歓迎会をやっていた。


「グーテル、どこ行ってたんですか?」


「プラツキー食べに街に」


「そ、そうですか……」


「トンダルも来たかった?」


「いえ、私は大丈夫です」


「そう」



 チルドア候国軍が加わり、総兵力は24000となっていた。



 国境を越え、ワーテルランド王国に入る。まあ、元々チルドア候国自体も、ワーテルランド王国の土地だったのだが、12世紀頃にボルタリア王国の傘下となったのだった。



 そして、ボルタリア軍は、ウリンスク諸侯の中心地、カドベルへと入ったのだ。



 さて、カドベルの名物料理は何かな? って、違う!



 カドベルでは、ウリンスクの諸侯が待っていた。ウリンスクの諸侯と言っても、3名。それぞれが親戚同士で、さらに、全員が公爵であるという。元々はウリンスク公国という大きな公国だったのが、兄弟に分割統治されて、小さい公国になり、さらに一部チルドア候国に吸収されたという。


 残ったのは、そこそこ小さな公国3つ。レグニス公国、カニミュ公国、ガドベル公国だった。これでは、全軍動員したって、どうも出来ない。


 えっと、あまり言ってはいけない事だが、ワーテルランド王国の誰かが、ウリンスクに攻め込んでくれたら、軍を起こせるなと考えていたのはないしょだよ。



 僕を出迎えてくれたのは、ガドベル公コロートさんだった。御年68歳。


「いや〜、ようこそお出で下さいました〜。グーテルハウゼン卿。お祖父様には、大変お世話になりました〜。あれは、そうですな~。1241年でしたかな〜……」


 いや、話長い、終わらない、こっちが喋れない。それに1241年って、お祖父様、何歳だ? それに1241年って、ウルシュ大王国の侵攻の年だよな~。



 コロートさんは、場所を変えて、さらに話し続けた。話は、ウルシュ大王国の侵略の話だった。


「お祖父様は、単騎たんきウリンスクまで来られましてな。いや、援軍にというわけではなく、ウルシュ大王国の噂を聞き、その戦いを見たいという事でした。そして、わしとお祖父様は、共にウルシュ大王国と、わしの父との戦いを見る事となったのじゃ」


「うんうん」


 いつの間にか、コロートさんの話を聞いているのは、僕だけとなっていた。トンダル呼ぼうかな?



 コロートさんの話は、ワーテルランド王国と、ウルシュ大王国の戦いの話となった。


「ウルシュ大王国軍2万、ワーテルランド王国軍2万4千と傭兵騎士団6千を合わせた3万の戦いとなった。じゃが、グーテルハウゼン卿もご存じのとおり、ワーテルランド王国もマインハウス神聖国と同じ編成じゃった。ワーテルランドの騎士は8千、それに、傭兵騎士団の騎士6千合わせて1万4千。残りは農民や猟師による歩兵や弓兵じゃ。それに対して、ウルシュ大王国は全軍騎兵じゃった。まあ、重騎兵、軽騎兵、そして弓騎兵という編成じゃったがの」


「軽騎兵と弓騎兵?」


「ああ。軽装で素早く動き回る騎兵と、弓を放つ騎兵じゃな」


「ふ〜ん」


「戦いは、一方的な、ワーテルランド王国軍の惨敗ざんぱいじゃった。そして、父も死んだ」



 コロートさんの話によると、戦いは騎兵同士の激突で始まった。ワーテルランド王国の重騎兵6000と、ウルシュ大王国の軽騎兵4000の突撃。当然、勝負にならずウルシュ大王国の軽騎兵はあっという間に蹴散らされ、バラバラに味方の方に逃げる。


 すると、遠く左右に別れ布陣していた、ウルシュ大王国の軽騎兵が動き始める。だが、攻撃するわけではなく、戦場を走り回り、煙をき。ワーテルランド王国軍の視界を閉ざさせた。


 あわてて、ワーテルランド王国軍の残りの重騎兵が援軍として、煙の中に入り、ワーテルランド王国の重騎兵は1万あまりとなった。


 まあ、その後は煙の中で戦闘は見えず、生き残った騎士の話だそうだが。追撃したワーテルランド王国軍の重騎兵は、逃げた軽騎兵を追撃したが、敵陣に近づいたところで、軽騎兵は反転、攻撃を再開すると同時に、左右から弓騎兵による一斉射撃を受ける。さらに、走り回っていた軽騎兵に背後から突撃を受ける。


 しかしながら、ワーテルランド王国の重騎兵は馬にも鎧を着せている。問題無いように思われたが、ウルシュ大王国の弓騎兵は、正確に馬だけを狙ってって、徐々に倒れる馬が出てきた。


 さらに、前後から素早く軽騎兵が突撃を繰り返す。一撃離脱いちげきりだつ戦法だった。そして、ワーテルランド王国軍の重騎兵の動きが止まる。


 すると、ウルシュ大王国の重騎兵が突撃してきて、動けなくなったワーテルランド王国の重騎兵を蹂躙じゅうりんする。これで、勝負は決まった。


 ある程度蹂躙すると、ウルシュ大王国軍は、全軍で、残りのワーテルランド王国軍を攻撃。煙の中から逃げてくる味方の後方から、襲いかかるウルシュ大王国軍の騎兵。


 慌ててワーテルランド王国軍も反撃するものの、敵わず逃亡。背後からの執拗しつようなまでの追撃で、多くの死者を出したそうだ。この戦いでワーテルランド王国連合軍の中で、一番多く生き残ったのが、ワーテルランド王国の重騎兵だったそうだから、どれだけ執拗だったかが、分かるだろう。



「このような戦いじゃった。いかがかな?」


「ありがとうございました。そうか、お祖父様も、この戦いで学んだのか……。ウルシュ大王国を倒すには……」


「グーテルハウゼン卿?」


「ブツブツ……」



 その後、コロートさんが去っても、その場でブツブツとつぶやく、グーテルの姿があった。


「軽騎兵か〜、軽騎兵ね~。重装歩兵が主力になるのか。う〜ん?」





「では、この先の状況をお聞かせください」


「は、はい、王太后おうたいごう様」


 ボルタリア王国王太后であるレイチェルは、グーテルハウゼンと、ガドベル公コロートが何やら話し込んでいる間に、この先、ワーテルランド王国の国内の状況を聞くために、残りのウリンスクの諸侯を呼び出して聞いていた。



 出席者は、ボルタリア王国側からは、王太后レイチェル、外務大臣ヤルスロフ、軍務大臣デコイラン、マリビア辺境伯リンジフ、チルドア候ヤンの5人。


 そして、ウリンスク諸侯として、レグニス公ポルナレフ2世、カニミュ公ベンナートが参加していた。そして、主に、レイチェルと、ベンナートが会話していた。



「今、王都クラーコフは、旧国王派が押さえてます。しかし、反国王派だったクロヴィス公バルデヤフが、軍を率いて王都クラーコフに進軍しております」


「そうですか。では、急ぎませんと」


「はい、ですが。その国王派内に大軍を率いて王太后様が来られた事に、不信感を持っている者が多く……」


「そうですか……。ボルタリア王国軍を率いてとは、グーテルハウゼン卿の考えだったのですが……」


 そこで、ヤルスロフが、口を挟む。


「グーテルハウゼン卿は、国王派の一部も排除はいじょしようとしておられるのでは?」


「排除ですか? そんな過激な事、考えるでしょうか?」


 レイチェルが、小首を傾げる。


「さあ?」


 結局、グーテルハウゼンの居ない会議は結論の出ないまま、お開きとなった。



 そして、翌日。ボルタリア王国軍は、予定通り、ワーテルランド王国王都クラーコフに向けて出発した。王都までは、80kmほどだった。



「グーテルハウゼン卿」


「はい、王太后様、何でしょう?」


「昨日、ウリンスク諸侯に聞いたのですが、私達が、大軍を率いて王都クラーコフに向かっている事に、国王派の一部が不信感を持っているそうなのですが」


「そうですか」


「はい、このまま向かえば、小競こぜり合いなど、起きるのではないかと」


「起きませんよ。こちらは、相手の2倍以上です。今のワーテルランド王国にボルタリア王国と戦う力は、ありません」


 まあ、元々ワーテルランド王国自体は、ボルタリア王国よりも人口は多いし、動員どういん兵力自体は多かった。しかし、現在は分裂状態にある。


「そうなのですか?」


「逆に、国王陛下が生きておられれば、もし、他国が攻めこんでくるともなれば頭を下げてでも、ワーテルランド王国の兵を、糾合する力があったのですが、今はそれもないかと。まあ、クロヴィス公でしたっけ? が、力をつければ分かりませんが」


「そうなのですね。分かりました。では、行きましょう」


「はっ!」



 というわけで、出発したのだった。軍はゆっくり進み、翌々日の朝、王都クラーコフに近づき郊外に駐屯する。ボルタリア王国軍27000という大軍に王都クラーコフは、大混乱となっているようだった。



 だけど、住民が混乱する前に、僕達はゆっくり近づいていたのだ、自軍を布陣させるなり、使者を送って来るなり対応すれば良いのにと少し思った。


 だいいち、ヤルスロフさん始め、使者を送って、ボルタリア王国軍で治安の回復をしますと言っているのだ。それに対して、何かしらの対応をするべきだったろう。まあ、断られても向かうつもりではあったが。



 レイチェルさんに許可をもらい、こちらから王都クラーコフへと使者を送る。すると、戸惑とまどいつつ、使者が帰ってくる。そして、開口一番かいこういちばん


「どうぞ、入城くださいとの事です」


「はい?」


 いや、普通だったら、さすがに条件をつけて入城するべきだ。


 これは、どうしたのだろう?



 僕は、レイチェルさんと話をする。


「どうぞ、ご入城くださいとの事です」


「はい?」


 レイチェルさんも、意味が分からないという顔をする。


「もしかしたらですが、すでにほとんどの諸侯は、自国に戻っているのかもしれません」


「父上が、亡くなったのにですか?」


「はい。国王陛下が亡くなってしまったからかもしれませんが」


「そうですか……」


 僕は、王都の茶色の城壁を眺める。まだ、新しい。ウルシュ大王国によって崩された城壁をバラミュルさんは、綺麗に直したのだろう。


「とりあえず、入城しましょう」


「そうですね」



 僕達は、ワーテルランド王国王都クラーコフに、入城したのだった。

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